金正恩の「暴走ベンツ」と並ぶ北朝鮮の “恐ろしいクルマ”

北朝鮮の公道を走る車両は、ドイツ製の高級車メルセデスベンツの比率が高いとされる。車両の台数はかつてに比べ大幅に増えたとされるが、それでも諸外国よりはだいぶ少ない。その中にあって、ベンツが良く目立っているということだ。

一般の人々がクルマを所有するのが難しい状況下でも、朝鮮労働党や朝鮮人民軍、政府の幹部たちにはベンツがあてがわれているからだ。

そんな北朝鮮のクルマ事情の中で、ひときわ特別な存在となっているのが、イタリアのIVECO製のバスだという。秘密警察である国家保衛省の特別逮捕チームが使用していることから、「恐怖の象徴」として見られているようだ。

ちなみに、金正恩氏が自ら運転する「暴走ベンツ」も非常に恐ろしい存在と言えるが、今後はIVECOのバスが北朝鮮国民に恐怖を抱かせる回数が増えてくるかもしれない。

北朝鮮の金正恩総書記は1月に開かれた朝鮮労働党第8回大会の結語で、「社会生活の各分野で現れているあらゆる反社会主義的・非社会主義的傾向、権力乱用と官僚主義、不正・腐敗、税金外の負担などあらゆる犯罪行為を断固阻止」すると宣言した。同大会では、党中央委員会に「規律調査部」も新設されている。

さらに、先月24日の党中央軍事委員会第8期第1回拡大会議で同氏は、「人民軍内に革命的な道徳規律を確立するのは単なる実務的問題ではなく、人民軍の存亡と軍建設と軍事活動の成敗に関わる運命的な問題である」と指摘。「軍指揮メンバーの政治意識と道徳観点を確立するための教育と統制を強化すべき」と強調した。

国際社会の経済制裁と新型コロナウイルス対策の国境封鎖で経済難が深刻化する中、党と政府、軍の綱紀粛正で体制の引き締めを図るということだ。これに反したと見なされた者は、容赦なく粛清されることになる。

そのような粛清劇で暗躍するのが、IVECO製のバスを使用する特別逮捕チームだ。その実態について東亜日報記者のチュ・ソンハ氏は、自身のブログで次のように説明している。

「その部隊の名は『松明(たいまつ)逮捕組』と呼ばれる。正式には国家保衛省戦闘機動部所属の『特殊作戦小組』なのだが、松明の名で呼ばれるのには理由がある。彼らが出動する際に乗るバスのフロントガラスの上段には、赤い松明の朝鮮労働党マークが描かれた特別通行証を貼り付けてある。それが夜間に赤く輝くことから付けられたのだ。

この通行証を付けた車両は、北朝鮮のすべての交通哨所と遮断哨所を検問や一時停止もなく通過することが出来、金正恩の警護部隊である974軍部隊が警備する中央党庁舎や、中央党の最高幹部らの邸宅の遮断哨所さえもが、この松明のマークを付けた車両を阻むことはできない」

また同氏によれば、北朝鮮でIVECO製のバスは、他にとんと見かけないという。そのためこのバスが道路を走っていれば、何か良からぬことが起きると誰もがわかる。チュ氏によると、どれほど権勢を誇った幹部でも、松明逮捕組の車両が迫って来るや「猫の前のネズミ」のようになり、意気消沈するという。

果たして今後、このバスで連行されることになる幹部は、どれほどの数に上るのだろうか。

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