〈なれる〉

 漢字の書き取りで〈なれる〉と出題されたら、多くの人が真っ先に思いつくのは「慣れる」だろう。ところが、画数の順番なのか、手元の辞書には「馴れる」の方が先に載っている▲前者は〈経験を積んだ結果、初めのように緊張したり失敗したりすることがなくなる〉こと。後者は、野生の動物やペットが〈警戒心を捨てて親しみを表すようになる〉こと-と使い分けが説明されている▲7日を期限として東京など1都3県に発令中の緊急事態宣言が2週間程度延長されることになりそうだ。新規陽性者の数が下がりきっていない、病床使用率が5割を切り、ベクトルが下向きになることが大事、と首相▲ウイルスへの警戒心を捨てて「馴れ」てしまうわけにはいかない。ただ、政府の対応は、相変わらず行き当たりばったりで右往左往している感じが否めない。“ウイルスとの戦い”が始まって1年。「不慣れ」はいつまで続くのか▲一方で、緊急事態宣言の延長に関する限り、政府の抵抗感はすっかり薄れてしまったように思える。宣言を出してしまえばゴールの先延ばしは“誤差”みたいなものだ-とでも考えているのだろうか。私権の制約に慣れられては困る▲〈なれる〉には〈守るべき礼儀を欠いた態度〉の意味もあった。「狎れる」と難しい字を書く。(智)

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