バス車内は空気循環により飛沫粒子の増加を抑制できる、産総研などが確認

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産業技術総合研究所(産総研)は3月4日、いすゞ自動車との共同研究を実施し、バスは空調によって車内空気を循環させることにより、二酸化炭素(CO)の増加と比較して模擬飛沫核粒子の増加が小さいことが確認され、粒子がフィルターや空調内部へ沈着して模擬飛沫核濃度が減少していることが示唆されたと発表した。また、新型コロナウイルス感染対策として実施している窓開けなどによる換気回数が、車速・窓開け量に比例して増加することが確認されたことも合わせて発表された。

同成果は、産総研 安全科学研究部門 リスク評価戦略グループの篠原直秀主任研究員、同・内藤航研究グループ長、国立保健医療科学院の金勲上席主任研究官、東京工業大学の鍵直樹教授、そしていすゞ自動車および大洋工芸らで構成された共同研究チームによるもの。

従業員の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への感染リスクを考慮し、テレワークや時差出勤などを導入する企業が増え、一時期、出勤および帰宅時間帯における鉄道やバスなどの公共交通の混雑が大きく改善された。しかし時間帯や路線による差はあるものの、少なくとも首都圏では再び混雑する状況となってきている。テレワークでは業務を行えない職種も多いため、出勤せざるを得ない人も多く、難しいところである。

また、冬場も窓を開けるなどして常時換気を行うようにするなど、公共交通の運行会社側も取れる対策は取っているが、通勤・帰宅ラッシュでは乗客同士の密着した状態が一定時間続く状況となっている。不特定多数の人が利用する公共交通の混雑した車両内で、咳(せき)や会話などで発生した飛沫核がどのように挙動するかについては、対策を検討するうえで重要だ。しかし、これまでのところ、評価した研究事例はないという。

またバス車両の換気については、車内で煙を発生させて煙が見えなくなる時間から換気性能を確認している事例はあるが、これらは揮発により煙が消えていくため、換気の効果をかなり過大評価している可能性もあるとする。そのため、現時点において、実際の運行バス車両を用いてCO濃度減衰法により換気の効果を評価した研究事例はこれまでなかったという。

そうした中、産総研は今回、いすゞ自動車と大洋工芸の協力を得て、実際のバスの車両内にマネキンを多数配置して混雑状況を再現。そして、咳や会話などで発生した飛沫核がどのような挙動を取るのか、模擬飛沫核粒子を用いて解析する実証実験を実施したという。

飛沫核がCOなどで計測される空気と同様の挙動を示すのかを明らかにするため、車内での模擬飛沫核粒子とCOを一定速度で発生させ、それらの量が測定された。さらに、走行中の車両内の換気や、窓開けなどの対策の効果はどの程度なのかの把握も行われた。

乗客の会話や咳により発生した飛沫核の挙動を把握するため、乗客の顔の位置を想定した1か所から、COと模擬飛沫核粒子(ポリスチレンラテックス粒子、1.3μm)が発生させられ、車内5か所において粒子を計測。同時に、車内24か所においてCO濃度の計測も実施された。そして、粒子濃度とCO濃度の時間減衰に対して平均値による評価が行われた。

粒子計測器とCO計測器の設置位置の高さは立席と座席が想定され、それぞれ床面から150cmと70cmとされた。また各種条件下での「換気回数」を、ボンベから発生させたCO濃度をブロワーにより均一にした後の減衰から、「CO濃度減衰法」により推定がなされた。

なお、ここでいう換気回数とは、換気量(一定時間で室内に外気を取り込む量、もしくは室内空気を屋外に排出する量)を、対象となる室(屋内空間)の容積で割ったもののことである。室の容積分の外気が1時間あたり何回室内に取り込まれるか、もしくは室の容積分の室内空気が1時間あたり何回屋外に排出されるかを表している。

またCO濃度減衰法とは、CO濃度が室内全体で均一になるまでCOを室内に放出・攪拌し、室内外のCO濃度差の減衰と時間との関係から換気回数を計算する方法のことである。

そして実験の結果、空調によって車内空気を循環させた場合に、COの増加と比較して模擬飛沫核粒子の増加が抑えられ、換気回数として7倍程度に相当する効果が見られることが判明。一方、空調を稼働させない場合には、COの増加と模擬飛沫核粒子の増加に顕著な違いは見られなかったとした。このことは、空調により飛沫核粒子の低減化が期待できることを示唆しているという。

換気回数は、車速や窓開け面積に比例して増加することが確認された。窓開け量に比例して換気回数は増加し、窓を5枚すべて開けると、窓を閉めた場合と比べて、はるかに換気回数が大きくなることが確かめられた(今回の測定の際に、窓閉め時の車内外温度差が小さかったため、窓閉め時の換気回数が極めて小さかったとしている)。

2枚の窓を開けた場合は、対角に開けると平行に開けた場合と比べて換気回数が増加したが、その差はわずかであり有意なほどではなかったとした。換気扇の稼働でも換気回数は増加したが、前後の換気扇を両方給気にしていると換気回数は小さいことが判明。前後の換気扇を両方もしくはどちらかひとつでも排気にすると換気回数が大きくなることが明らかとなった。

実際にバスの車両を利用した今回の研究により、空気循環による模擬飛沫核粒子を低減化できる可能性を示すデータが取得された。今回得られた結果は、路線バスなどの走行時の窓開けといった感染対策、公共交通機関などの新型コロナウイルス感染リスク評価、対策技術の開発への貢献が期待されるとしている。