米長期金利が上昇しても2021年株式市場の強気は崩れない3つの理由

2月の世界の株式相場は、新型コロナの感染沈静化や、ワクチンの接種が広がりなどを受けて、月半ばにかけて堅調な推移を辿りました。しかし、米長期金利上昇への警戒感が強まると、月後半はやや軟調な展開となりました。

そして、米10年国債利回りが1.5%を超えたところで、株式市場は一気にリスクオフに傾き、2月26日の日経平均株価は前日比1,200円以上、下落しました。それまでの急ピッチな株価上昇で、株式に割高感が指摘されていたタイミングで、米金利の上昇が下落の引き金を引いたかたちです。

とはいえ、現段階では株式市場の参加者は比較的、冷静さを保っているように見受けられます。米金融当局がすぐに金融緩和政策の方針転換を図るとは考えにくく、過度な金利上昇には適切に対応していくと見られるためです。今のところ、米10年国債利回りが上昇し続けるリスクは限定的と考えられます。

依然として、新型コロナの感染沈静化と、それによる経済正常化のシナリオは不変です。また、米国で昨年末の景気対策に続く追加の景気刺激策が、バイデン新政権のもと、導入に向けて粛々と準備が進められていることも相場の支援材料です。

他方、企業業績は実績の好調さもさることながら、先行きの見通しも順調に切り上がってきています。それが、予想PER(株価収益率)のような投資指標面での相場の過熱を抑え込んでいると判断されます。

今回の金利上昇のような株高の前提になっている諸条件の変化には十分注意する必要はありますが、相場のトレンドを逆向きにしてしまうほどの強力な不安材料は特に見当たりません。当面の株式市場では、再び高値を目指す相場展開になることが予想されます。


実績好調な企業業績

10~12月期の企業決算を振り返ると、日米ともに実績は良好であったと総括できます。米国については、S&P500ベースの当該四半期の増益率(前年同期比)が2/26時点で+4.2%と、4四半期ぶりに増益に転じました。決算発表シーズン直前の市場予想では、10%を超える減益が想定されていただけに、大幅な上振れ着地といえます。

一方、日本については、大和証券が集計対象とする主要上場企業171社(金融および通信を除く)の経常利益が前年同期比で+8.9%となりました(2/12時点)。こちらも4四半期ぶりの増益であり、製造業を中心として、足元の業績に明るさが戻りつつあることを示しています。

こうした日米企業業績の良好な実績は、先行きの見通しに対する期待を高め、市場の業績予想の改善につながっています。また、米国では今後も大規模な景気対策の発動が、企業業績拡大の追い風となる可能性があります。

米国に後れを取る形で回復してきた日本については、業績回復のポテンシャルも、その分大きいといえるかもしれません。いずれにしても、12ヵ月先までを見越した日米の予想利益(EPS)は、着実に切り上がってきていることは事実です。

株式市場の一部では、短期間での株価上昇に過熱気味との警戒感がくすぶっているようですが、ファンダメンタルズの改善に支えられた現在の株高に、そこまでの割高感はないように思われます。

12ヶ月先予想EPSをもとに計算した日米の予想PERは、米国(S&P500ベース)が21倍台で、日本(TOPIX)が17倍台です。昨春のコロナショック後の予想PERの推移から考えて、レンジ上限としては、それぞれ23倍台半ば、18倍強あたりに一つの目安が置けそうです。

その上限を大きく超えて株価上昇が続くようなら、いよいよ相場の過熱を意識する必要がありそうですが、現状ではそこまでに至っていません。相場急落で株式市場がいったんクールダウンしたことを考えれば、なおさらです。当面は、市場の業績予想の切り上げが、予想PERの上昇を抑え込むと見られ、足元の株価水準は十分に正当化されるでしょう。

米長期金利が上昇しても、慌てる必要はない

以前から、株式市場にとっての主要なリスクと指摘してきた米長期金利の上昇ですが、2月最終週には米10年国債利回り(名目金利)が、一時1.6%台まで上昇しました。ただ、今のところは株式市場でそれを憂慮するような雰囲気はありません。

先述のとおり、米金融当局による適切な対処が期待される、というのが一つの理由ですが、名目金利から期待インフレ率を引いた実質金利は未だ低位にある、ということがもう一つの理由です。

実質金利が比較的、低水準を保っているのは、名目金利が上昇すると同時に、期待インフレ率が上昇しているためと解釈されます。米10年国債市場に織り込まれた期待インフレ率は、足元で2%を超えてきており、その結果、実質金利の上昇は抑え込まれているのが現状です。

米国株の予想PERは基本的には実質金利に反比例する傾向にあり、実質金利が上昇すると、予想PERの低下を通じて株価は下落する可能性があります。しかし、それは裏を返せば、実質金利が上昇しない限り、予想PERの大幅な低下は見込まれないということになります。

一口に長期金利の上昇といっても、それがインフレ期待とともに10年国債利回りが切り上がる分には(すなわち、実質金利が急上昇しない限りは)、さほど問題とはならないでしょう。

中国の全人代に注目

中国で最も重要な政治日程の1つである全人代(全国人民代表大会)が、3/5から北京で開催されます。そこでは、経済政策の基本方針となる2025年までの新たな「5か年計画」と2035年までの長期目標について話し合われる見通しです。

一方で、2021年の短期の成長目標については、昨年と同様に具体的な数値が示されないとする見方もあります。中長期の中国経済は、内需拡大を基本に世界経済とも連携する「双循環」戦略を推進していくことが明らかにされていますが、その詳細が今回の全人代でどのようなかたちで発表されるか注目です。

環境政策のように、投資テーマに直結するポイントもさることながら、米国との経済的な衝突を避けつつ、中国がどのような中長期の成長シナリオを掲げるかは世界中の市場参加者が関心を寄せるところです。

3月の株式市場では米国に加えて中国の経済対策への期待から、リスクオンムードが醸成されやすいと考えられます。その結果、年度末に向けた株式相場は強基調を維持することが想定されます。

景気敏感株の物色が続く可能性も

2月の世界の株式市場では、景気敏感株の物色が鮮明となりました。今後の展開をイメージすると、しばらく景気敏感株の物色が継続しそうです。先述のとおり、新型コロナの感染拡大が一服する中で、ワクチン接種の広がりは、景気回復の思惑を先行させやすいとみられるためです。

また、米国での追加経済対策の成立に向けた動きは、同様の効果をもたらすと考えられます。これまでは、ハイテク株の上昇に依存するかたちで上昇してきた株式相場でしたが、これからは景気敏感株の挽回による底上げによって、市場全体がもう一段水準を切り上げる可能性があります。

「全員参加型」の相場上昇で、NYダウの3万ドルや日経平均株価の3万円は一つの通過点として位置付けられるかもしれません。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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