聖火ランナー辞退の女性〝理由隠蔽〟に怒り「森会長の名前を出していただかないと困る」

諸国さんは森氏の発言に不快感を覚え聖火ランナーを辞退した

東京五輪の聖火リレーの辞退者が続出する中、長崎県による一般ランナーの「辞退理由隠蔽問題」が波紋を広げている。当事者の女性が2日に本紙の取材に応じ、県側との詳細なやりとりを明かした。

事の発端は、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長(83)による2月3日の女性蔑視発言だった。聖火ランナーを務める予定だった長崎・佐世保市の大学院生の諸国麻椰さん(26)は発言に不快感を覚えたという。「まずパブリックな場でああいう発言は理解できないですし、周りが笑ったりして容認した雰囲気に怒りを覚えました」

大学で男女共同参画を専門に研究する諸国さんは、聖火ランナーを辞退することを決意。同月22日に長崎県から最終的な意思確認のメールを受けた諸国さんは、返信期限の24日に「走る意思がない」ということに加えて「森会長の発言や考え方に賛同、承認できなかった」と理由を記した。

だが、25日に県から再び「辞退理由をどう表記するか?」との連絡がきた。メディア対応を想定しての質問だったという。諸国さんは「そのままお答えいただければ」と返答すると、翌26日に2通のメールが届いた。1通目は辞退理由を「組織委員会への不満」とする提案。さらに約10分後に届いた2通目で「諸般の事情」とするよう提案された。

「なぜオブラートに包むのか? ワケが分からないと思いました。私としては森会長の名前を出していただかないと困る。あの発言に賛同できない人が地方にもいるってことを言いたいから、私は自分の名前を出して辞退している。しかも『諸般の理由』ではケガで辞退したとも受け取られかねない。このままでは一生に一度の聖火ランナーという貴重な体験を天秤にかけてまで辞退した意味がない」(諸国さん)

最終的には長崎県側が提案を取り下げ、諸国さんの当初の辞退理由が公表された。その後に県などから圧力のようなものはなく、今回の行動に対して周囲からは賛同の声が上がっているという。県の担当者は「本人のことを思い、中立的な表現がいいと考えた」と説明しているというが、諸国さんは「そもそも代替の文章は向こうが考えるものではない」と納得がいくはずもない。

一連のやりとりを聞く限り、長崎県の対応には森前会長や組織委への「忖度」の意図も透けて見える。今回の一件は〝氷山の一角〟の可能性もありそうだ。

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