認知症予防のための補聴器購入助成の取組が新潟県内5市町村に拡大

左から、日本耳鼻咽頭科学会新潟県地方部会の大滝一理事と堀井新会長、新潟大学耳鼻咽頭科講師の森田有香氏

日本耳鼻咽頭科学会新潟県地方部会では、県内における認知症対策として、県と県内30市町村へ補聴器購入費用助成制度化の要請活動を行っており、1日にはこの活動の周知のため、同部会の堀井新会長と大滝一理事、新潟大学耳鼻咽頭科講師の森田有香氏が記者会見を開いた。

国内の超高齢化が進むに伴って認知症患者の増加も深刻な問題となっており、2025年には国内の認知症患者は730万人、新潟県内では15万人に登ると予想されている。認知症発症の要因としては、喫煙や社会的孤独など以上に、中年期の難聴の可能性が高いという研究が提出されているという。

1989年から25年に渡り行われたフランスのボルドー大学の追跡調査では、難聴者は正常聴力者に比べて認知症の進行が顕著であることや、補聴器により認知症進行が抑制されるという結論が出されている。認知機能低下と難聴の具体的な関連性については様々な説があり、明確なメカニズムは解明されていないが「難聴により常に音声を聞くことに意識が集中し、他の知的活動に抑制がかかるという“認知負荷説”の可能性が現在は強力」だと森田氏は話す。

こうした理由から、日本耳鼻咽頭科学会新潟県地方部会では2019年から「認知症予防のための補聴器助成」に向けた取り組みを開始、県内30市町村担当部への要請や、新潟市議会での勉強会の開催、県福祉保健部の松本直樹部長への陳情などの活動を続けている。

耳の日 市民公開講座のポスター

取り組みの結果、2020年4月から三条市阿賀野市聖籠町刈羽村の4市町村で補聴器への助成が制度化。2021年4月からは、見附市でも開始される予定である。中でも阿賀野市ではすでに37人が助成制度を利用しており、また地元医師と補聴器利用者の協力により、聴覚リハビリと認知機能・うつ症状の関係の関連性の研究が行われている。

堀井新会長は「難聴と認知症が本格化する70歳から80歳代ではなく、45歳から65歳の時期に軽・中程度難聴をケアすることで認知症を予防できるが、中年期の難聴は自覚が少なく、また補聴器を導入することに消極的な人が多い。(助成金で多くを補える)安価な補聴器を使ってもらうことで認知症の予防ができ、また自治体にとっても医療費の削減に繋がる」と話す。

日本耳鼻咽頭科学会新潟県地方部会は3月3日の「耳の日」にちなみ、14時より新潟ユニオンプラザにて、聴覚と認知症に関する市民公開講座を開く予定である。なお、入場料や事前予約などは不要である。堀井会長は「県が音頭をとって取り組みを広げてもらわないとなかなか進みにくいが、見附市も加わり徐々に広がりを見せている。今後、助成を行う自治体が10を越えれば、市民から自治体への要請も増加してこの取り組みが加速していくと考える」と期待を示した。

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