松隈ケンタ[インタビュー]未来のクリエイターへ魂をこめて投げ込むド直球大提言「スポーツや普通の会社と一緒で、コツコツ積み重ねて技術を上げて勝たないといけない」

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松隈ケンタ[インタビュー]未来のクリエイターへ魂をこめて投げ込むド直球大提言「スポーツや普通の会社と一緒で、コツコツ積み重ねて技術を上げて勝たないといけない」

松隈ケンタが、3月11日(木)に『松隈ケンタ流 ロックDTM入門 ~パソコンとギターで始める 「ワンコーラス作曲法」』(リットーミュージック)を発売する。機材選びから作曲作業、簡易ミキシングまでDTM&楽曲制作のノウハウを全網羅してレクチャーする同書は、松隈自身が“批判されるんじゃないかと思ってヒヤヒヤですよ(笑)”と語るように、一般的な教則本とはひと味もふた味も違う、松隈独自のスパイスがたっぷりと効いた内容に仕上がっている。今回、そんなDTM入門書の“奇書”でもあり、ロック系クリエイター必読の“名著”といえる同書を上梓した松隈にインタビューを実施。同書にかけた想いをはじめ、制作裏話、さらに自身の作曲技法などについて語ってもらった。

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最初の壁を乗り越える一歩になれば

——DTM関連の書籍は難しくなりがちですけど、本書は松隈さんの語り口調を含めて、ものすごくわかりやすくて読みやすかったです。

松隈:

まず最初にとっつきやすく、ゼロから始める人向け、というのがテーマとしてありました。僕がスクールやセミナーをやっていて昔から感じていたのは、我々教える側が考える、1割くらいしか伝わっていないんじゃないかということ。だから、初心者目線の究極まで下りてみようと。サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)さんは専門誌だから、その中でも1番入口に近づけてみようというのは意識的にありましたね。ここから入って、どんどん専門的になってくれたらいいし。もう1つのテーマは、タイトルにもなってますけど、“ロックのDTM入門”ということ。ヒップホップ系の人は文化的にもDTMに入りやすいけど、バンドマンやロックミュージシャン、弾き語り系のフォークミュージシャンの人もそうですけど、いまだにDTMに対して抵抗があるんですよね。“俺、PCよくわからないし……”みたいな。そういう人が気楽に入ってこられたらいいな、と考えました。

——そういう意味では、サンレコというよりもギタマガ(ギター・マガジン)やベーマガ(ベース・マガジン)寄りなのかもしれないですね。

松隈:

もっと言ってしまえば、失礼かもしれないけど、リットー(ミュージック)さんっぽくないかもしれない(笑)。でもそこがよかったんですよ。リットーさんとは最初からそういう方向でいきましょう、という話をしていたので。

——松隈節とでも言いますか、従来のDTMの概念を次々と覆していくような見解が興味深く、大きな特徴になっていると感じました。まず、DTMの母艦となるPCですが、“CPUが、メモリが、”というスペック至上主義を覆す、MacBook Airの2014年モデルという、約6年前の機種を使っているということが驚きでした。

松隈:

これでもできるんだよっていう、これは伝えたかったことなんです。やっぱり時代はコンパクトになってきているし。僕も昔は自分のスタジオ部屋にこだわりましたけど、どんどんシンプルになっていったので。

——形式的なものよりも作る中身の方が大事、ということですね。

松隈:

音楽って、エンタテインメントの最先端にいなきゃいけない。だけど、音楽やる人って、古き良きものを大事にしすぎちゃうところもある。僕は早い段階から柔軟にシンプル化していったんですね。スタジオもシンプル、卓も最初から置いてない。Pro Toolsじゃなきゃいけないという時代もあったけど、今はそうじゃない。そうした中、スクールをやっていて感じるんですけど、“DTMは簡単だ”という風潮もある。“誰でも気軽にできるよ”っていう。それで入ってくる人も多いと思うんです。けれど、ちょっとやってみると行き詰まる、壁にぶち当たっちゃう。そこで諦めちゃう人も多いと思うんですよ。その壁を乗り越える一歩になれば、という想いもありますね。ギターで例えるとわかりやすいですけど、Fコードの壁。あれを乗り越える手助けができたら本望ですね。Fが弾けたらギターは楽しめる。DTMは、入口は簡単ですけど、やっぱり努力と勉強は必要ですよ。それはスポーツでも、料理でもなんでもそうじゃないですか。初心者の壁にぶち当たって、そこを超えるとハマるんです。

—— “Fコードの壁”って、DTMではどこにあたるんでしょう?

