【なでしこリーグ歴代最多182点 大野忍 ひとりごと】前回お話しした通り、私は「WEリーグ」に新規参入する大宮のコーチとして新しい仕事をスタートさせました。ほぼ初対面の選手もいて、名前や性格、特徴を把握するところから始めていますが、やっぱり現場はいいですね。このチームはどこまで強くなるんだろうとか、この選手をどうやって導いてあげようとか考えるだけでも楽しいし、すべてのことに可能性が広がっているわけですから。
とはいえ、悩ましい問題も見えてきちゃっているんですよ。一番難しいのは選手のコンディション調整。今までなら、この時期に始動してリーグ開幕の4月に向けてフィジカルもメンタルも上げていくところですが、今年は秋まで公式戦はありません。プレシーズン戦があるとはいえ、そこに照準を合わせてしまうと秋まで持ちません。だから、コーチの立場としては、今から選手にバリバリやらせるわけにはいかないんです。
でも、選手からすれば「早くサッカーがしたい」という気持ちが強い。私も現役時代は同じでした。目標は先だといっても、逆算なんてしたくない。それに、もし50%の状態にしかなっていなくても、目の前に試合があったら100%でプレーしちゃうんです。女子選手にはそんな傾向があります。
そんなことを考えるだけでも大変なのに、今年は新型コロナウイルスの影響で延期になった東京五輪が夏に控えています。大宮からもなでしこジャパンに呼ばれる選手がいるでしょう。ベテランだけでなく、若手の抜てきもあるかもしれません。そうなると、代表活動に参加する選手と、クラブに残って調整している選手にコンディションの差が生まれてしまいます。
代表合宿に呼ばれると、クラブでのものとは比べものにならないコンディションが求められます。代表チームは活動期間が限られている中で、結果も出さないといけません。それは、生き残りを目指す選手も同じ。だから代表合宿で手を抜く選手なんていません。
そこでクラブのコーチが考えなければならないのは、クラブに残った選手のコンディションを代表選手に合わせていくという作業なんです。だって、クラブの選手に合わせるために代表選手のコンディションを落とすわけにはいきませんから。となると、今年は代表に選ばれていない選手も、代表チームと同じような曲線でコンディションをつくっていく必要が出てくるんです。
まあ、こんなことを口で言うのは簡単ですが、うまくいかないことのほうが多いでしょう。でもそれがサッカーだし、100人の選手がいたら100通りの調整方法があるわけですからね。コーチができることには限界があります。大事なのは選手個人の自覚と意識。まだ引退して間もない私だからできることもあるし、教えられることもあります。秋まで時間がある中で、しっかり導いてあげられればと思っています。