三月のパンタシア・みあ、自身の“表現の源”を明かす! Podcastプロデューサー白井太郎と語るオーディオドラマの未来

三月のパンタシア みあ

Amazon Audibleオリジナルスクリプト作品として2020年12月にリリースされた、堤幸彦監督作品『アレク氏2120』を企画・プロデュースした白井太郎をホストに、各界からクリエイターを招き映像表現や新しいオーディオ作品のあり方について考えていく本対談企画。

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第二弾となる今回は、白井プロデューサーが注目する人気音楽ユニット「三月のパンタシア」みあとの対談インタビューを敢行。

三月のパンタシア

現在配信中のオーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートよりも甘い』の原作を手がけるなど、音楽にとどまらない多才ぶりで知られるアーティスト、三月のパンタシア・みあ。小説やイラストを音楽に盛り込んだメディアミックスによる表現世界を通じて、アイデアの欠片からひとつの企画が生まれていくまでを前後編でお届けする。

三月のパンタシア みあ × 白井太郎

「今回は、みあさんに授業していただく気持ちで」

―まず白井さんが今回、みあさんにオファーされた経緯を教えてください。

白井太郎(以下、白井):私は、みあさんが先日リリースされたオーディオ作品『ミステリリカルな手紙はチョコレートよりも甘い』のようなPodcast作品、「聴く物語」を製作してきました。2020年の12月に堤幸彦監督のもと、山寺宏一さん、梶裕貴さん、窪塚洋介さん、三石琴乃さんという方々にご出演いただき、『アレク氏2120』という作品をAmazon Audibleオリジナル作品として製作いたしました。

三月のパンタシア・みあ(以下、みあ):さっそく聴かせていただきました。とても面白かったです。

白井:光栄です。みあさんのようなアーティストの方にも聴いていただけることが、とても嬉しいです。

これまでは基本的に「小説」を聴く朗読作品を製作してきたんですが、そんな中、Podcastという文化をより多くの方に楽しんでいただくために企画したのが『アレク氏2120』でした。映画業界の第一線でご活躍される堤監督のもと、オリジナルスクリプトで聴く物語を作ることで、新しいファンを開拓し、Podcast作品の新たなパイオニアとして一石を投じたいという思いで作りました。

『アレク氏2120』

三月のパンタシアさんの楽曲との出会いは、ふとプレイリストから「三月がずっと続けばいい」が流れてきた時でした。まず楽曲にも惹かれましたし、ダイスケリチャードさんのアートワークにも心を奪われました。アーティスト名、楽曲、デザイン、全ての一致感というかコンセプトのまとまりが素敵だなと率直に感じたんです。

その後、主宰である「みあ」さんが小説も執筆されていて、物語と音楽をシンクロさせるというコンセプトを掲げていらっしゃることを知りました。私のPodcastでの最終的な目標は、音楽と同じように、Podcastも日常の「聴く」選択肢になるようにしたい。電車や車やご自宅では、意識することなく音楽を聴いていると思いますが、それと同じような感覚で「聴く物語」を選択してもらえたらいいなと。そうしたことを目標にしている中で、みあさんの試みにはとても刺激を受けました。

小説を書くというプロセスがなくても楽曲は成立するわけですが、なぜ小説からスタートしているのか? 今回のオーディオドラマだと、主題歌まですべてご自身でやられていたり、聴く物語として音楽と小説をとてもいい塩梅でミックスさせて、新しいメディアミックスの形に昇華させているところを、私自身とても勉強させていただきました。なので今回は、みあさんに授業していただくような気持ちで臨んでおります(笑)。

みあ:この間、千葉の方への移動時間に『アレク氏2120』を聴いていたんですが、東京から千葉まで、1話1時間50分の物語を聴いていたらあっという間でした。展開が早く、どんどんシーンも変わっていって、集中して聴いていたらあっという間だったということを、まず最初にお伝えしたかったです(笑)。

