小さな“お客さま”の見守り役 船通園支える島の日常【ルポ】

船に乗り込む子どもたちに、船員が声を掛ける。「いってらっしゃい」=五島市久賀島

 人口300人弱という長崎県五島市久賀島には保育施設がない。就学前の子どもたちは毎朝、保育園などがある隣の福江島へ船で通っている。今月初旬、わずか20分の船旅に同行し、慌ただしくにぎやかな通園風景をのぞいた。

◆日々の表情 
 午前7時45分、久賀島の田ノ浦港。福江港へ向かう定期船が、エンジンを吹かして小さなお客を待ち構えていた。
 間もなく、子どもたちが保護者の運転する車で続々と港に着いた。船に乗り込む前に、顔なじみの船員とハイタッチやあいさつを交わす。「子どもたちの表情が毎日違って面白いよ。イヤイヤのときも、ルンルンのときもある」。船員の一人が教えてくれた。
 左右の船窓に面して長椅子が並ぶ船内。子どもたちは福江島に渡るお年寄りの隣にちょこんと腰掛けた。桟橋で見送る母親が窓越しに手を振る。午前8時。係留ロープが解かれ、短い旅が始まった。
 久賀島は福江島の北東に位置する二次離島。市によると、島民の6割近くが65歳以上で、0~6歳は10人だけ。かつて島には公立の「久賀島へき地保育所」があったが、対象世帯が1世帯になるのを機に2013年3月で休園。久賀島の未就学児が保育サービスを利用する場合は、福江島に渡らなくてはならなくなった。
 親の転勤などで子どもの数に増減はあるが、現在、福江島の保育園や認定こども園に通う子どもは4世帯6人。このうち5人は市が委託する「ファミリーサポートセンター」の送迎支援を利用している。

◆見守り役に 
 船内に、子どもたちを見守る女性がいた。農協職員の畑田妃佳里(ひかり)さん(33)。長女の凜音(りのん)ちゃん(3)と共に乗船し、福江島の職場に通勤する傍ら、同センターの送迎支援者として他の子を見守る役割も担う。
 子どもたちは絵本を読んだり、窓に手をついて海を眺めたりと、船内はとにかくにぎやかだ。船が揺れ始めると、畑田さんが動き回っていた子を椅子に座らせた。「ジェットコースター船だね」と一人が笑った。
 畑田さんは言う。「見守りは大変だけど、子を預けられるから自分も働ける。福江の保育園に通って多くの子どもたちの中でもまれるのも、良い経験かなと思って」。悪天候で欠航すると自宅で、他の子を預かることもあるという。
 出港から20分後、福江港に到着。同センターの送迎車や園の送迎バスが桟橋に乗り入れ、今度は陸路で園児を送り届けた。

◆思い出携え 
 午後4時半、子どもたちが福江港ターミナルに集まっていた。仕事を終えた畑田さんも凜音ちゃんと合流し、昼食の話題に。「おいしかった?」「野菜がいっぱい。イチゴもあったよ」
 この日は桃の節句。子どもたちは、船員からもらったひなあられをほおばりながら出港を待った。島で待つ家族に、どんな日だったと報告するのだろう。船は短く汽笛を鳴らすと、1日分の思い出を携えた子どもたちを乗せ、船首を久賀島に向けた。

「あら、子どもたちがいっぱい」。乗り合わせた島民も笑顔を浮かべた=五島市久賀島
保育園で楽しい1日を過ごした子どもたち。帰りの出港時間が近づくと、急いで船に乗り込んだ=五島市福江港

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