松隈:

まず、セッティングがわけわからないですよね。機材を買ってきても、マイクの立て方もわからないし、そもそもソフトのインストールから難しい。だからFコードより早いかもしれない。ほとんどの人が機材を買ってきた時点で終わってる気がします。ソフトを立ち上げて、リズムのループを作って、コード乗っけてみて、音が重なっていく様が楽しいな、と思えるところまでいけると、ハマれるんじゃないかな。

——次にPCと楽器を繋ぐオーディオインターフェースですが、普通は“1〜2万円のものから”だと思うんですけど、本書ではいきなり“10万円くらいの高級機”を薦めているのも斬新でした。

松隈:

ギターもそうじゃないですか。最初は1〜2万の初心者モデルを買って、次に3〜4万のものが欲しくなって、7〜8万になって、いつかGibson!みたいな。それだったら最初からGibsonを買った方が長く使えるし、頑張って練習するだろうし、トータルの金額も安い。それと一緒で。本書ではRME(Babyface Pro FS)を勧めてますけど、僕自身がRMEに行き着いた時に、音質の悩みが一気に解消したので、そこは頑張ってほしいなと思って書きました。

——PCは古くてもいいから、オーディオインターフェースは高級機を買った方がいい、という考えが、経験者からのアドバイスとしてすごくリアルだと思いました。

松隈:

リアルですね。僕、昔楽器屋で働いてたんですよ。だから楽器を売る人の感覚もわかるし、楽器が大好きな人の感覚もわかる。プレイヤーの感覚ももちろんわかっている。そのすべてをわかって言っていると自負しています。そこを踏まえて、要るものは要る、要らないものは要らない、っていうのをシンプルに究極の形で書いてます。

——MIDIキーボードを“要らない”と言い切っているのもすごいなと。

松隈:

弾ける人は買えばいいんですけど、弾けない人も多いと思うんですよね。雑誌とかの入門書を見ても“まず買え”って書いてあることが多いけど、僕は要らないんじゃないかなって(笑)。楽器屋さんで“DTMやりたい”というと買わされるし。僕も楽器屋で働いてた時は、売ってたと思うんで、買わされた人がいたらツッコまれちゃいますね。“お前、昔は要るって言ってたじゃないか”って(笑)。だから、今謝りたいです。

——世の中的に、DTMにはMIDIキーボードが必須とされていますからね。

松隈:

コンデンサーマイクもいいって言われてますけど、果たしてそうなのか。家庭でコンデンサーマイクを使うと、近所を走ってる車の音まで入っちゃうし。だったらダイナミックマイクで充分なんじゃないかって。“デモだし”っていう、割り切りみたいな考え方があってもいいじゃないですか。そういう意味でもロックな内容になってると思います。PCに何十万もかける必要はない、それならオーディオインターフェースにかけた方がいいし、MIDIキーボードは要らない、コンデンサーマイクよりダイナミックマイク。2021年現在の、僕が思うなりの1番シンプルな形を紹介したつもりです。

松隈ケンタ

アイドル界ではなくロック界に革命を起こしたと思う

——先生的な教えというよりも、豊富な経験値からの教えであり、何よりも松隈さんらしい教えだなと思います。

松隈:

ありがたいことに“僕の本”なので。もし、“DTMを教えます”ということが前提としてあって、“著者・松隈ケンタ”という依頼のされ方だったら、堅っ苦しい理論的なことも話しますけど、“僕のDTM作曲法”と謳わせていただいたので。

——それもあって、DTMを学べると同時に、松隈さんの作家性や考え方がよくわかる本だと思います。“メロディが降ってきたことはない”というのも松隈さんらしい発言だと感じました。

松隈:

降ってくる人もいると思うので、そういう人は怒ると思うんですけど(笑)。僕は降ってこないんです。

——いい意味での、職業作曲家的な部分ですね。

松隈:

