【MLB】“野茂効果”を実感したダルビッシュ 新たな環境に吹く3つの追い風

パドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

2度目のライブBPで7人に1安打2奪三振、最速155キロをマーク

パドレスのダルビッシュ有投手が2日(日本時間3日)、実戦形式の投球練習「ライブBP」に登板。2回を想定し、対峙した7人の打者に29球を投げ、1安打無失点2奪三振と順調な調整ぶりを見せた。速球の最速は96マイル(約155キロ)。カッター、スライダー、ナックルカーブなどの変化球も切れ、球団アドバイザーの野茂英雄氏からの助言を得て多投したスプリットは「落ち幅は去年までとはかなり違います」と手応えを口にした。2月25日(同26日)に続く2度目の実戦登板は実り多いものとなった。

前回2月25日(同26日)の実戦形式登板から4日を空けて臨んだ投球は、速球も変化球も「この時期にしてはいい」と好感触を得た。「最後は本当によかった」と声を弾ませた速球は96マイル(約155キロ)を計測。一番のテーマにしたのは、球団アドバイザーを務める野茂英雄氏から幾つものアドバイスを受けてきたスプリット。計測器による前回のデータがカッターと同程度の落ち幅を示したことを踏まえ「落ち方としては、多分、(昨年より)相当変わっていると思います」と“野茂効果”を実感している。

ナックルカーブはオフに採り入れた体の使い方を反映させた。

「上からテニスのサーブのような感じで投げるように今日はしてました」

強い回転をかけカーブの縦割れをさらに鋭くするための足の使い方と腕の振りは、上げたボールをラケットで振り下ろすテニスのサーブからヒントを得た。昨季記録した93個の三振のうち、10個を奪ったナックルカーブに新たな工夫を凝らす。

ダルビッシュは「バッターの反応を見る限りはまったく問題はないかなと思います」とこの日の投球を総括。順調な仕上がりに満足感を漂わせた。

捕手カラティニとの強固な信頼関係、田中将と6年間過ごした投手コーチ

この日、マスクを被ったのは共にカブスからトレードで移籍したカラティニ。2019年7月半ばの登板から、昨季はプレーオフを含む13試合を受け、2人は25試合連続でバッテリーを組んでいる。この間の防御率は2.40を記録している。

ダルビッシュは登板の間にこんなやり取りがあったことを明かした――。

「あまり球速が出てない」と耳打ちされ、これが引っかかっていた。登板後、ダルビッシュは「150キロ台がコンスタントに出ていた!」と反論。しかし、相棒から返ってきたのは優しい笑みだった。投手心理をくすぐるカラティニの技も信頼から生まれている。

ダルビッシュは、ラリー・ロスチャイルド投手コーチとも打ち解けはじめた。

「すごくポジティブな言葉を言ってくれて、自分がやろうとしていることにちゃんとリスペクトを持ってくれている。やり易い環境を作ってくれているなと思います」

就任2年目のラリー・ロスチャイルド投手コーチは、2019年までの6年間を田中将大投手(現楽天)とヤンキースで共に過ごした。田中の意見を尊重するスタイルに徹し、迷いが生じた時には長年の経験から培った的確な助言で右腕に寄り添った。ロスチャイルド投手コーチはダルビッシュについて、数日前の会見でこう語っている。

「大抵の投手は、入り球やカウントを優位にするために直球を投げ、変化球は優位なカウントからだ。でも、彼は逆。どの変化球にも切れと制球に自信を持っている。彼が直球を投げる割合は不利なカウントより優位なカウントからの方が高い。カットとスライダーの多投はそういうことだ。(過去には)彼のこうした投球に口を挟む人々もいたと思うが、この特徴を理解することはとても大切なこと。いつどの球を投げるかを分かっている」

田中将の通訳を務めた堀江慎吾氏がサポート

同コーチの気遣いが優秀な通訳招聘につながった。2014年のヤンキース入団から昨季まで、田中の通訳を務めた堀江慎吾氏を球団に推薦している。英語での会話に不自由しないダルビッシュにも、伝わらないニュアンスはあるはず。機微に触れる言葉を的確な日本語で田中に伝えた堀江氏は、「絶対に伝え間違いは許されない」場面で積んだ経験を糧に、再びアメリカに戻って来た。

「ダルビッシュにアドバイスされたスライダーがすごく良くなった」

この日、オープン戦初登板を果たし勝ち投手になった21歳のウェザースは嬉しそうに言った。

ダルビッシュが「僕もいろいろなピッチャーから学びたい」と話したのは2週間前。新天地に広がるリスペクトの輪は日々広がりを見せている様子。オープン戦デビューに向け、34歳の右腕は、心技に充実した調整を進めている。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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