3.11から10年 風評被害や度重なる地震…ふるさと納税は被災地でどう役立ったか

2021年3月11日、2011年に発生した東日本大震災発生から10年が経ちます。ふるさと納税制度は2008年に創設し、当時の寄付件数は約5万3000件、その寄付額は81億円でした。

しかし、震災が発生した2011年度は10万件を超え、寄付額は121億円にまで上りました。岩手県、宮城県、福島県の3県だけでも、47億円以上もの寄付が集まりました。2011年に寄付した人が控除適用となる2012年度の控除適用者数は、前年約25倍と急増しました。


※「平成23年東日本太平洋沖地震に係る義援金」等については、含まれないものもある。

ふるさと納税制度は、東日本大震災をきっかけに多くの人に認知されるようになったと言えます。被災地では着実に復興が進んでいますが、現在も被災者や風評被害対策など、引き続き復興のための活動が行われています。

被災地の復興にふるさと納税はどう活用されてきたのでしょうか。被災地の声と復興への願いが込められたお礼品を紹介します。

復興の象徴施設・直売所に来場者100万人

宮城県山元町は宮城県の最東南端に位置し、太平洋に面した町です。震災では高さ12mもの津波に襲われました。特産品であるイチゴの農園やホッキ貝などを獲る漁港は壊滅。多くの家屋や住民が甚大な被害を受けました。

10年が経ち、町は賑わいを取り戻しつつあります。防災性に優れながら、すべての世代が便利で快適に暮らすことができる「コンパクトシティ」を目指し、新たな市街地には保育所や学校、商業施設などの建物が並びます。

ふるさと納税の寄付金は、2019年2月にオープンした復興の象徴施設ともいえる山元町農水産物直売所「やまもと夢いちごの郷」の運営に使われました。町の今後を支える新たな特産品の開発などにも活用されています。

そんな中、2020年には新型コロナウイルス感染拡大による影響を受けました。震災後、山元町の交流人口拡大をけん引してきた観光いちご農園の来場者が大幅に減少するなど、大変な苦境に立たされています。

一方で、「やまもと夢いちごの郷」には、まちの特産品である「いちご」「りんご」「ホッキ貝」、そして「シャインマスカット」などを求めて近隣住民などが多く足を運んだことで、2020年11月には来場者100万人を達成。どの施設も、検温・消毒などの徹底した感染対策を図り、来場者の安全、安心を確保できるよう、努力しながら運営を続けています。

町に足を運んで、復興を感じてほしい

10年の節目を迎える2021年度には、現在進めている津波避難道路の整備事業が完了予定です。震災後、多くの人が訪れるイベントとなった「やまもとひまわり祭り」を、県南唯一の震災遺構「中浜小学校」近隣の農地で開催することを計画しています。

しかし、2月13日に福島県沖で発生した地震では、水道管の破損による断水、道路や病院などの公共施設の損傷など大きな被害を受けました。

山元町ふるさと納税担当者は、「2021年2月の地震からの1日も早い復旧・復興のためご支援よろしくお願いいたします。新型コロナウイルスが収束したあかつきには、山元町に実際に足を運んでいただき、震災からの復興を肌で感じていただきたいと思います」と呼び掛けています。

復興のシンボル・ミガキイチゴのスパークリングワイン

宮城県山元町「国産苺スパークリングワイン ミガキイチゴ・カネット290ml(赤白各2本)」(寄付金額10,000円)

東日本大震災からの復興をミッションとして誕生したのが「~食べる宝石~ミガキイチゴ」です。ミガキイチゴ・カネットはミガキイチゴをふんだんに使い、産地の復興への願いがこめられたスパークリングワインです。

風評被害を受けた福島の桃、お礼品として脚光

福島県須賀川市にある「阿部農縁」は大正10年から約100年続く桃農園です。「農家民宿 阿部農縁」も家族で経営しています。

丹精込めて美味しい桃づくりを行ってきましたが、東日本大震災後は原発事故の影響で「福島の桃」というだけで敬遠され、収穫した3分の1を廃棄しなくてはならない状況でした。ここ数年はふるさと納税を通じて全国の寄付者から申し込みがあり、適正な評価を受けられるようになってきたと手ごたえを感じているそうです。

