新潟大学と燕三条企業の医工連携事業による医療分野進出第1弾製品「検体回収用簡易トイレ」が公開

新型簡易トイレについて解説する株式会社アベキンの阿部隆樹代表取締役社長(写真右)

2019年から進められている新潟大学と燕三条企業の医工連携事業により、第1号製品「検体回収用簡易トイレ」が完成し、4月から販売が開始される。これに伴い9日、同学駅南キャンパス「ときめいと」にて開発に携わった株式会社アベキンの阿部隆樹代表取締役社長と新潟大学の寺井崇二教授が会見を開いた。

新潟大学は2019年2月に、金属加工企業の集積地として知られる新潟県燕三条地域の協同組合三条工業会、燕商工会議所、三条商工会議所と「医工連携事業に関する共同研究開発契約」を締結し、同地域の特性を活かした事業を開始した。

この契約は、従来型のニーズに基づいた産学協同研究よりも、より課題の解決へ焦点を当てたものであり、医学部と共同することで企業が医療業界へ参入するだけでなく、高齢化や雇用の減少といった地域課題と、大学・病院の実務的な課題を総合的に解決していくことを目的としている。

契約締結と同時に成立した、現在55社が参加している協同事業体 「燕三条医工連携コンソーシアム」では、新潟大学の知見を企業へ提供することで、医学業界に初めて参入する企業でも医療現場のニーズを基に製品開発を行うことが可能となった。一方で、医療用具は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の基準をクリアする必要があり、新規参入には厳しい関門となる。そのため、最初は承認が必要がなく既存の技術力で挑戦可能な製品を手がけ、段階的に高度な治療用具などへ参入していくことが目標だという。

「検体回収用簡易トイレ(製品名:アベキン シンプルトイレ)」

「検体回収用簡易トイレ(製品名:アベキン シンプルトイレ)」の開発は、医工連携事業に係る契約締結に先立つ2018年7月にスタートした。従来、病院で用いられていた簡易トイレは、元々避難所などで用いられていた物であり、新潟大学が2018年9月から10月にかけて実施したアンケートでは、看護師・医師から移動のしづらさや耐荷重への不安が指摘され、新型トイレを希望する声が大多数に登った。

新型簡易トイレを設計する中で、アベキンが三条工業会を通して開発へ合流。同社はトイレの開発は初めてであるが、オフィス家具を中心としたOEMで数々の製品を手がけてきた実績があり、そのノウハウが今回の製品の随所に現れている。また、開発にあたっては、新潟大学医学部で消化器内科を専門とする寺井崇二教授の指導に加え、医歯学総合病院の医療スタッフの試用評価が入るなど産学連携で進んだ。寺井教授は会見にて「清掃時に拭きやすいフラットなデザインなど、医療現場の声が多く反映されており、開発に関わったみんなの力があってこそ実現した商品」だと語る。

「検体回収用簡易トイレ」は、従来型でネックとなっていた耐荷重を135キログラムまで向上。また本体重量を抑えキャスターを取り付けたことによる機動性と、ショッピングカートのように跳ね上がる座面による収納性を発揮する。さらに、検体採取用のバケツを専用の物にすることによる消臭性や、抗菌・抗ウイルス加工による安全性など、現場の声を細かに反映した。

新潟大学の寺井崇二教授(写真左)株式会社アベキンの阿部隆樹代表取締役社長(写真右)

バージョンは、手すりの可動式と固定式の2種類。それぞれピンクとグレーの2色を用意する。可動式は6万円ほどの価格で、4月の販売を予定しているが、すでに新潟大学病院などでの導入が決定しており、阿部社長は「医療分野を新たな経営の柱としていきたい」と意気込む。

さらに今後は、利用者からの要望が多いウォシュレットや、ITも駆使した健康観察機能により、日々のヘルスケアや高齢者の“見守り”、さらにはアウトドアのような分野など、医療分野から個人向けへの展望も考えられるという。

また、医工連携に伴って、燕三条地域での学生向けデザインコンペや、新潟大学生と長岡造形大生がアベキンの工場を見学するなど、若者がものづくりの現場と関わる機会も増えており、医学生などの専門知識を持つ人材が製造業へ関心を持つことに阿部社長は期待を寄せた。

新潟大学以外にも、長岡技術科学大学や三条市立大学など、産学連携による実践的な学びと地域の課題解決に積極的な高等教育機関は増え始めている。特にその活動が盛んな燕三条地域には今後一層の注目が集まることが予想される。

【関連リンク】
株式会社アベキン

新潟大学地域創生推進機構「燕三条医工連携事業」

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