天才だと思われてるんですかね(笑)。降ってこないから頑張って捻り出してるんだよって。僕は2005年に東京に出てきて、その前は地元で10年間バンドやっているので、20年近く潜伏してるんですね。全然天才じゃない。天才だったらもうちょっと早く気づかれていたと思います。だからといって、努力したからすごいんだというつもりもないんですけど。ただ音楽が好きで、いろんな人に自分の曲を聴いてほしくて作ってきたというだけの結果です。チャンスをもらえただけ。決して天才じゃないぞと。

——世間的な作曲家のイメージとして、独りでピアノの前に座って目を瞑るとメロディが降ってきて……みたいなものが大きくあると思うんです。

松隈:

そういう作曲家さんもいます。降りてくるのを待つというか。でも、そういう方と話していると、原理は僕と一緒なんじゃないのかなって思うんです。僕はコードが大事だと常に言ってるんですけど、“松隈はメロディを大事にしてない”と反発してくる人もいるんです。そういうことではなく、メロディが降りてくるタイプの方も頭ではコードが鳴ってるはずなんですよ。ただ、その表現の仕方がわからないだけで、どんなコードでもいいわけがない。隣にギタリストがいて、“それ違う、違う”とか言いながら作ってるはずなんです。だから僕は“コードから作れたらいいよね”と言ってるだけです。それで、メロディもさらに大事にすればいい音楽を作れる。コードもメロディも歌い方も楽器も、全部を大事するという感覚ですね。

——松隈さんのTwitterやYouTubeに対する反応を見ても、いろんな捉え方をされている人がいますよね。

松隈:

僕のやってることとまったく違うイメージを持たれてたりするんです。例えば、アイドルの話でいくと最近びっくりしたのが、BiSHをはじめ、松隈のプロデュースする作品は、“楽器をしっかり聴いて、楽器に馴染むように歌えと指示を出している”と。確かに僕はそれをいつも言ってるので、どこかのインタビューで読んだのでしょう。でも、“そうやって個性を潰して、アイドル界が全員同じ歌い方になるのはまずい”みたいに言う人がいるんです。僕のプロデュースは基本、楽器を全部生で録ってるんですね。時間と予算の許す限り、曲によってドラマーが違ったり。BiSHはこの人、BiSはこの人って、グループの匂いを変えるために。アイナ(・ジ・エンド)の声が生きるように、こういうビートにするとか。ドラムの種類を変えたり、チューニングを変えてみたり……いろんなことをやってます。そうやって録った楽器を聴いて歌ってください、馴染むように歌ってください、と言ってるわけです。別に個性を潰してるわけでも、同じ歌い方にしてるわけでもないんですよ。そこを理解して聴いてもらえると、もっと面白いのになぁと思います。

——それこそ、本書のミックスダウンの話で“ボーカルと楽器の帯域がぶつかっているところもカッコよさ”と書かれていますが、そういうことですよね。

松隈:

やっぱり編曲あっての音楽だと思うし、楽器があっての音楽であって、打ち込みのよさもある。そこをどう乗りこなすかがボーカリストの実力だと思うんです。よく“ウマいボーカルとは?”みたいな話題で、多くの人は歌詞を表現できるとか、ビブラートが上手とかキーが高いとか言うんですけど、僕は波乗りのサーファーのイメージで、楽器や演奏、トラックといった音楽という波をどう乗りこなせているのかが大事だと思うんですよ。そこをみんなに極めてほしいと思ってレコーディングしてますね。アイドルのフォーマットとして、可愛い歌い方というのはすでにあって。ボーカルは大きく、オケは小さくすれば1つのスタイルになるじゃないですか。狙ってやっていればそれでいいと思います。可愛い歌を録りたいのであれば、僕もそうします。でもそうじゃなくて、曲によって演奏している人が違うわけで、それを乗りこなしていく歌い方ができたら、そのボーカリストは伸びるし、聴いている人も感動できるんじゃないかと思うんです。

——ボーカリストと演奏者が一体になるという、バンド的な視点でもありますよね。松隈さんは、そういったロックバンドの手法をアイドルに持ち込んだパイオニアですし、フォロワー含めて、現在のアイドルシーンではそのスタイルが出来上がってますよね。

松隈:

