「漂流ポスト」清水健斗監督インタビュー 「被災者ファーストで物語を作らなくてはいけないと思いました」

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東日本大震災で大切な人を亡くした人の”心の復興”を描いた映画「漂流ポスト」が、震災から10年となる本年の3月5日から劇場公開される。公開を前に、監督・脚本・編集・プロデュースを務めた清水健斗監督のインタビューが公開となった。

2011年3月12日に仕事で岩手を訪れる予定だった清水健斗監督は、自分が1週間前に訪れた場所が津波に流されてしまう様子をニュースで見て、他人事とは思えなかったことから長期ボランティアに参加。そこで実際に見聞きした被災者の想いを風化させないために、ニュースで知った“漂流ポスト”を題材に、心の復興を描いた映画を製作した。

「漂流ポスト」は、東日本大震災で亡くなった人への想いを受け止めるために作られた、岩手県陸前高田市の山奥に建てられた実在のポストを題材とした30分の短編。東日本大震災で親友の恭子を失ったことを受け入れられずに過ごす園美が、漂流ポストの存在を知り・・・という物語が展開される。漂流ポストの存在を知った清水健斗が、監督・脚本・編集・プロデュースを手がけた。これまで国内外の映画祭などで上映され、ニース国際映画祭やロンドン映画祭などで多くの賞を受賞してきた。

【神岡実希&中尾百合音インタビュー】

Q. 漂流ポストとは何ですか?

岩手の陸前高田市にあるポストで、被災者の方が、3.11で亡くなったご家族や恋人や友人などに向けて想いを手紙にして届け、亡くなった方に想いを馳せるポストです。

Q. 本作の制作の経緯をお教えください。

もともと僕がCMの制作会社にいる時に、2011年1月から岩手に通っていて、3月12日に現地でロケハンがある予定で、3.11の地震の5分くらい前まで現地の方と電話で話していたんです。僕は電話を切って5分後に東京で被災したので、東北の方は電話を切った瞬間ぐらいに地震に遭っていて、1週間後にやっと連絡がつきました。その方は無事だったんですけれど、もし1日ずれていたら僕も震災に遭っていたでしょうし、生かされているんだなとその時感じました。仕事が落ち着いたところで、ボランティアがゴールデンウィーク明けにいなくなるという報道があったので、3月に自分が行く予定だった岩手の陸前高田、大槌、釜石に長期ボランティアに行きました。その時避難所に一番長くいたので、避難所の方と一番話したのですが、心に負った傷や受け入れられない現実など生の声を聞く機会が多かったので、映像に関わっている人間としては、そういったものを伝えていかなくてはいけないなと感じて、悶々としていました。けれど、3年くらいすると、あれだけ被災地に行って学んできたのに、意外とそのことを忘れてしまっているとふとした時に気づいたんです。3.11の1年後、2年後、3年後と特集するテレビ番組が減っていったりだとか、風化が進んでいると実感したので、映像を使って風化を止めるような作品を作りたいなと思いました。それを考えている時にドキュメンタリーで漂流ポストの存在を知って、漂流ポストをモチーフにすれば、僕のやりたい風化を止めるような作品ができるではないかと思い、漂流ポストを管理している赤川さんを訪ねて交渉を重ねて、映画化しました。

Q. 脚本執筆時、どういう人たちに取材をしたんですか?

ポストに関しては赤川さんです。実際に来た方の手紙を見せていただいて、その方がどういう動きをしていたかとかを聞きました。演技にリアリティを出したかったので、みんな天を見るという話を聞いて、演技の中に入れたりしました。

手紙を書いた人に直接連絡したいと思ったのですが、赤川さんからやめた方がいいと言われました。「答えることがマスコミ向けになってしまい、本心で話してくれないから、監督がどういうことを描きたいかだとか、手紙を読んでどう感じたのかというのを投影してちゃんと描いた方がいいのではないか」と言われました。

