10度目の開幕投手へ…涌井の大ブレークを誰よりも先に予言していた男

田中将にとっても涌井(左)は頼もしい存在だろう

【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】2006年のある夜、神戸市内の飲食店で西武投手陣ら数人と会食する機会に恵まれた。同席したのは松坂大輔、小野寺力(現ヤクルト二軍投手コーチ)、そして涌井秀章(現楽天)。野球談議に花が咲いた。

このシーズンを最後に松坂はメジャー移籍。公言はできない状況だったが、NPB在籍中の関西遠征は最後というタイミングだった。そんな事情も重なり、新人時代から3シーズンにわたって担当記者を務め、神戸在住の僕に声を掛けてくれたのだ。店を出る直前に松坂の残した言葉が印象的だった。

「まだ言えないけど、たぶん僕はアメリカに行くかもしれない。そうしたら、涌井のことを僕だと思って取材してあげてください。これから必ず西武を背負っていく存在なので」

当時の涌井はプロ2年目。炭谷銀仁朗(現巨人)との10代バッテリーで話題になったころだ。06年に12勝を挙げ、07年には17勝で最多勝。松坂の言葉通り、西武のエースに成長した。

その涌井が今年は開幕投手に指名された。西武で5度、ロッテで4度、今回を入れて通算10度の大役は東尾修に並ぶ歴代5位の記録だ。それ以上に目を向けると金田正一(国鉄、巨人)、鈴木啓示(近鉄)の14度、村田兆治(ロッテ)の13度、山田久志(阪急)の12度と、もうレジェンドの名前しか出てこない。

昨年の涌井は新型コロナ禍の影響による変則日程をものともせずに11勝を挙げ、史上初となる3球団での最多勝のタイトルを獲得した。そして今回は3月26日の日本ハム戦(楽天生命)で2リーグ分立後2人目、パ・リーグ初となる3球団での開幕投手を務める。

いつまでも若々しいイメージだが、17年目を迎えた涌井は今年6月で35歳になる。NPB通算144勝は現役2位。先輩・松坂の日米通算170勝も見えてきた。

松坂から受けた言葉をよそに、僕は涌井と疎遠だった。たまに取材現場で遭遇すると「また阪神の取材のついでに来たの? 僕のこともたまには書いてよ」などと声を掛けてくれるが、これ以上に実績を積まれると相手にされなくなるかもしれない。

今季はヤンキースから田中将大も加入し、楽天はV候補の筆頭格となった。東日本大震災から10年の節目でもあり、何かドラマチックなことが起きそうな予感もある。今季は涌井の登板に合わせ仙台へ取材に赴こうと思う。

☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。

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