ダイヤ「改正」か、見直しか? 「鉄道なにコレ!?」第17回

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

 JRグループの毎年3月の恒例行事となっているダイヤ改定が2021年は3月13日となり、各社は変更内容をホームページに掲載した。各社は20年12月18日にそれぞれの内容を公表し、足並みをそろえた。ところが旅客6社を見ると、JR東日本、東海、西日本、北海道、四国の5社は「ダイヤ改正」と表記した一方、JR旅客6社の残る1社、JR九州だけは「ダイヤの見直し」と記して対応が分かれた。今回はダイヤの「改正」なのか、それとも「見直し」なのか?(共同通信=大塚圭一郎)

 【ダイヤ改定】列車の運行時刻を見直すこと。旧日本国有鉄道の分割民営化で1987年4月1日に発足したJR旅客6社は、翌88年以降の毎年3月に全社がダイヤを改定している。一部の社が他の時期にダイヤを見直すことはあるが、全国規模でダイヤを変えるのは毎年3月が通例となっている。旅客6社の線路を使うJR貨物も同じ毎年3月にダイヤを変更しているが、本稿では旅客6社に焦点を当てた。

 国鉄時代には10月に象徴的なダイヤ改定がいくつかあった。代表例としては、特急列車網を形成した1961年10月の改正は、実施された年月を元号で記した昭和36年10月を略して通称「サンロクトオ」と呼ばれる。特急列車の拡大などの都市間輸送を強化した68年(昭和43年)10月の変更は「ヨンサントオ」の呼称で知られる。運賃や列車の料金の相次ぐ値上げやストライキによる利用状況の悪化を受け、特急の本数増加と急行の削減による収入拡大などを目指した78年(昭和53年)10月の見直しは「ゴーサントオ」と呼ばれた。

JR東日本山手線の電車E235系=2020年10月、東京都港区(筆者撮影)

 ▽焦点は終電繰り上げ

 21年3月13日に始まるJRグループの新たなダイヤの注目点は、首都圏や近畿圏といった大都市圏でも最終電車(終電)の時刻が繰り上げられることだろう。

 新型コロナウイルスの流行を背景にした利用者減少への対応に加え、線路保守などの夜間作業時間を確保するため、JR東日本は山手線や中央線、埼京線など首都圏18路線の終電を繰り上げる。東京都心部への通勤客らが沿線に多く住む中央線快速電車と京浜東北・根岸線は平日に全ての電車を午前1時までに運行を終え、山手線も最も遅い到着が午前1時4分となる。

 また、5路線の始発電車の時刻を繰り下げ、京浜東北・根岸線と中央・総武線各駅停車、常磐線の快速と各駅停車が対象となる。

 JR東日本は20年10月の平日に山手線内回りの午前0時台の利用者数が、コロナ前の19年10月と比べて40%減ったと説明。また、人手不足を背景に管内の線路保守作業員が過去10年間で2割減り、今後10年間で10~20%程度減るとの見通しを示しており、終電を前倒ししたり、始発を繰り下げたりすることで作業時間に余裕が生まれると解説している。

 ▽近畿圏では30分前倒しも

 JR西日本は大阪環状線や通称JR京都線<東海道線京都―大阪間>、通称JR神戸線<東海道・山陽線大阪―姫路(兵庫県姫路市)間>など近畿圏12路線の終電を前倒しし、うち京都線は30分も早くなる。

 さらにJR西日本は20年12月18日に新ダイヤを発表した際、新型コロナ禍による山陽新幹線の利用者減少を受け、各駅停車「こだま」の運行本数を平日は1本減らして67本、土休日は7本減の59本にすると明らかにした。ところが、新型コロナ禍による利用者低迷を受け、これらの減便開始を21年2月1日に前倒しした。

JR北海道根室線を普通列車として運用中のディーゼル車両キハ40。旧国鉄時代に製造された=2012年10月、北海道新得町(筆者撮影)

 JR北海道は主力の札幌圏で普通や快速列車を減らし、特急の運転本数も削減。JR四国も高松駅を出発する普通の最終列車の発車時刻を前倒しし、高徳線のオレンジタウン(香川県さぬき市)行きの最終は午後10時50分発と、従来ダイヤの午後11時45分発から55分も前倒しになる。ただ、この列車は20年10月から運休しており、21年3月12日まではオレンジタウンより先の引田(ひけた)駅(同県東かがわ市)まで行く午後11時21分発が最終のためオレンジタウンまでは31分繰り上がる。なお、この引田行きも改定後はなくなり、普通引田行きの最終は午後10時4分発まで実に1時間17分も前倒しになる。

JR四国予讃線の「快速サンポート」として走る電車6000系=2012年8月、香川県三豊市(筆者撮影)

 ▽近鉄は「ダイヤ変更」、その理由は

 これまでに見てきたJR東日本、西日本、北海道、四国の4社はいずれも「ダイヤ改正」と表記している。この「改正」という言葉の意味を、デジタル大辞泉は「不適当なところや、不備な点を改めること」と説明している。

 終電の前倒し、始発の繰り下げ、列車の運行本数の削減は「不適当なところや、不備な点を改めること」に当たるのだろうか。

 鉄道会社としては、新型コロナ禍で利用者が減ったのに従来の運行規模を保つのは供給過剰になってしまうため「不適当」であり、人手不足も背景に線路保守作業が十分ではない現状は「不備な点」に映るのだろう。すなわち、鉄道会社を経営する視点では、3月13日からの新ダイヤは「改正」に当たるのかもしれない。

