どこでもサイエンス 第201回 おもろい科学者の世界を垣間見られるエッセイ集

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科学者は基本、個性的です。少なくとも社会の常識をそのまま鵜呑みにせず、研究生活で鍛え上げた独自の目と感覚で、社会をとらえます。そのため、なーんか浮世離れしていたり、優先順位が不思議だったりするのでございます。ただ、世間の人はなかなか実物に接する機会がないですな。そこで本でございます。おもろい科学者の世界を垣間見られるエッセイ集+ルポ集を今回はご紹介いたします。

橋本幸士「物理学者のすごい思考法」(インターナショナル新書、集英社)

現役バリバリの理論物理学者、大阪大学の橋本先生が、ご自身が世の中をどうみて楽しんでいるか? を赤裸々に紹介した一冊でございます。3、4ページで1話になっているので、とても読みやすく、通勤電車のお供とかソロキャンプで読んだりとか、そういうシチュエーションにお勧めです。

エスカレーターの片側開け問題解決に悩んだり、大型たこ焼きのうまい作り方に思いをはせたりしています。そして大阪人らしく、オチをつけるサービスぶり。いま、一番面白いエッセイ集であり、ついでに物理学者の考え方がちょっと使えるようになるという効能つきでございます。

二宮敦人「世にも美しき数学者たちの日常」(幻冬舎)

こちらは色々な数学「者」に取材したルポ集です。いまや、最も稼げる専門家は数学者となっております。ただ、科学技術教育で最近よく登場するSTEMでは、数学(M:Mathematica)は科学(S:Science)とは切り離されています通り、数学者は変人ぞろいです。

私がわずかにしっている範囲でもそうなのでございますが、本書を読むとその極北ぶりがなんともいえなくなります。

一日中、夢の中まで数学を楽しみ、解けない難問を考えては悦に入り、日々の生活でごく自然に素数や友愛数を発見してはほくそ笑む数学者が活写されています。小学生でも天才がいる恐ろしい世界ということもわかりますぞ。

寺田寅彦「寺田寅彦随筆集(全5巻)」(岩波文庫)

大正から昭和初期に活躍した東京帝国大学の物理学教授で、文人夏目漱石の門下生が寺田寅彦です。「天災は忘れられた頃に来る」という警句を出した人としても有名ですが、はっきりした記録はないようですな。またX線の散乱のふるまいの研究ではノーベル賞クラスの研究をしていた天才科学者でもあります。

随筆では、その上品な多趣味ぶりがいかんなく発揮され、日常になかに様々な物理を発見しては、それを紹介することが多いですな。たとえば、チンチン電車が渋滞する原理をときあかしたり(これはまあ、エレベータが同じ階に集まりがちってのと同じですな)。これも気楽に読めるので、さすがに文体は古いのですが、なかなかのおすすめです。

なおゆかりの地である高知市には寺田寅彦の育った家が保存されてて記念館になっております。

ファインマン「ご冗談でしょうファインマンさん」(岩波現代文庫)

アメリカの物理学者で、量子電磁力学の研究でジュリアン・S・シュウィンガーと朝永振一郎とともにノーベル物理学賞をとった、リチャード・ファインマン。ユニークな視点でかかれた物理の教科書の著者としても有名です。

その英才科学者のエッセイ集ですが、もう気楽にすいすい読めるのが特徴です。というのもこの人はかなり変人で、まずまったく偉ぶらない。趣味は金庫破りを公言し、打楽器ボンゴの名人でライブに飛び入りしちゃうという楽しいいたずら好きです。そんな彼の人生が凝縮したエピソードだらけの本でございます。ノーベル賞受賞の知らせの時も「眠い!」といって電話切っちゃったとか、うっとうしいから受賞を断ろうかと思ったとか、そんな人です。ファインマンのエッセイは他にもいろいろ出ておりますので、どこから読んでも楽しいですよー。

キャリー・マリス「マリス博士の奇想天外な人生」(ハヤカワNF文庫)

サーファーにして化学者、そして今、世界中で利用されているPCRを発明してノーベル賞を受賞したキャリー・マリスの自伝です。この人もファインマンと同じようにユニークな人でございますが、ファインマンが科学者でユニークなのに対し、この人は変人が科学者でもあったという感じでございます。

幻覚剤LSDの常用者で無類の女好き、まあ、社会から半分逸脱したような人です。生化学者になったのは「星占いのお告げにしたがった」から。そして世の中の科学者の良心に逆らうような発言も多々しております。

ノーベル賞については、自分は(あまりに反社会的なので)絶対に受賞されないだろうと考えていたようですな。でも、この人の大発明PCRがなかったら、我々は新型コロナウイルスに対抗できなかったのでございます。ま、読んでやるか、くらいの態度で読んでもいいんじゃないかなと思う次第です。あ、エッセイ集というより、これは自伝ですな。

ところでトップ科学者のエッセイ集や自伝でございますが、欧米ではかなりよく書かれています。日本でも湯川秀樹の「旅人」とか、朝永振一郎の「物理学とは何だろうか」なんてのはそこそこ読ませるのですが、まだ遠慮がある感じでございます。

それから方向性は違うのですが、したマイナビ出版からでている「マンガで学ぶゲノム」も、様々な科学者の戦いが垣間見られる本として読むのもええですよ。

ではこの辺で。

東明六郎

しののめろくろう