震災時は自宅も含めて市内のたくさんの建物が半壊、倒壊し、一時は更地や駐車場が目立ったそうです。しかし、ここ数年で新しい建物が続々と建設され、人の流れや景色が変わってきていると阿部農縁の代表寺山さんはいいます。

10年目の震災忌、新たな交流拠点をオープン

阿部農縁は3月11日、農業を通じて元気をチャージできる交流拠点「SHINSEKIハウス」をオープンします。“農業は人を癒やし、元気にする”という寺山さんの実体験から発案され、他地域から遊びに来た人と地域の高齢者が、交流しながら農作業や料理に取り組む機会を作ります。両者に“親戚”のようなつながりを生み出せる場所を提供することを目的としているそうです。

「SHINSEKI」という言葉には、震災から10年の節目として“新世紀”という意味もこめられています。テレワークする人も利用できるようWi-Fi環境も整え、コロナ疲れを感じる人が元気になれるような場所を目指しています。

農家暮らしを体験できるお礼品

福島県須賀川市「心も体もリフレッシュ、阿部農縁で過ごそう(大人2名様)」寄付金額70,000円

「阿部農縁」を切り盛りする元介護福祉士の正子ばあちゃんと、農家仕事や畑からの収穫、漬物や料理など、大人2名様分1泊夕・朝食付き貸し切りで農家暮らしを体験できます。近隣の温泉も利用でき、昔懐かしい暮らしが日ごろの疲れをリセットしてくれます。

原発事故で出荷停止、ふるさと納税で立て直す

先崎牧場は福島県小野町で30年以上続き、夫婦で経営する牧場です。震災では幸い、住居や牛舎への大きな影響はありませんでしたが、原発事故後に県産の牛肉の販売価格は暴落、他県の3分の1程度まで落ち込んでしまいました。

100万円の価値の牛が30万円にしかならならず、2年間大切に育ててきた牛の飼育代にも満たない状況でした。放射性物質検査の全頭実施が始まると、出荷までに時間がかかるようになり、出荷に合わせて牛を育てることにも大変な苦労がありました。

補償金はあったものの、経営は震災前の状況まで回復しませんでした。そんな中でふるさと納税に参加したところ、売上が大きく改善。特に、寄付が増える年末は震災以前よりも売上が上がるほどでした。

妻の先崎幸江さんは、畜産業に関わる女性たちで構成された「マザーズクラブ」に所属。震災後、マザーズクラブは農林水産省へ畜産農家支援の依頼や、女性ならではの視点で「黒毛和牛の水煮肉」「ハヤシライス」などのレトルトパックを開発しました。商品はふるさと納税のお礼品としても提供しています。

幸江さんは、「小さな牧場なので "大容量"や"高級ブランド肉"といったお礼品はつくれませんが、寄付者の方が扱いやすい分量、気軽に食べられる美味しいお肉を提供するよう心がけています」と話していました。

牛の個性に合わせてゆっくり育てた極上の和牛

福島県小野町「【小町の里・幸牛】黒毛和牛ブロック肉 550g」(寄付金額20,000円)

先崎牧場の幸江さんが丹精込めて作り上げた牛肉です。豊かな自然の中で、それぞれの牛の個性にあわせ、ゆっくり・ゆったり育てています。さらりとした脂の甘さ、旨みには定評があります。厚めに切ってステーキ・ローストビーフなどにしてご賞味ください。

復興への願いがこめられた「復興支援品」

ふるさと納税は「お礼品を受け取り地域産業も応援する方法」と「お礼品を受け取らずに寄付のみで応援する方法」の2通りの方法で地域に貢献できます。寄付金の使途を選ぶこともでき、使い道を災害支援・復興に指定することも可能です。

お礼品の中には、東日本大震災からの復興を願い、開発されたものもあります。東北のお礼品や、ふるさと納税で選べる防災グッズの一例をご紹介します。

※お礼品情報は、3月8日時点ふるさと納税サイト「さとふる」より。最新の情報はサイトにてご確認ください。
※一部のお礼品を除き、お礼品の配送日指定はできません。生産・天候・交通などの事情により遅れる場合があります。

