いながきの駄菓子屋探訪35愛知県名古屋市北区「くじや」欲望との付き合い方を安全に学べる場所

全国約250軒の駄菓子屋を旅した「駄菓子屋いながき」店主・宮永篤史が、「昔ながらの駄菓子屋を未来に残したい」という思いで、これまで息子とともに訪れた駄菓子屋を紹介します。今回は愛知県名古屋市北区の「くじや」です。

名前のない店

名古屋飛行場(小牧空港)の南側。名古屋市と春日井市の境目の住宅街で、昔ながらの駄菓子屋を見つけたので訪ねてみました。「くじや」という手彫りの板がかかり、ガチャガチャとベンチがある店先。店名を示すような看板らしい看板がないのが特徴的で、ローカルな商いの雰囲気に、よそから来た者としてはとてもワクワクします。

年季の入った棚やガラスケースが、土間の部分に置かれている小ぶりな店内。子どもたちが3〜4人来ればいっぱいになってしまいそうですが、懐かしさや温かみを感じる、まさしく昔ながらの駄菓子屋です。「いらっしゃい」と出迎えてくれた女性の店主にお店の名前を訪ねると、店名はなく、いつからか定着した「くじや」が通称とのこと。売り場を見ると、なぜその呼び名なのかがすぐにわかります。おもちゃが当たるくじ、金券くじ、当たり付き駄菓子など、くじ引きを伴う商品がかなり多く陳列されていました。

くじやは昭和45年(1970年)ごろ、在宅で仕事をしようと土間付きの自宅を建て、観賞魚店として店主が創業したそうです。当時から店名がなく、創業時の通称は「金魚屋」。新興住宅地で近所に子どもが多かったことから、その後に駄菓子も置くようになり、平成元年(1989年)ごろに専業の駄菓子屋になったとのこと。くじ引き商品が多いのは、問屋さんから勧められたものを置いたり、子どもたちのリクエストに答えていった結果なんだそうです。

売れるものでも、どんどんなくなっていくので寂しい

「昔は今よりもっと、くじの種類がたくさんあったんですよ。『カレーすくい』っていうカレー味のせんべいのくじもあったし、『白せんべい』というのも人気がありました。どれもだいたい、ハズレだと1個、当たりだと数多くもらえる、というものでした。『落としくじ』っていう、おもちゃが引っ掛けてある棒を穴に落とすものもよく売れました。駄菓子もメーカーがなくなって種類が減っちゃってるけど、くじも同じ。ちょっと前だと大黒屋のミルクパン(2013年終売)、最近だとコリスのガム(2020年終売)。売れるものでも、どんどんなくなっていくので寂しいですね。子どもたちがくじが好きなのは、今も昔もなんにも変わらない。当たって大興奮してる姿は、いつの時代も微笑ましいですよ(笑)」

駄菓子はコンビニやスーパーマーケットでも買えますが、くじ引きは駄菓子屋を象徴するもののひとつとなっているように思います。誰もが持っている「幸運を得たい気持ち=射幸心」を、優しく刺激してくれる駄菓子屋のくじ引き。それを豊富に取りそろえるくじやは、「駄菓子屋は、欲望との付き合い方を安全に学べる場所だなあ」とあらためて感じさせてくれたお店でした。

くじや

住所:愛知県名古屋市北区六が池町223

電話:052-901-6571

営業時間:月~金13:00~18:00、土日祝10:00~18:00

定休日:不定休

[All photos by Atsushi Miyanaga]

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