【連載】『令和2年度卒業記念特集』第36回 阿南遼星/男子ハンドボール

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試行錯誤の連続

昨年、新型コロナウィルスは大学ハンドボール界にも大きな影響を及ぼしていた。関東学生春季リーグ(春季リーグ)、全日本大学選手権(インカレ)は中止。選手の活躍の機会が大きく奪われていく中でチームをまとめあげ見事に勝利に導いたのは阿南遼星(スポ4=大阪・大体大浪商)だった。関東学生秋季リーグ(秋季リーグ)では中止となった決勝を除く全ての試合で白星をあげ、一昨年の9位から大きく躍進し結果は2位。次々と目標とする大会が失われていく中で阿南は最後となった1年をどんな思いで走り抜けたのか。大学4年間におけるこれまでの軌跡、そして主将としてコロナ禍を乗り越えながらもチームを率いた昨年を振り返る。

明大戦でシュートを放つ阿南

知り合いのすすめで小学生の頃にハンドボールを始めた。些細なきっかけで始めた競技であったものの、高校では全国3位まで上り詰める。「大学でも日本一を目指せる環境でハンドボールをやりたい」。あと一歩のところで全国制覇を逃してしまった経験が阿南を早大へと導いた。関東1部リーグに所属する強豪校でもありながらも、文武両道で選手が主体的にチーム運営を行っている。ハンドボールの技術だけでなく自身の人間的な成長も期待し入学を決めた。

自身の実力は全く通用せず、高校とは一線を画した大学のハイレベルさに衝撃を受けたと入部後について阿南は振り返る。しかし、それ以上に印象的だったのはチームにおける上級生の雰囲気づくりであった。つらい練習メニューをこなす際に誰よりも声を出しチームを盛り上げ、士気を高めようとする姿にチームづくりにおけるイロハを学ぶ。そうした中で一番影響を受けたのは西山尚希(平29社卒=現トヨタ自動車)であった。「自分の考えだけではやってはいけないということ、学ぶべき態度というような人間の基礎となる部分を指導していただいた」。自身にはなかったハンドボール論を伊舎堂博武(平30社卒=現トヨタ車体)から学び、三輪颯馬(平30スポ卒=現ジークスター東京)の努力を惜しまない姿勢を目の当たりにしていく中で自分自身の新しい可能性が開かれていく。プレーヤーとして、何より人として自身よりも優れた上級生との関わり合いの中で精神的にも技術的にも磨かれていった。

早慶定期戦でガッツポーズを見せる阿南

昨年度、いよいよ主将として迎えたラストイヤー。しかし、発足直後の新チームを新型コロナウィルスが襲った。春季リーグは中止され、練習も一旦休止に。ハンドボールをすることすら困難な日々が続いた。阿南は当時を振り返りはっきりと断言をする。「コロナで活躍の機会が奪われたからと言って落ち込んでいたりどうしようとする時間がもったいないと思っていた」。残された試合で1つでも多くの勝利を飾るために必要なことは何か−。阿南は『ディフェンスの時間が長ければ長いほど良い』というチームとしての軸をブラさずに、また一方で柔軟に常に思考し続けていた。そしてその結果は唯一の公式戦となった秋季リーグにおいて如実に現れることとなる。昨年度の秋季リーグ王者・日体大を初戦で撃破。その後も鉄壁とも言えるディフェンスからの速攻を繰り出すチームスタイルで強豪校相手に連勝を重ね、早大をリーグ2位へ見事に導いた。

「試行錯誤の連続」。大学4年間について阿南はこう統括する。逆境の中においても考えつづけ諦めなかった阿南だからこその言葉だろう。引退試合となった昨年の早慶定期戦でこのように語っていた。「インカレ優勝の夢は後輩に託します」。かつて自身が上級生から影響を受けたように、コロナ禍でも諦めず勝利を目指しつづける姿勢を下級生に見せ続けた。ウィルスにより阻まれた全国優勝への思いを下級生に託し、阿南は早大を勇退する。

(記事 高橋さくら、写真 杉原優人、栗林真子氏)