岩手県釜石市「はまゆりエールビール(6本)」(寄付金額11,000円)

東日本大震災の津波に耐えた釜石の市花であり、野生の「はまゆり」から採取して作った酵母を使った珍しいビール。オレンジに近い赤色で、コクがあり、フルーティーな香りが特徴のエールタイプのクラフトビールです。

岩手県宮古市「【三陸銘菓】元祖いかせんべい 三鉄車両箱ギフトボックス」(寄付金額10,000円)

明治14年の創業から「いかせんべい」をつくり続けていましたが、東日本大震災では店舗・工場ともに全壊。NHK「あまちゃん」で一躍有名になった三陸鉄道の車両をデザインした箱で届きます。

津波で全壊、復興した水産会社の缶詰

宮城県気仙沼市「宮城県産 鮭の中骨水煮(銀鮭) 170g×24缶」(寄付金額20,000円)

津波で全ての工場施設を被災・流失した気仙沼ほてい株式会社のお礼品。2015年に念願の新工場が完成し、新たなスタートを切りました。鮮度良好で、脂の乗った宮城県産銀鮭を使用した、身付きの「鮭の中骨」です。常温での長期保存が可能です。

宮城県利府町「宮城特産ホヤのビスコッティ(4袋)と自家焙煎珈琲 100g【珈琲豆】セット」(寄付金額10,000円)

津波ですべての養殖イカダが流されたホヤの復興プロジェクトから生まれた逸品。「ホヤ味」という一見無謀にも思える焼菓子です。ホヤを焼き上げたことで生まれる干物のような食感とホヤの旨味、ビスコッティ特有のカリッとした食感が楽しめます。

岩手県宮古市「あわびのアヒージョ【3個セット】」(寄付金額20,000円)

震災の翌年から毎年3月11日にリリースしている「復興製品」の第8弾。賞味期限も3年と長いことから、リッチな非常食として備えるにもお勧めです。

お礼品で防災グッズも選べる

東京都墨田区「すみだモダン 墨田螺子産業 防災・防犯用ホイッスル3パックセットA」(寄付金額10,000円)

製造の街「すみだ」で、精密機械の加工などを行う「墨田螺子(らし)産業株式会社」が、技術力を活かして製造した防犯・防災用のホイッスルです。長さ約3cmほどの小さなホイッスルで、かばんや定期入れ、社員証のホルダーなどに取り付けることで日ごろから備えることができます。

高知県日高村「無添加 土佐の畑の乾燥野菜 詰め合わせ ドライベジタブル」(寄付金額15,000円)

震災時に「避難所生活でも手軽に、野菜を食べてもらえないか」と開発されたお礼品。お湯やお水を入れるだけで戻すことができ、ラーメンやお味噌汁に入れて野菜を取ることができます。半年ほど保存可能で、防災食・非常食に常備しておきたい一品。生産量が多く、廃棄になる野菜なども活用し、フードロス対策にも貢献することができます。

女性ならではの視点を生かした女性用防災セットも

大阪府岸和田市「女性用防災セット 1DAY なでしこレスキューボックス」(寄付金額15,000円)

女性防災士監修のもと、緊急・災害時に女性が1日生活するために必要な10品を厳選したお礼品。トイレに困るという声を重視し、水不要のトイレ処理セット、使用時に周囲の視線から守るポンチョなどに加え、1日をしのぐ水やクッキーなど、女性ならではの視点がつまっています。

兵庫県多可町「非常用圧縮毛布」(寄付金額10,000円)

3.11帰宅困難者の声から生まれたA4判の非常用圧縮毛布。独自の真空圧縮技術で、かさばる毛布を災害に備えやすいコンパクトサイズに。A4サイズなので省スペースにしまっておくことができます。

「震災を風化させない」ために、ふるさと納税を通じた寄付を

災害発生時には多くの支援が集まりました。しかし、未曾有の大震災からの復興には、まだ支援が足りていないという声を耳にします。また、先月2月13日に発生した地震で被災した地域でも、引き続き支援が必要です。

東日本大震災発生から10年の節目に東北を応援するため、ぜひふるさと納税を活用してみてください。

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