大下剛史氏が広島再建のカギ握る〝タナキク〟に激言「足を使ってチームと社会に活気を!」

チーム再建のカギは田中広輔(左)と菊池涼介のコンビだ

【大下剛史 熱血球論】1967年、元号で言うと昭和42年にプロの世界に飛び込んでから、初めてキャンプ地に赴くことなく2月を終えた。周りにいらない気を使わせたくないとの思いもあっての決断だったが、やはり寂しいものである。同時に、この1か月で何事も足を使ってこそ――ということを再認識させられた。

野球界で「足を使う」というと「盗塁」を連想されがちだが、そうではない。選手に限らず、スカウトでも球団の営業マンでも人より足を使った者が勝つ。新聞記者もそう。いいネタを取ってくる記者は必ず人より動き回っている。どんな職種でも同じだろう。

足を使うのは楽ではない。負担もあるし、ケガをするリスクがあるから勇気も必要だ。しかし、球史を振り返れば、強いチームには年間を通して1、2番を託せる足の速い選手がいた。広島が初優勝した75年は、その役割を私と三村敏之が担った。巨人のV9では柴田勲さんと土井正三さん。最近で言うなら落合竜の黄金期には荒木雅博―井端弘和の〝アライバ〟がいた。1、2番が足でかき回し、クリーンアップでかえすのは強いチームの基本形である。

2016年からリーグ3連覇を成し遂げた広島は一昨年、昨年と2年連続Bクラスに沈んだ。原因は1、2番を固定できなかったことに尽きる。特に昨年はピレラ―菊池涼で始まり、1か月足らずで西川―菊池涼となったように試行錯誤の連続で、3連覇を支えた田中広輔―菊池涼介の〝タナキク〟は3試合にとどまった。足を使って勝ってきたチームが足を使えなくなったのだから低迷するのも無理はない。

就任2年目の佐々岡真司監督は〝タナキク〟を1、2番に据えてチーム再建を図るという。正直言うと全盛期に比べて力は落ちているが、ともに今年で32歳になる同学年で老け込むには早い。何より二遊間という守備位置も含めて経験と知識も求められる役割であり、若手との差は歴然だ。使う側は〝タナキク〟と心中する覚悟で今季に臨むべきだし、尻を叩かれても結果を出せなければ、次は肩を叩かれる…という危機感は本人たちにもあるだろう。

人々は新型コロナウイルスの影響で、出歩かないことを求められた。その一方で、多くの人が動かないことには生活が立ちいかなくなるという恐怖に直面している。社会に活気や活力をもたらすのはプロ野球選手の使命だと思うし、そのためにもどんどん足を使ってハツラツとしたプレーを見せてもらいたい。

(本紙専属評論家)

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