白井:ありがとうございます。とても嬉しいです。

三月のパンタシア みあ

“物語性”のある音楽世界――「三月のパンタシアの楽曲は小説ともすごく相性がいい」

みあ:インディーズ時代の三月のパンタシアは、最初から音楽と小説を紐付けていたわけではありません。ですが、当初から歌詞の世界観の物語性というものをすごく大切にしていました。私自身、物語性のあるものが音楽として好きだったので、ファースト・ワンマンライブでも曲と曲の間に朗読のような、ひとつの物語を感じさせるストーリー仕立てのライブを作ったりしていました。そうして活動を続けてきて、2018年の「ガールズブルー」という自主企画で小説と、さらにイラストも合わせて発表するようになったんです。

そのきっかけとしては、夏に新曲についてチーム間で話していた時、ただ単純に新曲を作ってYouTubeにアップするだけだと面白みがないかな、という話になったことです。せっかくだったらストーリーと紐付けて、夏企画として発表できたら面白いんじゃないかと。

三月のパンタシアの楽曲は小説ともすごく相性がいいので、小説をひとつ作ることになり、私なりに物語を考えることになりました。夏のエモってなんだろう? 自分の読みたい物語ってどういうものだろう? ということを考えて、私が思いがけずたくさん書き込んだものを提出すると、それがスタッフの想像を超えていたみたいで。「ここは絶対に書きたい」という想いを込めてプレゼンしたところ、私が小説自体も書くことになりました。誰も私が書くなんて思っていなかったんですが、でも、そうして後押しされましたね。

初めての経験ではありましたが、言葉を伝えるという仕事をしているので、新しいチャレンジのひとつとして始めようと思い、2018年から自分で小説を書き、それを基に作家の方が楽曲を製作しています。

―2018年の「ガールズブルー」企画開始まで、小説作品は書かれたことがなかったんですか?

みあ:もともと小説を読むのは好きでした。でも最初の頃に書いたものは、今はとても読めません(笑)。それはそれで好きですが、かなり拙くて。今も手探りで色々と勉強しながら書いています。

―白井さんは、みあさんの書かれた小説作品を読んでみていかがでしたか?

白井:最初から小説家を目指されていて、ずっと書かれていたのかと思うほどでした。自主企画の時点で初めて書かれた文章とは到底思えなかったですね。この対談企画の第1弾でBase Ball Bearの小出祐介さんとお話させていただいた時、よく「小説は書かれないんですか?」と質問されるとおっしゃっていました。

映画、文学、漫画など、本当に隙なく全ジャンルに造詣が深い方なのですが、そんな小出さんでも小説の執筆は難しいそうで、というのも、詩では端的に一言で済ませられるところを小説はすべてを描写していかなければならず、それは自分にはできないプロセスなのだと。それを両立させることは一流のアーティストでもとても難しいことなんだなと、お話を伺って感じましたね。

みあ:私はその逆で、行間がないと自分の中で歌詞が書けなかったんです。書く前に歌詞プロットのようなざっくりとした物語を書いて、それが最終的には小説というかたちになっています。

歌詞だと物語のすべては書き切れないけれど、すべて自分の頭の中にないと、歌詞の情景を端的に描けません。最初に自分の中にあるものを整理するためにも、物語にして書き出しているところがあります。私も小出さんのように、すぐに歌詞を書けた方が絶対に良いとは思うんですが(笑)。

―物語という散文で作った世界を、そこから再度歌詞として拾い出していく作業の段階になるとスムースにできるのでしょうか?

みあ:そうですね、物語の世界が自分の世界で固まっていると、小説を書きながら「だいたいこの辺がAメロだな……」と、何となく感じられたりするので。

白井:それはすごい感覚ですね。

小説・朗読・映画・アニメ――みあの“表現の源”になるもの

―最近では「#みあのカルチャー感想文」などの企画をTwitterで始められて、初回はアニメ『鬼滅の刃』でした。やはり文章を書くことがお好きなのでしょうか?

みあ:そうかもしれません。あの企画は、ステイホーム期間中に何かできることはないかなと考えた時、自分が好きなものをたくさん知ってもらいたいと思って始めました。好きなもののことで書き物もできるし、じゃあちょっとやってみようと。ほんとうに自分の好きなものだけをピックアップして、漫画、小説、アニメのジャンルからひとつずつ、定期的に更新していこうと思っています。

―Audible作品として、白井さんはこれまで多くの朗読作品を製作されています。みあさんのライブでも前半で朗読を、後半でライブを行なう形式を取られることがありますが、みあさんにとって朗読はなじみがあるものなのでしょうか?