最近気づいたことなんですけど、僕は“アイドル界に革命を起こした”みたいに言っていただくんですけど違うんです。それを言うならむしろ、“ロック界に革命を起こした”んだと思います。“アイドルなのに、なんでユニゾンしないんですか?”と言われたりして違和感があったんですけど、そもそもアイドルソングを作ることに興味がないんです。確かに、僕も以前は“アイドルのフォーマットにロックを落とし込んだ”と言ってたんですけど、逆ですね。ロックって、ボーカリストがカリスマで、ミック・ジャガーや、スティーヴン・タイラー、日本だったら稲葉浩志さん、女性だったらアヴリル・ラヴィーンなどが挙げられて、彼らが歌うから成立するものだと思われがちですけど、僕は初心者が歌ってもロックになるんじゃないかって考えていて。パンクは技術がある方がカッコ悪いとされてますから、そっちの感覚に近いのかもしれないです。よくわからないボーカルがロックを歌うことが面白かった。スティーヴン・タイラーを知らない女の子を最前線に置いて、ロックを歌うというのが、ロックの世界の中で斬新だったんだと思います。

——ロックのセオリーをまったく知らない女の子に、ロックをやらせてみたらハマったし、世の中にもウケた、と。

松隈:

そこに気づいたら、僕はアイドル界では大したことをやってないなと思ったんですよ(笑)。

松隈ケンタ

経験がある人は強いし、いい曲が作れる

——近年のJ-POPによく見られる傾向としてDメロ(Cメロ)がありますよね。本書ではそれを“謎のパート”と言って、“理解不能”とバッサリ斬ってしまうところも松隈さんらしくて気持ちよかったです。

松隈:

あれはちょっと言い方が悪かったです(笑)。あそこを作ることに悩んじゃう人がいるんですよね。でも、僕は一切悩まない。Dメロが浮かばなくて1日悩むという発想を持たなくてもいい、という考えです。視聴して“このDメロがカッコいいから買おう!”と思う人はあまりいないと思うので(笑)。

——今はDメロがあるのが当たり前にもなっていますし、だから重要だと思ってしまう。みんな入れたがりますよね。

松隈:

ギターソロや間奏もそうですけど、なきゃないでいいじゃないですか。逆に言うと、3番サビがカッコよく聴こえるためのDメロであるべきだと思います。3番サビが終盤における1番の見せ場だと思うので、その前にも見せ場があるとぶつかると思うんですよ。だから、ボソボソっと適当に作ったメロディの方がむしろいい。現場でメンバーに適当に歌ってもらって、それでいいよってぐらいの感覚。僕の持論としては、Dメロは変な方がいいんです。だからあまり考えすぎなくていいんだよ、と思いますね。

——プロとアマチュアの差って、そういう重きを置くところの違いだと思います。本書では“ワンコーラス作曲法”という大きな軸がありますが、とにかくワンコーラス作って作品として完成させることが大事と。それがプロの考え方。でもアマチュアは、最初からアレンジやらサウンドメイクに時間をかけてしまって、なかなか作品として完成させることができない。

松隈:

レコード会社の人やバンドメンバー、友達でもいいんですけど、とりあえず人に聴かせる状態にすること。それで“いい曲だね”と言ってもらうことが第一歩。それがないと作曲家としてデビューできないし、バンドで自分の曲を使ってもらえない。料理でいえば、最初はとりあえず紙皿でいいんじゃないかなって。ただ、盛り付けはカッコよくして。聴かせる人に合わせると言いますか、誰もいきなりDメロは聴かないからあとで考えればよくない?とかね。そういう優先順位や必要最低限のポイントをアマチュアの人はズレて見てしまいがちですよね。僕もズレてたし。そこを整理しましょうと、常に若い人に言ってますね。

——こだわりだすとキリがなくなってしまうし。

松隈:

そうなんですよ。そのこだわりを一旦、ほかのパワーに変えることが大事。1年間改良を重ねたチャーハンと、365種類の料理を作ってみて、その結果1番自信が持てたチャーハンだったら、僕は後者の365回の経験が乗っているチャーハンの方を食べたい。曲も1年間こねくり回している曲よりも、365曲中のトップ1の方がいい曲だと思います。そういう意味で、自分で納得いってなくとも、放っておくんじゃなくて、ワンコーラスでいいからちゃんとパラデータで書き出して、曲の番号をつけて、変なタイトルでいいから名前をつけて保存しておきましょう、と。これは僕も師匠たちに言われましたし、後輩たちにも言っていることです。そうしたデータが僕は今900番台までありますし、井口(イチロウ/SCRAMBELS)くんなんて1000番台で、僕をはるかに超えてます。それだけでもいい曲作ってるんだぞ、という証拠になるじゃないですか。自分の自信にもなるし。それって大事なことなんです。