 しかし、利用する顧客の立場としては、変更後は利用できる列車の選択肢が狭まるため「改正」と呼べるような内容には程遠い。思い出されるのは、大手私鉄の近畿日本鉄道幹部の言葉だ。「当社は『ダイヤ変更』と呼んでいます。ダイヤを変える時は利用者が減った路線や区間では一部列車の運転を取りやめたり、運行本数を減らしたりしており、お客様から見れば必ずしも『ダイヤ改正』と呼べないからです」

 近鉄の直近のダイヤ変更となった20年3月14日では、近鉄名古屋駅と大阪難波駅を結ぶ名阪特急に新型車両「ひのとり」80000系(詳しくは「鉄道なにコレ!?」第8回「900円追加で“超グリーン車”級の新型特急https://this.kiji.is/612463574084568161?c=39546741839462401参照)の導入が目玉となった。その一方、一部の特急列車の運転区間を短縮するといった「改正」とは呼びにくい点も盛り込まれた。

 ▽看板に偽りなし

 近鉄と似た表現で「ダイヤの見直し」と公表しているJR九州の21年3月13日の変更は、看板に偽りなしだ。新幹線や特急列車の運行本数削減や、同社で主力の福岡都市圏の終電前倒しといった合理化が柱となるからだ。

 九州新幹線の博多駅(福岡市)と熊本駅を結ぶ「つばめ」と「さくら」の1日計15本の運行を取りやめる。「つばめ」の一部列車の運転区間延長などもあるものの、平日の運転本数は1日当たり107本となり、従来(121本)より1割余り減る。

九州新幹線を走るN700系=2019年4月、福岡県那珂川市(筆者撮影)

 背景には新型コロナの感染拡大を受けて外国人旅行者が壊滅的に減り、九州経済の柱の一つである観光業が大打撃を受けている事情がある。20年11月に九州新幹線博多―熊本間の利用者は、新型コロナ禍前の19年11月より35%減った。

 在来線の主に博多―長崎を結ぶ特急「かもめ」、博多―大分などをつなぐ特急「ソニック」も利用者が激減しており、ダイヤ変更後は一部列車の運転を取りやめたり、多くの利用が見込まれる日だけ運行する臨時列車に切り替えたりする。また、福岡都市圏などで終電を前倒しして列車本数も減らし、鹿児島線の博多からの南福岡(福岡市)行きの終電は午前0時6分発と20分前倒しになる。

JR九州の特急「ソニック」で運用している電車883系=2018年12月、北九州市(筆者撮影)

 JR旅客6社の中で経営が厳しいJR北海道、四国、九州の「三島会社」の中で、JR九州は唯一株式上場を果たして「三島会社の優等生」とも評されてきた。しかし、21年3月期連結決算は本業のもうけを示す営業損益が323億円の赤字、最終的なもうけを示す純損益も284億円の赤字にそれぞれ転落する見通しで、経営環境は厳しい。

JR九州の青柳俊彦社長=2019年3月、北九州市の門司港駅(筆者撮影)

 青柳俊彦社長は「人の動きや消費などの動向が新型コロナ発生前の状態まですぐに戻ることは想定できない現状においては、『会社発足以来の危機』が引き続き継続すると言わざるを得ません」と危機感をあらわにしている。

 ▽「改正」でも唯一通用?

 さて、JR旅客6社の残る1社で、3月13日を「ダイヤ改正」と公表しているJR東海の変更点は他の5社とやや毛色が異なる。“ドル箱”の東海道新幹線で「のぞみ」の定期列車で東京―新大阪の所要時間が3分短縮の2時間27分になる列車が1日15本増える。

 また、名古屋駅の出発時刻を見ると在来線の終電の前倒しも、始発の繰り下げもない。東海道線の上り終電の大府(おおぶ、愛知県大府市)行きは午前0時20分発、下り終電の大垣(岐阜県大垣市)行きは午前0時2分発と、東京駅や大阪駅を出発する在来線の終電と比べてもともと早い。東海道線は貨物列車の通過も多いため、「終電を繰り上げても保守間合い(保線などの作業時間)の拡大にはならない」(JR東海の金子慎社長)と説明している。

東海道・山陽新幹線の最新鋭車両N700S=2021年1月、福岡市

 このように3月13日のJRグループの新ダイヤをみると、「ダイヤ改正」と表現しても良さそうなのはJR東海だけだ。また、JR九州の「ダイヤ変更」という表記は問題がない。

 一方、利用者目線に立てば、他の4社の「ダイヤ改正」という説明は終電の前倒しや始発の繰り下げ、列車の本数削減を踏まえると異論が出てもおかしくはない。

 「ダイヤ改正」という呼称は、JRグループで長年用いられて浸透してきたのは確かだ。しかし、人口減少を背景にローカル線沿線の過疎化といった難題も抱えている中で、利用者が「改正」と前向きに受け止められるダイヤ変更を毎年3月に続けるのは至難の業だろう。

 そこで、慣例で用いてきた呼称にしがみつくよりも、JR九州が先陣を切った「ダイヤの見直し」といったニュートラルに受け取られる呼び方にすることで今後は足並みをそろえてはいかがだろうか。JR九州と歩調を合わせて「ダイヤの見直し」と表現してもいいし、「ダイヤ変更」または「ダイヤ改定」に呼称を改めるのでもいいかもしれない。

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 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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