被災者の心理は、ボランティアをやっている時に避難所にいた方ほぼ全員と話していたので、取り入れて行って、被災者の方が見ても見れるような描き方で、被害者ファーストで作ることを目指しました。昔はこうだった、あの時こうすればよかったという話は仲良くなると必然的に出てくるので、その経験を全部この映画に投影しました。

主人公が友達からの電話を取れなかったというのは、僕の経験からです。3.11の5分前に電話で話したのが僕の友達で、電話に出なかったら一生の別れだったかもしれないんです。もしこうだったらと想像を膨らませていきました。劇中の携帯は実は僕が3.11の時に持っていた携帯で、自己投影も入っています。

Q. 脚本を開発する上で注意した点はどこですか?

震災が物語の駒にならないことを心がけました。被災者の方に聞くと、映画の題材にした時にお涙ちょうだいものの道具にしか見えないそうで、「震災っていう設定は必要?」と思うそうです。製作者の都合で震災を使うというのは僕はありえないなと思い、とにかく被災者ファーストで物語を作らなくてはいけないと思いました。被災者が実際に見てどう思うか、実際に見れるか、被災者の目線に立って考えました。

Q. 本作で出てくる漂流ポストや主人公が他の方が書いた手紙を読むガーデンカフェ森の小舎や各地から送られてきた手紙は本物なんですか?

全部本物を使っています。ドキュメンタリーでは色々なテレビ局が漂流ポストについて扱っていますが、フィクションでは初になります。森の中にポストを建てれば再現はできるんですが、あそこの空気感であったり、場所が持つ意味は、それでは表現できないと思ったので、なんとしてもそこで撮りたいというのと、手紙は本物を使った方がよりメッセージ性が伝わると思ったので、そこは粘り強く赤川さんと交渉してOKをもらいました。

Q.ドキュメンタリー的なシーンもあるとの事ですが、どのシーンですか?

小舎の中で手紙を読むシーンは実は2回撮っているんですけれど、前日の取材の時に主演の雪中さんに劇中の衣装を着てもらい、「アングルテストをするから、役作りのために手紙を読んでて」と言って、手紙をその場で読んでもらったんです。ご本人はアングルテストだと思っているものを本編で使っているんです。演技でやったテイクも良かったんですけれど、演技でやったテイクと自然体で撮ったテイクは内面からくる空気感だったりが違ったので、それを活かしました。

Q. 被災地の方は、本作を見て何と言っていましたか?

東日本大震災津波 伝承館という国営の施設で上映会を開いて頂いた際に300人くらいが見ています。アンケートに答えていただき、「いい作品だ。外ものが作った震災映画とは違う。心理はちゃんと描けてると思う」と言ってくださいました。

Q.本作で特に注目してもらいたい部分はありますか?

画で伝わる、音で伝わる、視覚、聴覚、五感に訴える映画にしたいと思ったので、細かい映像の持っている意味だとか音の使い方で、日常にありふれたものの大切さを描き、作品全体を通しては、震災からどう立ち直るか、などを描いています。10年前は、みんなが支えあって、誰かのことを思って、みんなが協力した、人間としてはいいサイクルだったと思うんです。コロナの時代にも通じると思いますので、映像、音、作品全体を通したメッセージからそういったものを感じてもらって、何か今後の生活の中でちょっとしたことをもっと大切にしてもらえたら嬉しいと思います。

Q. インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。

『漂流ポスト』は、映像が綺麗なのはもちろんなんですが、風や水の音だったり日常の何気ない音をピックアップして拾い、音の表現にかなり力を入れているので、ぜひ映画館で五感を研ぎ澄ませて見ていただければと思います。見ていただければおそらく心の中に引っかかるものがあると思いますので、まずは映画を感じてもらえると嬉しいです。
映像で中学時代と心が曇った時代も表現し、美しい映像美を全面に出していますので、そういった部分を見ていただけると嬉しいです。

漂流ポスト
3月5日(金)よりアップリンク渋谷にて他全国順次公開
配給:アルミード
(c) Kento Shimizu

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