「美女2人が杭に縛られ…」北朝鮮に忍び寄る”暗黒の時代”

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「協同農場でトラクターの部品、タイヤの盗難が増えている」

これは、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた、首都・平壌にほど近いある農場の現状だ。

協同農場、国営の工場、企業所からの盗難が相次いだと言えば、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころだ。食糧配給が止まり餓死者が続出する状況で、人々は設備、機械、備品など手当り次第に盗み出し、市場で売り払って食べ物を得ていた。そのような罪を犯して逮捕された人々は多くの場合、見せしめとして公開処刑にされた。まさに「暗黒の時代」だった

韓国のニュースサイト・NK朝鮮の2001年3月23日付の記事で、脱北男性のキム・ウンチョルさん(証言時32=仮名)は、当時を振り返って次のように証言している。

「最も記憶に残るのは96年、新義州(シニジュ)の飛行場近くにある公開処刑場で行われた除隊軍人の男女5人の公開銃殺だった。女性2人は20代後半の美人だった。男たちと一緒に電線を切って中国に売り飛ばして逮捕された。若い女性が杭に縛られ、銃で撃たれて死ぬ姿を見るのはものすごく気分が悪かった。電線を切ったのは大きな罪ではあるが、あのように殺す必要があるのかと感じた」


そして今、コロナ鎖国下の北朝鮮では、苦難の行軍の再現が囁かれ、当時と同じような現象が起きつつある。

情報筋によると、道内の某市所在の協同農場で、トラクターのベアリングなどの付属品が盗まれる窃盗事件が今年に入って7件、車のタイヤを盗まれる事件が5件相次いで発生した。

生産手段の私有を認めない北朝鮮は民法49条で、協同農場配属のトラクター、田植え機、コンバインなどの農機具は国が所有権を持ち、協同農場に利用権を貸し与えると明記している。つまり、トラクターの部品を盗むことは国家財産を盗むことにあたり、重大な犯罪だ。

刑法91条は、国家及び社会協同団体の財産を盗んだ者は、1年から4年の労働鍛錬刑(懲役刑)に処すと定めている。283条個人財産窃盗罪の3年という量刑より重い扱いだ。

機械同様に国家財産の扱いを受ける、牛の盗難も相次いでいる。

「牛を小屋から引っ張り出して辺鄙な所に隠しておいて摘発された事例が10件を超える」
「牛を盗まれた人が、探しに出て他人の牛を盗むことも増えている」
(情報筋)

牛の窃盗は、機械より重罪扱いとなる。苦難の行軍のころには、牛を食べた罪で処刑される人が相次いだが、後に牛肉の販売が半ば公然と行われるようになった。これに対して金正恩総書記と朝鮮労働党中央委員会は昨年9月、牛の個人所有、販売、屠畜を厳しく禁じる指示を下した。

昨年12月、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の穏城(オンソン)で、空腹に耐えかねて、協同農場から牛を盗んで食べた男性が銃殺されたが、指示を住民に知らしめるための見せしめになったものと思われる。

これについて情報筋は、一部農場で施行されている圃田担当責任制の下で、牛の管理が農場から農場員家族に任されるようになり、牛を個人のものとする考え方が広まったことが背景にあると説明した。

ただ、窃盗の多発だけを持って「苦難の行軍が再来した」との速断は禁物だ。同様の窃盗は、食糧難が深刻化する前から頻発していたが、それが著しく増加したことを示す、さらなる証言、状況分析が必要だろう。

農機具の窃盗も問題だが、営農資材不足も深刻だ。遅霜から作物を守るビニール幕、肥料など、数多くの営農資材は中国からの輸入に頼っているが、コロナ鎖国により輸入がストップ。

「市や郡の農村資材供給所では閑古鳥が鳴き、住民は(建設)動員ばかりさせられている」(情報筋)

かねてから営農資材の不足は深刻で、農場経営委員会は、不足分を市場で購入して穴埋めをし、農民個人は、高利貸しから高い利子を払って現金の代わりに穀物を借りて、種や資材の購入にあてる状況にあったが、それがいっそう深刻化したようだ。