“戦力外覚悟”から掴んだ最速161キロ DeNA速球王に成り上がった国吉の探求心

DeNA・国吉佑樹【写真:小谷真弥】

2018年オフに「このままでは終わる」と覚悟、日本人3位タイ161キロをマークした

160キロを超えるスピードボールを投げる剛速球投手が続々と生まれてきたプロ野球界。日本人3位タイの最速161キロの剛速球を持つDeNA・国吉佑樹投手は、2021年シーズンへ向けて何を思い、日々どのような取り組みをしているのか。2009年育成ドラフト1位で横浜入りしてプロ12年目、今年9月で30歳となる。さらなる進化を目指す剛腕に迫った。【取材・構成 / 小谷真弥】

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ズドン、ズドン――。沖縄・宜野湾キャンプ。国吉は196センチの恵まれた体格から、いかにも重そうな球でブルペン捕手のミットを鳴らす。「今の成績で満足していることもないですし、常に年齢が上がれば上がるほど危機感は出てきています。新しい選手がどんどん入ってくるので、1年1年自分のパフォーマンスを出せないと立場がなくなると思っている。毎年キャリアハイを狙ってやっていきたいと思います」。さらなる高みへ意気込みを口にする。

2019年4月6日。4年ぶりの勝利を挙げた巨人戦(横浜)の5回2死、ゲレーロに投じた5球目で最速161キロを記録した。当時は日本ハム・大谷翔平(現エンゼルス)の日本人最速165キロに次ぐ日本人スピード記録。「『今年はボールに力があるな』と手応えはあったんですけど、161キロが出るとは思ってもみなかった」。ハマの“速球王”となったが、危機感が強くあったと言う。

前年2018年は1、2軍を行ったり来たり。13試合登板にとどまった。当時27歳シーズン。本来なら野球選手として脂の乗ってくる年齢だったが、2016年1登板、2017年4登板と結果を出せずにいた。同年オフに豪州キャンベラに渡って“野球留学”。闘志に火が付いた。

「このままでは後がない、と思って。『自分の持ち味はなんだ』と考えていくうちに、力のあるストレートが投げ込めないと投球にならないと感じてました。筋トレ自体はやっていたつもりだったんですけど、やり方とか方法を色々見たりして。1からやり直すぐらいの気持ちで取り組みました」

球質アップへ“キックボクシング”「165キロを狙いにいくわけではないが…」

筋トレでは肩回りも強化。徹底的に追い込んだ。Tシャツのサイズは「3XL」。体重106キロと巨大化した。「筋トレだけやっていればいいか、といえば、そういうわけでもない。逆にランニングだけが下半身強化だ、というのも違うなと思っている。バランス良く、どっちもこなすべきだと思っています」。自分に合っているトレーニングは何か――。この探究心が最速161キロの剛速球を生んだ。

固定概念にとらわれない。このオフは作り上げたパワーを効率的に発揮することを課題とした。昨年12月、福井県内の接骨院を訪問。股関節の可動域や柔軟性を向上させるため、格闘家のようにサンドバッグを蹴る独特のメニューを導入した。きっかけは、母校・秀岳館高野球部の後輩の意見だった。「しなやかに、しっかりボールに力を伝えられるような投げ方に。イメージした動きにより近づけるために行っています」。キャンプ地にもサンドバッグを持ち込んだ。48歳での現役復帰を目指した新庄剛志氏も行ったトレーニングで鍛錬を積んでいる。

春季キャンプ中は自室でYouTubeやSNSのスキルアップ動画を漁る。2018、19年サイ・ヤング賞のジェイコブ・デグロム(メッツ)、ゲリット・コール(ヤンキース)ら異国で活躍する投手のフォームからヒントがないかを探っている。「必要なことは簡単に手に入る時代。どんどん深く掘り下げていけば、新しい発見もあるし、面白い。部屋では動画しか見ていないです。キャンプ中はテレビを付けていないですね」。

ロッテからレッドソックス入りした澤村拓一投手は32歳の昨季に自己最速159キロを記録した。これも自身の刺激となったようだ。「澤村さんはベースがしっかり出来上がっているからこそ。30歳すぎると体が衰えてくると言いますけど、ベースができていれば、30代からでもレベルアップできる」。年齢に負けるつもりはない。

160キロ超の剛速球は何よりも自身の持ち味だ。ただ、球速にこわだりはないと言い切る。「160キロが出たからバッターがアウトになる競技ではない。150キロでも140キロ台でも結果的に抑えられれば何キロでもいい」。だが、どこかファン目線の自分もいる。「見ているファンの方は注目しているポイントだと思う。165キロを狙いにいくわけではないですけど、抑えにいく中で出るのであれば。強いボールを投げ込めるんだったら、それでいいです」。

戦力外をも覚悟した2018年オフから成長を遂げて、今やチームに欠かせないセットアッパーとなった。打者を制圧する剛速球、日本最速球の更新だって期待したくなる。(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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