風向、風速が変化?漁業者困惑 猛烈な風が吹く「野母崎」 

脇岬ふれあい公園に移設された新観測所=長崎市脇岬町

 昨年9月の台風10号で、観測史上最大の最大瞬間風速59.4メートルを記録するなど猛烈な風が吹く地域として知られる長崎半島最南端の野母崎地区。今年1月下旬に、権現山にあった野母崎地域気象観測所(長崎市野母町)が、脇岬ふれあい公園(同市脇岬町)に移設された影響で、半島西側の沖で漁を営む高浜、野母の漁業者たちから「正確な風向、風速が分からなくなった。漁の安全に関わる」と困惑する声が上がっている。

 2月27日午前11時すぎ、旧観測所があった同市野母町の権現山を訪れると、日山神社の鳥居のそばにある旧観測局舎跡地は解体工事中だった。スマートフォンで地域気象観測システム(アメダス)を確認すると、新観測所の「脇岬」は「東北東、風速4.9メートル」。だが、標高が高い旧観測所の周辺は、もっと強い風が吹いているように感じられた。

新観測所と旧観測所

 「ここなら遮蔽(しゃへい)物もないし、全方角の風向、風速が分かるはず。山に囲まれている脇岬では北西の風は拾えないんじゃないか」。漁業者の50代男性は、権現山から西側の沖を眺めながらため息をついた。
 端島(軍艦島)周辺で瀬渡し船を運航している「第七ゑびす丸」の船長、馬場広徳さん(60)=同市高浜町=も長らく旧観測所の情報を目安にしてきた。ところが「脇岬」に変わってから「沖に出ないと実際の風向、風速が分からなくなった」と証言し、こう語気を強める。「冬は天気が変わりやすい。時化(しけ)になる前に釣り客を迎えに行かなければ命に関わる。はえ縄、刺し網漁も途中で作業を止めることはできない」
 一方で、移設した理由について長崎地方気象台は「アメダス機器が停電に3日間耐えられるよう大型バッテリーへの更新が全国的に進んでいる」とした上で、「(野母崎も)将来的な更新に備え、広い土地への移設が必要だった」と説明する。

解体工事が進んでいる旧観測所(鳥居の右手)=長崎市野母町

 それでも移設後に観測される風向や風速に変化があるのは一定想定していたようだ。担当者は「脇岬は北方が山に囲まれている。冬型の気圧配置に伴う北西の風は山にさえぎられ、観測する風向きが野母崎とは変化したのだろう」と推測。「漁業者の声は理解するが、特殊なケースを除き、近い2カ所に観測点を置く例はない。気象台がすぐに対応できるわけではない」としている。

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