毎年、3月8日の国際女性デーには、政府の男女共同参画相が「国際女性の日に寄せて」というメッセージを発表する。今年は丸川珠代氏の言葉を聞くことになる。
丸川氏は自民党所属の県議会議長らに、選択的夫婦別姓制度導入の意見書に賛成しないよう求める文書を連名で送っていたことが明らかになった。平等な社会の実現を目指す動きに、冷水を浴びせた人だ。少しずつ前に進んできた男女平等への歩みを、丸川氏はどう捉え、何を言うのだろうか。(女性史研究者・江刺昭子)
政府の担当相が女性デーにメッセージを公表するようになったのは、長い女性解放運動の歴史の中ではごく最近のことだ。国際女性デーを提唱したクララ・ツェトキンの研究者、伊藤セツ氏の『国際女性デーは大河のように』(2019年増補版)に基づいて、流れを振り返りたい。
戦前の日本では、国際女性デーは女性社会主義者の主張と見なされ、政府は一貫して記念行事を阻んできた。
敗戦から1年半、1947年3月9日に「女性を守る会」が提唱して、日本における戦後最初の国際女性デー(当時は「国際婦人デー」)が皇居前広場で開催された。50年には、国際婦人デー実行委員会が日比谷野外音楽堂で中央大会を開き、1万人が参加する。
以後、今日まで中央大会は連綿と続いている。また地方の実行委員会も、時代に応じたスローガンを掲げながら集会を開いてきた。これらは社会主義女性たちの戦前からの運動を引き継ぐもので、革新政党と市民団体による女性運動といえる。
一方、1947年に国は、女性が初めて参政権を行使した4月10日を「婦人の日」(のち「女性の日」と改称)とした。市民運動と政府の対立は長く続いた。
国際女性年の1975年、国連が動き、3月8日を記念日とした。さらに77年の国連総会で「国連デー」として議決する。ただし「各国の歴史的、民族的伝統、および慣習に従って、1年のいずれかの日を女性の権利と国際平和のために、国連の日と定めること」とし、各国の事情にも配慮している。
これがエポックとなり、3月8日前後に各国でさまざまなイベントが行われるようになったが、日本政府は77年の国連議決を棄権、無視し続けた。
日本政府に動きがあったのは2010年の民主党政権時代。3月5日に福島みずほ少子化・男女共同参画相が「国際女性の日に寄せて」というメッセージを男女共同参画局ホームページに発表。この年は、中央大会だけではなく、市民グループが呼びかけた「東京ミモザパレード」もニュースになった。
国連総会でも同年「UN Women(国連ウィメン)」が設立され、のち日本にもNPO法人の国連ウィメン日本協会ができて、女性センターなどと共催事業を行うようになる。
自民党政権に戻ってからも、毎年3月8日に男女共同参画担当相が「国際女性の日に寄せて」というメッセージを発表するのが慣例になった。有村治子氏(15年)と片山さつき氏(19年)も担当相のとき、メッセージを寄せている。だが、丸川氏だけでなくこの2人も、冒頭に示した選択的夫婦別姓制度で地方議員の意思表示を阻止しようとした。どうしたことか。
有村氏は女性デーのメッセージで「各々の希望に応じ、女性が、家庭や地域においても、職場においても、個性と能力を充分に発揮できる社会を目指しています」と述べ、片山氏も「全ての女性が、自らの希望に応じ個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することは、我が国の最重要課題の一つ」と積極的に見える。だが、夫婦同氏の強制が女性の自立と活躍をはばんでいることは、認めない。
政府・自民党の国際女性デーへの取組みは、このように本気度を疑わせるが、民間では近年、「#MeToo」運動などが広がるなか、政党にも宗教にもこだわらない団体やグループが、平等で多様性ある社会に向けて活発に動いている。
前米大統領のトランプ氏が女性や性的少数者、有色人種に対して差別的発言を繰り返したのに抗議して米国で17年に始まったウイメンズマーチ(女性大行進)は、日本でも3月8日に行われていて、今年も実施予定だ。
長い歴史を持つ女性デーの中央大会。今年はオンラインだが、早稲田大名誉教授の浅倉むつ子氏が「ジェンダー平等を目指して」と題して講演するほか、海外からのメッセージや国内の取組みが紹介され、アピールが採択される予定だ。
2019年からは東京証券取引所で「女性活躍のための打鐘セレモニー」が行われるようになり、企業の取り組みも目立ってきた。しかしよく見ると、単なる商品の宣伝販売にすぎなかったり、花やお菓子を贈る日といった捉え方だったり、国際女性デーの趣旨を理解していないと思われる企画も少なくない。ジェンダー平等と世界平和を希求する国際的な連帯の日であることを忘れないでほしい。
いまコロナ禍で非正規・不安定雇用の女性が追い詰められている。つながりを失った家庭で、女性へのDVや虐待が激化していても、周囲には見えない。女性や若者の自殺が増えているとも、報じられてる。
女性に関わる状況の深刻化は、子どもや障害者ら社会的弱者の生きづらさと底を通じている。国際女性デーを、そのような社会的弱者について知り、連帯し、行動を起こす機会にしたい。だれよりも、このことを主管する男女共同参画担当相に、それをお願いしたい。
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