『日本の伝統文化を次世代に』 造船業と浅漬け  “畑違い”引き継ぐ

高齢化で日本の文化を継承する人が減っていることに危機感を募らせ「日本の伝統を次世代に伝えたい」と語る福田社長=長崎市宿町

 「日本の伝統文化を次世代に伝えたい」。造船業の合同会社福田(長崎市西山台1丁目)の福田令玉社長(50)は県事業引継ぎ支援センターの仲介でこの冬、後継者不在で存続の危機にあった“畑違い”の浅漬け専門の富士平野(長崎市宿町)の経営を引き継いだ。中国出身の福田さんは「受け継がないと日本社会の大きな損失になる」と挑戦する覚悟を決めた。

 福田さんは中国の吉林省長春出身。28年前に来日し、県内外で建設業や中華料理の出店、船の溶接などに従事した後、2015年に造船業の合同会社を設立した。現在、船の溶接を中心に請け負い、15人ほどの従業員を雇っている。
 日本の国民性やものづくりの精神に心を打たれ「自分で工場を持ち、その精神を吸収したい」と考えていた。日本の文化が好きだからこそ、高齢化で伝統を継ぐ人が減少していることに危機感を募らせていた。
 約2年前、「次世代に残したい」企業を見つけようと、中小企業の事業承継を支援する県の事業引継ぎ支援センターに登録。ちょうど後継者を探して登録していた富士平野と出合った。
 創業36年の富士平野。創業者で元社長の平野功さん(77)は、毎朝自ら市場に出向き野菜を厳選。手作業の味付けと防腐剤を使わない自然製法にこだわり、塩分控えめで子どもから高齢者まで食べやすい浅漬けは県内外にファンも多い。福田さんは日本の文化としての浅漬けと富士平野のこだわりの味に目を付けた。
 店を切り盛りしてきた平野さん夫妻は共に高齢で、従業員は約10人。夫妻には娘が3人いるが、「娘たちの人生だから」と事業を継がせることはなかった。

創業以来、平野さん(右)は毎朝市場で野菜を厳選し、こだわりの味を守り続けてきた=長崎市宿町

 福田さんと平野さんは昨夏に対面。その後、とんとん拍子に話が進み、昨年12月末に事業を引き継いだ。福田さんの妻の王春玲さん(43)も工場に入り、現在は2年を条件に平野さん夫妻が味付けや経営などを指導している。平野さんは「(福田さんが)あやふやな気持ちでないことが第一印象で伝わり、良い縁があった」と目を細めた。同センターの担当者は「地域に根付いた会社が廃業すれば地域経済に打撃を与える。熟練した従業員の雇用と漬物の味が受け継がれる意義は大きい」と話している。
 新型コロナ禍真っただ中の事業承継。福田さんは「正直焦りもある」と話しながらも、「コロナ禍の時こそ長崎に県産品で元気になってほしい」と営業で県内を駆け回る。全く違う分野に思える浅漬けと造船だが、「心を込めてものをつくる職人」という点で共通しているという。「浅漬けで国際交流」の夢もある。「“日本のサラダ”として浅漬けを広めていきたい」。福田さんの挑戦は続く。

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