みあ:これまでのライブでも朗読を挟みながら、シーンを変えて展開しています。周囲の人からは私の声が聴きやすいと言ってもらえることが多く、朗読に向いているというか、朗読が自分の武器のひとつなのかなと思っていて。ライブだけでなく、その他のプロモーションとして朗読をやらせてもらうこともあります。

―朗読には何か特別な感覚があるのでしょうか?

みあ:他の作家さんの作品を朗読したことはないのですが、自分の作品を読むと、どうしても粗探しみたいになってしまうところはあります。そうですね、他の方の作品/文章を読んでみると面白いかもしれません。

―普段はどのような作家さんの作品を読まれるんですか?

みあ:青春小説や恋愛小説ばかりで、好みが偏っているなと思います。具体的な作家さんで言うと、島本理生さん、朝井リョウさん、綿矢りささん……それから西加奈子さんは特に好きですね。

―作品が映画化されている作家さんが多いようですね。

みあ:映画も好きです。私はCoccoさんがすごく好きなんですが、好きになったきっかけも実は映画だったんです。塚本晋也監督の『KOTOKO』(2011年)という映画で、Coccoさんは主演、美術、原案、音楽も担当されていて、そこにはすごいエネルギーの塊が存在していました。それ以前からCoccoさんのことは知っていましたが、映画をきっかけとして曲を聴いた時、受け取り方が変わったんです。自分の心がすごく熱くなるのを感じました。

映画を観ていて、こういった経験をたくさんしています。例えば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)を観てビョークを好きになったり。あまり自分で意識したことはなかったんですが、物語と音楽が結びついているものに惹かれるのだなと思ったりします。

白井:なかなかディープな作品チョイスですね(笑)。

―今回のオーディオドラマ作品の原案となった小説にも映画的な描写が散見されますが、やはり映画から自然に影響を受けているという印象があります。

みあ:映画も好きですし、漫画も、小説も、音楽以外にも好きなものがたくさんあります。インプットという意味でも、アンテナを張って色々なジャンルの話題作を気にかけるようにはしています。

―白井さんはお好きな小説作品はありますか?

白井:参加させていただく作品は当然、読ませていただいています。ですが、個人的には小説よりもエッセイを読むことの方が多いですね。物語に限定せず「魅力ある言葉」を読むことが好きです。例えば書籍でなくとも、TwitterなどのSNS上で、その人特有の言葉を読むのも好きです。SNSでの呟きやnoteで公開している文章を読んで、ある言葉に感化されるかたちで、その人を好きになることが多いですね。広告のコピーライトも大好きで、短い文章で奥行きを感じさせてくれる「言葉」に自分自身、一番感化されるのだと思います。

「本当は気持ちを伝えたいのに、手を振り払われるのが怖くて言えなかったり……」

―みあさんの書かれた歌詞を読まれて、どうお感じになりましたか?

白井:「青春」がテーマということで、私が昔から敬愛しているBase Ball Bearさんの中期までの楽曲と近いものがあるかと思えば、全く違いました。小出さんが書かれる歌詞はどちらかというと、振り返ってみた時に「昔、解けない青春」という感覚で、みあさんの歌詞は「今、青春から出られない」というような感じでしょうか。完全に素人の感覚でしかないですが……。歌詞を読み比べてみると、視線が正反対だということに気づきます。

「青春は未解決事件のかたまり」とは小出さんのお言葉ですが、「事件」の捉え方の違いとでも言うのでしょうか。その捉え方の違いが面白くて、三月のパンタシアさんの楽曲は「事件真っ最中」で、Base Ball Bearさんの楽曲は「時効を過ぎた」ような感覚です。その意味では、みあさんが生み出すものは小説も曲も主観的な部分が強いのかなと。

―主観的というのは面白いご指摘だと思います。そうした言葉にならない感覚が、みあさんの場合は小説に向かうのではないでしょうか。みあさんの中では言葉にならない青春というものが、ずっとテーマとしてありましたか?

みあ:私は、17歳という季節がすごく美しいと思っているんです。純粋に若さもあるし、若さ故の危うさみたいなものも持ち合わせている。でも、だからこそ鋭く輝くものがある季節だと思っています。そういう季節の物語を書きたいなとずっと思っていて。年齢を重ねるにつれて青春ではない大人の話を書くかもしれませんが、今は自分の好きな季節のお話を書きたくて、青春時代の小説や歌詞を書いています。

―そうした青春への感覚はいつ頃から抱かれたのでしょうか?

