「卑劣なやり方」で吊された北朝鮮の刑務所幹部

北朝鮮で今年1月の朝鮮労働党第8回大会後、党中央委員会に新設された法務部が、教化所(刑務所)などの矯正施設を管理する社会安全省(警察庁)の高位幹部に対する検閲(監査)と処罰を断行した。

法や新たなシステムができた直後には、周知効果を狙ってあえて、目立つポジションにいる人物を吊るし上げにするのが北朝鮮の常套手段だが、今回の動きにもそのような目論見があるようだ。

デイリーNKの内部情報筋によると、法務部は先月28日、平壌市牡丹峰(モランボン)区域にある社会安全省教化局の運動場に、職員全員を集めた上で、教化局長に対して解任、撤職(更迭)、出党(労働党からの除名)を言い渡した上で、黄海北道(ファンヘブクト)麟山(リンサン)郡に追放した。


詳細は不明だが、麟山には大規模な露天掘りのモリブデン鉱山があることから、そこの一労働者として送り込まれた可能性が考えられる。

同時に、平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)、平壌市郊外の江東(カンドン)、慈江道(チャガンド)の城干(ソンガン)、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)の4ヶ所の教化所(刑務所)の所長と、保安課長も、降格処分を受けた。

城干の6号教化所では昨秋、職員を総入れ替えする大々的な人事異動が行われている。

社会安全省をターゲットにした検閲(監査)、処罰が部署開設から1ヶ月足らずで行われたのは、上述の通り、周知効果を狙った吊るし上げだ。

法務部が打ち出した検閲の基準は、教化所が規定通りに運営されているか、教化所の保安課の余罪再審が原則どおりに執行されているかの2点だ。

余罪再審とは、教化生(受刑者)との面談を繰り返し行い、捜査や予審(起訴前の段階)で自白していない余罪がないか、他人の犯罪を知らないかを調べるというものだ。この段階で、幹部、トンジュ(金主、新興富裕層)のみならず、一般個人や団体、機関の余罪を見逃す見返りにワイロを要求していたことが、検閲の結果で明らかになった。

价川と咸興の教化所では、保安課長、保安課指導員が教化生の余罪を把握した上で、「お前の余罪について、他の教化生から聞いた、さてどうする?」などと迫り、ワイロを受け取っていた。

上部機関の社会安全省教化局は、そのような実態を知りつつも、教化所の保安課長らから中国製、日本製のバイクや現金を受け取り、見て見ぬ振りをしていた。

「このような社会主義教化原則を毀損する、許しがたい卑劣なやり方が黙認または助長されているとの報告が中央に上がり、検閲と処罰に至った」と述べた情報筋は、今後も同様の職権乱用に対しては、党の根幹を揺るがす反党的行為として、厳罰に処す方針だと伝えた。

強力な不正取り締まりに対して、現場では緊張感が漂い、「規律教化や教化秩序の点検くらいと思っていたが、今回は本当に違った」(情報筋)との声が聞こえるという。

法務部の取り締まりは、社会安全省以上に強大な権力を誇る国家保衛省(秘密警察)ですら免れられないだろうと囁かれている。実際に法務部は、社会安全省に対する検閲を今月15日で終了し、次いで国家保衛省、検察所、裁判所の順に綿密な検閲を行う方針を示しているという。

多くの幹部は自分がやられないかビクビクしつつ、吹き荒れる検閲の嵐が収まり、また元の鞘に戻ることを期待しているだろう。幹部と言えども極端な薄給に苦しめられる現行の給与体系では、ワイロなしでは生きていけないからだ。

また、幹部の懐に入ってきたワイロは、上へ上へと吸い上げられ、平壌の高位幹部の懐や、国庫に収められる。幹部の不正取り締まりは、ワイロや税金外の負担などに苦しむ庶民には受けのいい政策である一方で、本当に不正が根絶されたとしたら、国庫が空っぽになるというジレンマを抱えているのだ。

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