おひとりさま・一人暮らしの終活。どんな備えが必要?

自分の意思にかかわらず、誰でも「おひとりさま」になる可能性があります。「おひとりさま」になったとき、いずれ直面する課題が「終活」です。認知症や孤独死、自分が亡くなったあとの葬儀や相続で周りの人が困らないために、どのような備えが必要なのでしょうか。


佐藤タカコさん(仮名、67歳)は、5年前にご主人を亡くしました。子どもは遠方に住んでいるため、今は、ご主人とともに過ごした家で、ペットの犬と住んでいます。俗にいう「おひとりさま」です。

「おひとりさま」という言葉を聞いて思い浮かぶのは、どんな人物像でしょうか?

・生涯未婚の人
・離婚した人
・配偶者が亡くなって現在一人暮らしをしている人
・家族はいるが遠方に住んでいる人
・ある程度の年齢で一人暮らしをしている人

「おひとりさま」の言葉はかなり曖昧に使われ、人によってとらえ方が変わる言葉かもしれません。上記をすべて「おひとりさま」の意味として考えるとすると、ほとんどの人が自分で望む、望まないにかかわらず「おひとりさま」になる可能性があるということです。

「おひとりさま」になったら考えなければならないこと。一人暮らしをしていて不安なこととはなんでしょうか。タカコさんには、3つの不安がありました。それは、

(1)自宅で突然亡くなってしまう孤独死
(2)亡くなった後のこと
(3)生きている間をよりよく幸せに過ごすための備え

ということでした。

「孤独死」を防ぐためには?

「自分が突然家で死んで誰にも見つけてもらえなかったら……?」

年齢に関係なく「孤独死」を不安に思っている方も多くいらっしゃると思います。一般社団法人日本少額短期保険協会「第4回孤独死現状レポート」によると、自宅で一人で亡くなった人が発見されるまでの時間は、3日以内が4割程度、4日以上が6割程度を占めています。

タカコさんには子どもがいますが、遠方に住んでいるため、頻繁に様子を見に来ることができません。しかし、タカコさんは長年自宅に住んでいるため、ご近所さんとのお付き合いがあります。もしものときのために、ご近所さんに「『ゴミ出しをしているのを見かけない』『一日中電気が点いている』『電気が点いていない』などがあった場合、子どもに連絡してね」などとお願いしておくと良いかもしれません。

また、タカコさんは、犬を飼っています。実際、孤独死の現場でペットが残されているケースも少なからずあり、ごはんをもらえなくなったペットが餓死するということも起こっています。ペットを守るためにも対策をしておきましょう。

一人暮らしの男性の場合、定年退職して家にいることが多くなると、社会とのつながりがなくなり孤独になるケースが多くあります。外部との関わりを持つため、地域の行事やカルチャーセンターなどに参加するなどしてみることをお勧めします。人とのつながりが安心に変わるのです。

民間では、家庭用の電気製品に開け閉め確認センサーをつけたり、電気製品の使用状況を家族にお知らせする機能を持たせたりして遠方から安否確認をできるサービスがあります。多くの自治体も孤独死防止対策に取り組んでいます。積極的に活用してみましょう。

亡くなった後の諸手続きへの備えは?

タカコさんはご自身が亡くなったあと、家や財産などの処分や諸手続きで遠方にいる子どもに手間をかけさせたくないため、できるだけ頼りたくないようです。では、それに対してどのような備えをしておけばよいのでしょうか。

例えば「死後事務委任契約」というものがあります。自分の死後の手続きについて任せられる人(友人、知人、専門家等)と生前に契約をしておくことです。契約なので、依頼事項は自由に決められます。葬儀、埋葬、納骨、健康保険や年金の資格抹消手続き、病院や介護施設の退院、退所手続き等を依頼することができます。

タカコさんの場合、葬儀埋葬はお子さんにお願いするとしても、それ以外の諸手続きのたびに遠方から通ってもらうことは申し訳なく思っています。子どもの負担を減らすためには、葬儀埋葬以外の手続きについては近くの人にお願いすることが選択肢に入ってくるかもしれません。

体が動かなくなった時や認知症に備えるには?

心も体も健康なことが一番です。

タカコさんは、これまで元気に動き回ることができていますが、今後、足腰が動かなくなってきたり、病気になって寝たきりになった時や、認知症を発症したときのことが気がかりだと言います。病院や施設入所の手続きなどの契約や、銀行に行き預金の引き出しなどを自分でできなくなることが心配なのです。

この心配も、元気な時に前もって「財産委任契約・任意後見契約」を任せられる人(友人、知人、専門家等)と結んでおくことにより、なにか起こっても安心して生活できる環境を自分で作っておくことができます。

残された人たちの手間と負担を最小限に抑えたいと思っているのであれば、もう少し準備をしておきましょう。

遺言書・エンディングノートの作成は必須

おひとりさま・一人暮らしの方に、準備しておいていただきたいのが、遺言書とエンディングノートです。

遺言書は、財産を誰に引き継ぐのかを書き記すものです。法律上有効にするために、書き方には決まりがあります。書き方が間違っていると無効になることもありますので、専門家に相談することをお勧めします。

遺言書というと、「遺産争いを防ぐために作る」というイメージがあるかもしれませんが、「お世話になった人に財産を渡したい」「お世話になった施設に寄付をしたい」などの希望を叶えることもできます。争いがなくても、相続の手続きを簡単にするという意味で、公正証書遺言を作成することをお勧めします。遺言書には、遺言執行者(遺言書の内容を実現させる人)を記載することも忘れずに。

エンディングノートは、遺言書に書き記す財産以外のことを書き残すのに適しています。ご自身の想いや願いを書いておくと、意思を伝えることができなくなったときにも尊重してもらうことができます。本人の希望がわかることで、ご家族やお世話をされる方が迷わずに済み、負担を軽減すことができるのです。

例えば、治る見込みのない病気にかかり、緩和ケア、もしくは延命治療のどちらを希望するのかなどを書いておく、「尊厳死宣言書」というものを作成することもあります。

葬儀についての希望や状況を記しておくこともできます。葬儀社とのがあれば契約内容について、葬儀の規模や内容、連絡してほしい人とそうでない人、遺影についてなど……葬儀は時間のない中で決めていくことが多いので、本人の希望があれば悩まずに済みます。

「デジタル遺品」の整理も忘れずに

パソコンやスマホなどの「デジタル遺品」についても、残された人たちに扱い方の希望を伝えておくとよいでしょう。

パソコンやスマホのID、パスワードがわからなくて、銀行、証券会社の取引がわからない。友人、知人の連絡先がパソコンやスマホの中にあり、連絡をしたいのにできない。写真もすべてロックがかかっているため見ることができない等で困っている方々をたくさん見てきました。エンディングノートに書いても良いですし、別途ID、パスワードを書いたものの保存場所を書いておくのも良いと思います。

遺言書、エンディングノートに関しては、その存在を誰かに伝えておかないと、使うことができません。生前から家族や知人、信頼できる人にお知らせしておきましょう。

タカコさんは67歳で終活・相続のことを考え始めましたが、67歳が早いとは言えません。50代のころから考えはじめてもいいでしょう。人生をよりよく生きるために、動けるうちに終活・相続の準備をして不安、心配を取り除いていきましょう。自分一人で考えず、専門家に相談することをお勧めします。

(行政書士・相続診断士・終活カウンセラー:藤井利江子)

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