NZの学校教育、コロナ禍乗り切るヒントとは? テクノロジー、学校・家庭間の連携 【世界から】

国家非常事態を宣言し、記者会見するニュージーランドのアーダン首相=2020年3月、ウェリントン(ゲッティ=共同)

 新型コロナウイルスがまん延する中、各国同様、ニュージーランドでも教育への影響を最低限に抑えようと、政府や現場はさまざまな手段で学習指導を行った。今年1月、新型コロナが学校教育に与えた影響をまとめた報告書「インパクト・オブ・コーヴィッド19・オン・スクール」が発表された。そこには学校教育がコロナ禍を乗り切るための課題とヒントが記されている。(ニュージーランド在住ジャーナリスト  クローディアー真理=共同通信特約)

 ▽学生への負担軽減策

報告書は教育施設における教育やケアの質を公に報告する公共サービス機関、エデュケーション・レビュー・オフィス(ERO)によるものだ。1万5000人の学生、1800人の学校長、1400人の教師を対象に昨年5月から9月に聞き取り調査が行われた。

 特に影響が大きかったと指摘されたのは、「ナショナル・サーティフィケーツ・オブ・エデュケーショナル・アチーブメント(NCEA)」を受けた高校生14万人だ。NCEAは、高校教育認定資格・大学入学資格を得るための全国統一テストで、国内の各資格を管理するニュージーランド資格庁(NZQA)が審査・認定している。NCEAは毎年学年末にあたる11月初旬に行われる、1年の集大成ともいえるテストだ。

NCEAの全国統一テストの結果をネットで確認。発表当日は朝からプロバイダが混雑してつながらないこともある=クローディアー真理撮影

 昨年はニュージーランドもコロナに明け暮れた1年だった。3月19日、前代未聞の国境閉鎖を敢行したのを皮切りに、その1週間後の26日からロックダウンと学校閉鎖が開始され、約7週間続いた。新学年が2月に始まり、学校生活に慣れてきた矢先に学生たちは学習の場を失った。

 未曾有の事態ながら、政府は迅速に学生の負担を軽減する策を打ち出した。まず5月13日に、NCEAのテスト期間の繰り下げを発表。例年より約2週間遅れで行われることになった。

 続いて6月3日には、テストの結果得られる単位の割り増しを行うことを発表した。「ラーニング・リコグニション・クレジット」と呼ばれる単位だ。「学生の努力を認める」というスタンスのもと、「可」の成績で合格した科目数に応じ、単位が通常より多く加算された。また大学入学資格を得るために必要な単位数の削減も行われた。これらの処置は2011年2月にクライストチャーチで起きた地震といった大きな災害に見舞われた学生が同テストを受ける際にも行われた。

 学生たちはこれをこぞって歓迎した。成績が良い生徒もである。筆者が知る13年生(日本の高校3年生)の生徒たちは口々に「少し安心して勉強が続けられる」と言い、11、12年生は「学校閉鎖でやる気が失せていたが、勉強を再び軌道に乗せようという気になれた」と笑顔を見せた。

  ▽急きょ新プログラムへ

 学校閉鎖に応じ、学習形態も変化した。高校生向けにはテクノロジーを取り入れ、Zoomなどのウェブ会議サービスを通した家庭学習に切り替えられた。教育省は急きょオンライン教育専用の「クラスルームNZ2020」と名付けたプログラムを作成・実施した。これにはNCEAの全国統一テストの準備も網羅されている。

学生の手元に戻ってきたNCEAの全国統一テストの答案用紙=クローディアー真理撮影

 とはいうものの、コンピュータがなく、インターネットへのアクセスもできない、生活困窮家庭もある。同省はそうした家庭5万3000世帯を目標にインターネットを行きわたらせたり、全国約100校の2万人ほどの学生のために「クラスルームNZ 2020」を学ぶ環境を整えたりした。4月から9月頭までに教育省はノート型PC3万台以上を配布する一方で、テクノロジーなしに学べる教材も約1万人分用意した。

 報告書「インパクト・オブ・コーヴィッド19・オン・スクール」によれば、調査対象となった学校の3分の2が学校閉鎖に際し、うまく準備を整えられたと自己評価している。約80%の学生が、教師が個人的に連絡をとり、どうしているかを確認してくれたと回答している。しかし、学校も教師も努力を怠らなかったものの、学生へのインパクトは大きかったようだ。

 NCEAを控えた高校生は特に悪戦苦闘していたこともわかった。ロックダウン後、コロナ禍で登校する気持ちを尋ねたところ、「学校を安全と感じる」と答えた学生は58%に過ぎない。終業・卒業までの残された期間を肯定的に捉えられず、学習がうまくいかないだろうと考える学生は74%にまで上った。また約4分の3の学生が学習に遅れをとっていると感じている。

 国内最大の都市、オークランドは2週間弱、他エリアより長くロックダウンを経験している。学校を安全と捉える学生は40%に満たず、教師の約26%しか、学生が勉強に取り組んでいると感じていない。

 調査期間の後半に当たる9月には、調査対象となったすべての学校の半分近くが学生の出席率について懸念を表している。

 一方、学校閉鎖から得られたこともある。その1つにテクノロジーを取り入れた学習が挙げられる。3分の2の学校が今後もこれを継続していくという。学生が自分の学習を自己管理するスキルに磨きをかけるのにも役立った。また、保護者による学習への関与の度合いも顕著に高まったという。学校閉鎖中、学校や教師と共に、学生を支えてきたのは学生の家族だというのだ。ある校長は、「普段なら5年かかるところ、たった7週間で各家庭との連携を築けた」とEROに話している。

 ▽保護者の教育参加

 こうした結果を踏まえ、2021年における教師と学校への指針も報告書には触れられている。最優先事項は、学生の精神・身体面の健康を守ること。そのために校内に、教師と校内全関係者が協力し合って「ウェルビーイング(福利)チーム」を設けることが勧められている。教師は各学生が精神面においてどれだけコロナの影響を受けているかを推し量り、学校閉鎖になった期間の分、学習が遅れをとっていることを念頭に置いて、今年の勉強を進めるべきとしている。そして学校のリーダーの4分の1が学習面で有効としているのが、保護者が学生の学習に関心を持ち、協力・支援をすることだ。

近年、科目によりNCEAはコンピュータでテストを受けられるようになった(FreeImages.com/Gokhan Okur)

 将来ロックダウンで学校封鎖になった場合、学生に何が必要かも割り出されている。それは、テクノロジーを取り入れた学習と、各家庭との良好な関係を維持することだ。これらが学校閉鎖を乗り越える決め手になる。

 3日間のみとはいえ、今年は早くも2月15日にコロナの警戒レベルが一段階上がった。オークランドはロックダウンになり、学校閉鎖も行われた。昨年はコロナによるロックダウンも、学校閉鎖も初体験で、学校教育は模索状態で進められた。しかし、今年は違う。テクノロジーを取り入れた学習と、保護者の学校教育への参加という鎧で身を固め、学生もまたコロナと闘いながら、前に進んでいく。

© 一般社団法人共同通信社