——アマチュアは形にする前に、自分でボツにしちゃいがちですよね。

松隈:

ボツかどうかは聴いた人が決めるので、自分でボツるのはもったいない。どうぜ、ボツにされることも多いんだから。そんな簡単には受からないですよ。どの会社でも、どの社会でもそうだと思うんです。社内プレゼン、企画書……、野球選手だって何万回素振りしたって、空振りはする。音楽の人って、どこか簡単に考えられているところもありますよね。流行や運がよくて売れる、みたいに思われがちですけど、スポーツや普通の会社と一緒で、コツコツ積み重ねで技術を上げていって勝たないといけない。何より、経験ですよね。経験がある人は強いし、いい曲が作れるんですよ。

——積み重ねという意味では、“有名アーティストを真似ることも大事”と書かれています。音楽の指南書でこういうことを堂々と言うのは目新しくて新鮮でした。

松隈:

批判されるんじゃないかと思ってヒヤヒヤですよ(笑)。でも、これはウチの生徒にも全員に最初に口すっぱく言うんです、“真似をしろ”と。真似を通り越して“盗作しろ”くらいのことを言ってます。“真似くらいじゃダメだ、それでお前は真似てるつもりか!?”って。そこまでしないと、芸術作品は作れないんじゃないかって思いますよね。

——真似ることでわかることは多いですからね。

松隈:

ハンバーグを作りたいなら美味いハンバーグ屋さんを徹底的に真似して、同じものを作れるようにならないと最初はダメじゃないですか。いいスポーツ選手は自分よりいいスポーツ選手のフォームを見ながら研究する。どうやったら同じ動きができるのか。それをミュージシャンもやるべきだというのが僕の感覚ですね。

——コピーバンドもそうですもんね。それで演奏技術が上達していきますし。

松隈:

だから僕、“ボーカル嫌い”って言うんですよ(笑)。僕はギタリストだから、“ド→レ”と弾くだけでも、ハンマリングで弾いたり、スライドもチョーキングもあるじゃないですか。チョーキングもリズムをバキッとキメる場合もあればルーズにいく場合もある。ギタリストはいろんな奏法や力加減、ピックか指か、アップかダウンか……など、どう弾くのか考えているわけです。これ、ギターを弾く人はみんなわかる話だと思うんですね。“あ、これチョーキングだ”、“ここはスライドでいってるな”とか、憧れのギタリストがどう弾いてるのかを聴き分けているわけです。でも、ボーカリストは“私は天才だ”とか言って、勝手にビブラートかけたり、しゃくり上げたりするじゃないですか。それが嫌なんですよ(笑)。

『松隈ケンタ流 ロックDTM入門 ~パソコンとギターで始める 「ワンコーラス作曲法」』

CD-ROMにはBiSHとBiS、EMPiREのドラムの音が入ってます

——確かにボーカリストって、いろんな意味で感覚的ですよね。松隈さんといえば、ボーカルのディレクションにも定評がありますが、どういう点を注視しているのですか?

松隈:

歌のディレクションはものすごく細かく言いますね。よくあるのが、歌詞が入るとメロディを勝手に変えちゃうこと。例えばBiSHの「オーケストラ」では“オーケストラ〜(↑)”と最後は音程が上がっていくんですけど、通常の発音でいうと“オーケストラ(↓)”と下げたくなる。単語がもともと持っている音程に引っ張られるんです。あとはメロディは切れてるけど、歌詞の内容は繋がってることもいっぱいあります。だから歌詞に引っ張られてメロディを変えちゃうんですよね。でも、ウマいボーカリストはちゃんと音符に歌詞を置いていくことができる。アイドルの子たちはそれがまだわからない場合も多いので、細かく教えるんです。問題はライブですよね。ライブは僕も口を出さないから、自由に歌うじゃないですか。“ライブは歌い方が違っていい”というファンもいるんですけど、僕は逆だと思っていて。ライブは音源を再現するものだと思うし、それをなぞった上で音程が外れたり、感情を込めすぎちゃって声が裏返ったり、それが楽しいわけで。最初からあやふやだったらプロとは言えないんじゃないかって。ギターで言うところのチョーキングかハンマリングのどちらを使うのか、ボーカリストもそういう部分を理解して歌えたら最強ですよね。

