ベテルギウスは何度? 赤色超巨星の表面温度を新たな手法で調べた研究成果

赤色超巨星の表面温度を測定するイメージ図(Credit: 東京大学)

東京大学大学院の谷口大輔氏らの研究グループは、オリオン座のベテルギウスに代表される赤色超巨星の正確な表面温度を調べる手法を開発したとする研究成果を発表しました。

■ベテルギウスの表面温度は摂氏約3,338度と算出

質量が太陽の8倍よりも重い大質量星はやがて超新星爆発を起こしますが、その前に赤く輝く巨大な恒星である赤色超巨星に進化すると考えられています。発表によると、こうした星の進化や超新星爆発の時期を予測する上では赤色超巨星の正確な温度を知ることが重要なものの、赤色超巨星の上層大気は構造が複雑であり、その下にある表面の正確な温度を観測によって測定することは困難だったといいます。

今回、研究グループは後述する鉄(Fe)の原子を利用した手法を用いて、太陽に比較的近いベテルギウスを含む10個の赤色超巨星の表面温度を調べました。従来の手法は複雑な数値モデルを使う上に誤差も大きくなりやすかったといいますが、今回開発された手法は簡便に利用可能だといい、発表では「体温計を向けるだけで正確な温度が測れるようになったもの」と表現されています。

観測データを分析した結果、ベテルギウスの表面温度は3,611ケルビン(摂氏約3,338度)であり、十分に高い精度(統計誤差は30~70ケルビン程度)で決定することができたといいます。研究グループでは、今後さまざまな環境にある赤色超巨星の観測を通して、大質量星がどのように赤色超巨星へと進化し、そして超新星爆発を起こすのかという重要な課題に関する理論モデルを検証するための大きな手がかりが得られることに期待を寄せています。

■赤色超巨星よりも軽い赤色巨星の観測データを活用

赤色超巨星(左)の大気中で吸収線が生じる様子のイメージ図。一酸化炭素分子(CO)や水分子(H2O)の吸収線は上層で生じるのに対し、鉄原子の吸収線は表面近くで生じる。右下は地球の公転軌道、スピカ、アークトゥルス(赤色巨星)、ベテルギウス(赤色超巨星)のサイズ比較図(Credit: 東京大学)

研究グループは今回、恒星の大気中に存在する鉄原子の吸収線に注目しました。吸収線とは光のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を調べたときに波長の強さが弱くなっている部分のことで、元素が特定の波長の光を吸収することによって生じます。研究グループによると、水分子(HO)や一酸化炭素分子(CO)による吸収線は大気の上層で生じるいっぽう、鉄原子の吸収線は表面付近で生じるため、複雑な上層大気の影響を受けずに表面温度を知ることができるといいます。

赤色超巨星の温度を調べる前に、研究グループは正確な表面温度が知られている赤色巨星9個(アルデバランやポルックスなど)のスペクトルを分析しました。鉄原子による吸収線は複数生じますが、これら赤色巨星のスペクトルを温度順に並べると、ある吸収線はグラフの深さが変わらないいっぽうで、別の吸収線は温度が低いほど深く、温度が高いほど浅くなります。この2本の吸収線の深さの比(ライン強度比)を利用して、研究グループは表面温度を決定するための関係式を較正しました。

左:温度順に並べられた赤色巨星のスペクトルに現れた鉄原子の吸収線。右:2本の吸収線の深さの比(ライン強度比)と表面温度の関係を示したグラフ(Credit: 東京大学)

赤色巨星と赤色超巨星を比べると明るさが100倍ほど異なりますが、研究グループによると同じ元素(ここでは鉄)の吸収線の深さの比は明るさに左右されないため、赤色巨星の観測で得られたライン強度比と温度の関係は赤色超巨星にも適用できるといいます。つまり、すでに正確な温度がわかっている赤色巨星を目安にして赤色超巨星の表面温度を調べようというわけです。発表によると、鉄原子の吸収線のみを用いて赤色超巨星の表面温度を正確に決定したのは今回の研究が世界初の試みだとされています。

また、2020年12月に公開された欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ガイア」による高精度な恒星までの距離のデータをいち早く活用することで、表面温度だけでなく赤色超巨星の正確な明るさを推定することにも成功したといいます。大質量星の進化に関する理論モデルは幾つか提唱されているものの、今回の研究によって得られた赤色超巨星の表面温度と明るさの値は、ジュネーブ天文台の研究グループによる理論モデルの予想とよく一致したとされています。

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Image Credit: 東京大学
Source: 東京大学
文/松村武宏

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