みあ:大人になってからですね。それこそ“あの頃”として振り返るという感覚です。“17歳の青春”は『17歳のカルテ』(1999年)や『17歳の肖像』(2009年)など、映画の題材にもなりやすい。それだけ特別な季節なんだろうなと思っています。その時だからこそできることだったり、あの時だからこそ輝ける瞬間みたいなものがあり、そうしたものをもう一度、小説や歌詞で表現できたら素敵だなと思っています。

―音楽との出逢いはいつ頃でしたか?

みあ:三月のパンタシアを結成するずっと前から、音楽には触れていました。学生時代からバンド音楽をよく聴いていましたね。

―白井さんは、三月のパンタシアさんの楽曲をいつ頃から聴いていましたか?

白井:2019年くらいでしょうか。まさに小説やイラストをミックスする自主企画のあたりからですね。

―具体的に、どんな楽曲がお好きですか?

白井:ミーハー感が出てしまいますが「三月がずっと続けばいい」です。ファンの方には「もっと色々あるじゃん!」と言われてしまいそうですが(笑)。

白井:みあさんが先ほど仰った通り“17歳”にしかない青春の感覚があり、それは16歳でも、18歳でもやっぱり少し違う。それと同じように“三月”にも三月にしかない響きというものがあり、香りがある。それがアーティスト名にもなっていて、曲名にもなっている。とても感慨深いものがありました。“17歳”という言葉について考えたことはあっても、“三月”についてそこまで考えたことはなかったんです。“パンタシア”はラテン語で“空想”という意味でしたよね。

―空想と17歳の危うさについてふと思い浮かべたのが、「ポーの一族」などで知られる漫画家の萩尾望都さんが青春の危うさについて、やはり同じようにおっしゃっていたことです。萩尾さんも空想好きの少女だったようですが、みあさんにとっても空想は人生と照らし合わせた時に大切なものなのでしょうか?

みあ:私自身、アーティストとしての“みあ”とは別に、プライベートではなかなか言えなくなってしまうことがあります。例えば恋愛では、本当はこう思っているけど、言えなくなってしまってひとりでぶつくさ言ってみたり、本当はこの気持ちを伝えたいんだけど、手を振り払われるのが怖くてやっぱり言えなかったり。そういう時には空想に逃げるしかありません。学生時代から、言えないことを頭の中ではすごく考えて、そうやって現実と空想のはざまにいることが多かったです。ユニット名を決める時も、空想や幻想のような言葉が入るといいなと思っていました。昔から、空想したり妄想したりする習慣があるかもしれません(笑)。

―では「空想」を意味するユニット名はすんなりと決まったんですか?

みあ:そうですね、好きなワードを書いて集めた時、漢字とカタカナの組み合わせがかっこよくない? という話になってパッと決まりました。

―小説を書かれる時は、最初にタイトルが思い浮かぶんでしょうか?

みあ:それも様々です。タイトルは“伝えたい想い”をテーマとしてストレートに表すことが多いですね。タイトルが先に思い浮かぶこともあれば、書きながら思い浮かぶこともあるし、書き終わった後に、これだ! というものが思い浮かぶこともあります。小説にしても歌詞にしても、それは同じですね。

今回、オーディオドラマの主題歌になった「君をもっと知りたくない」は、最初にタイトルがありました。過去の失われた恋愛に対する苦い気持ち、同時に新しい恋愛に対してもちょっと臆病になってしまう気持ち、その人のことをもっと知りたいけど、でも知るのが怖かったり……という“心の揺れ”を描きたいなと思っていました。

三月のパンタシア みあ

<後編に続く>

三月のパンタシア・みあ、“叶えられない恋”に憧れる?「人とAIの友情や恋愛、そこで生まれる葛藤を描いてみたい」

取材・文:加賀谷健
撮影:本永創太

オーディオドラマ『ミステリリカルな手紙はチョコレートより甘い』はAudibleで配信中
主題歌「君をもっと知りたくない」は2021年3月10日(水)00:00から各配信サイトにて配信スタート

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