——日本語のイントネーションやアクセント位置をズラして、英語っぽく聴かせたりするのもよくやられている手法ですよね。

松隈:

日本語っぽく歌う方がナンセンスだと僕は思っていて。J-POPって洋楽だと思ってるんですよ。使われている楽器はアメリカのエレキギターやイギリスのアンプで。ドラムくらいじゃないですか、日本産のものは。使ってる音階も外国から来たもので、それに日本語を乗せている。特に今の音楽は、どのジャンルも洋楽の音だと思ってます。だから洋楽に合うように歌った方がいいと思うんです。韓国の音楽が世界で通用してるのは、子音を出せているからなんですよね。だけど、日本人って母音主体でしゃべるんですよ。“アイウエオ”を1番最初に習うくらいなので。だから子音が苦手なんです。ロックは子音とドラムのリズムを合わせて歌っていく。R&B;もEDMも全部そうですよね。子音を出すためには、わかりやすくいうとアクセントを強くして英語っぽく歌った方がいいんです。“カタコトの外国人の方みたいに歌ってみて”と。結果的に、アユニ・D(BiSH/PEDRO)は“イ”っていう歌詞を“ゥイッ”って歌い出したんですよ。それがすごい個性につながったわけじゃないですか。一部の人から“松隈がああ歌わせるのはクセが強すぎる”って言われているんですが、僕じゃないです! アクセントが強く出たから、僕はOKにしただけで。アユニがカッコいいと思ってやってることなんで。僕も変だと思ってますよ(笑)。

——(笑)。本書では、そんなアユニさんとの対談も収録されています。Amazonおよびタワーレコードの一部店舗では、数量限定で松隈さんとアユニさんの直筆サイン入りポストカードが付くそうですね。

松隈:

バンドやってた時は、サイン書きをやらせていただきましたけど。この歳になってまた書くことになるとは。ちょっと舐めてました(笑)。ちゃちゃってできると思って締め切りギリギリまで放置していたら、これ終わらんぞと。ウチの若手に“おい、俺のサインちょっと真似してみろ”って(笑)。

——あははは(笑)。

松隈:

さすがにそれはイカンと思って、ちゃんと書いてますよ!(笑) ただ、複雑に書いてるものもあれば、簡略されてるものもある。個体差があります。“これは最後の方に書いたヤツだな”なんて思ってもらえれば。まぁ、それもロックということで(笑)。

——これからDTMを始められる方にはもちろんですけど、松隈さんの作る音楽が好きな人にもおすすめの本だと思います。付属のCD-ROMにはこの本のために書き下ろした曲「セミのチャーハン」も収録されていますし。これ、めちゃめちゃカッコいい曲ですね。

松隈:

世に出すものだから、普通はカッコつけたミックスにしたり、重厚なアレンジにするんでしょうけど、この曲は本当に勢いで作ったまんまです。歌詞も“この辺はないです”っていう(笑)。普通は採用しないところですけど、そこは堂々と。あと、これはお願いして入れてもらったんですけど、DTMができる人向けのサンプルが入ってます。BiSHとBiS、EMPiREの音源で実際に使ったドラムの音を入れてあります。僕の作った音楽が好きな人はめちゃくちゃ嬉しいはず。同じキックとか入ってるんですよ。

——おおっ! 実際にこの音を使用して楽曲を作って、ネット上に公開したりしても大丈夫なんですか?

松隈:

全然大丈夫です! ただ、概要欄にリンクとか貼ってほしいですね。“これは松隈さんのこの本に入ってます!”って(笑)。

松隈ケンタ サイン入りチェキプレゼント

『松隈ケンタ流 ロックDTM入門 ~パソコンとギターで始める 「ワンコーラス作曲法」』

著者:松隈ケンタ

定価:本体¥2,000+税

発売:2021年3月11日

発行:リットーミュージック

CONTENTS

intro DTMを始めるには何を準備したらいいのでしょうか?

Section A ワンコーラス作曲法のススメ

Section B ワンコーラス曲作り実践編!

Section C ワンコーラス作曲例「セミのチャーハン」

Section C’「セミのチャーハン」ミックス・ダウン分析

特別対談 アユニ・D(BiSH/PEDRO)×松隈ケンタ

outro DTM上達のためのアドバイス