幼い子をもつ親に必要な災害への備えとは NPO法人「ママプラグ」冨川万美さんに聞いた

2011年3月12日、福島県浪江町の避難所でむずかる赤ちゃん

 東日本大震災から10年。この間も各地で災害が相次ぎ、緊急時の備えが求められている。特に未就学の幼い子どもがいる家庭は、日ごろからどんな点に気を付ければ良いのか。震災を機に発足し、防災啓発に取り組むNPO法人ママプラグ(東京都渋谷区)の冨川万美(とみかわ・まみ)理事は「各家庭で、子どもに合わせたオーダーメードの備えを」と指摘している。冨川さんに対策のヒントを話してもらった。(共同通信=山口恵)

 ▽普段から伝える

 2月13日、福島と宮城両県で最大震度6強を観測した地震は、関東地方など広範囲で揺れた。防災対策の必要性を改めて感じた家庭も多かったのではないか。日々の暮らしを少しずつでも災害に強いものにしていくことが大事だ。

 ママプラグが子育て家庭などに向けて開く講座では「家族の中で最も弱い人を中心に防災を考えましょう」と話している。必要なのは、自分たち親子に合うよう工夫する、オーダーメードの視点。市販の防災セットを買いそろえるのは、何もしないよりはだいぶ良いが、それだけで安心とは考えないでほしい。

 特に子どもは危機意識が不十分なことが多い。便利な生活に慣れ、災害時の衛生環境の変化になかなかなじめない。実際、災害時に臭いや汚れのある仮設トイレを嫌がり、排泄を我慢した子もいると聞く。

オンライン取材に応じるNPO法人ママプラグの冨川万美理事=2月22日

 生きる力を身に付ける教育と防災は直結している。日ごろから、大人が意識的に外遊びやアウトドアに連れ出す、和式トイレを見つけたら試しに使ってみるなどの体験を重ねると、対応力が高まる。ほんの少しでも「やったことがある」「知っている」は子どもにとって大きい。

 「地震で揺れたら机の下にもぐる」など、短いフレーズは教えやすいが、例えば、机の下にもぐらずに逃げた方がいいケースもあり得る。子どもは親や先生の言葉を額面通り受け止めやすいため、なぜその行動が大事なのか、背景まで説明することも大事だ。

 以前に関わった東京の幼稚園では、上履きを履いて生活しており、防災訓練時には「そのまま外に出て良いよ」と指導していた。その子どもたちは幼稚園外での防災訓練に参加した際、裸足のまま外に出ようとしたという。「災害時はケガをしないように気をつけながら、急いで逃げる」という本来の趣旨を理解し、状況に応じて行動できるよう、伝え方を工夫する必要がある。

 ▽冷蔵庫は備蓄庫

 防災というと「とにかく備蓄」というイメージが強いかもしれないが、実際は「備蓄(ハード面)」と「行動(ソフト面)」の二本立てだ。

 まず、備蓄について。政府は大規模災害に備え、1週間分の水や食料を用意するよう推奨するが、ちょっとハードルが高いので、72時間分を目標にしたい。災害時は最低限のインフラが整うまで3日掛かるからだ。

 また、新型コロナウイルス禍の今は、消毒液やマスクの備えも重要。こうした準備がないと安心して避難所を利用できない可能性がある。子育て家庭にとって、自宅が被災を免れた場合は在宅避難が現実的だ。

 10年前との大きな違いはスマートフォンやタブレットの普及。充電器やモバイルバッテリーなどは必需品だ。災害時の連絡や情報収集ツールだし、お気に入りの動画を見ることで子どもが落ち着くことがある。例え数時間しかバッテリーがもたなくても、親が状況や今後の見通しを説明でき、子どもの心構えに少しでもつながるなら意味がある。

神奈川県平塚市で行われた防災セミナー=2020年12月22日(ママプラグ提供)

 どんな食料を用意したら良いか分からない場合は、持病やアレルギー、食べ物の好き嫌いといった家族ひとりひとりの特徴や個性を紙に書き出して、「何があれば家族が安心して機嫌良く過ごせるか」を考えると良い。

 実は、家庭にとって最大の備蓄庫は冷蔵庫。決して備蓄イコール缶詰中心、ではない。在宅避難の場合は冷蔵庫の中の物から食べていくことになる。だからわが家は子どもが好きな納豆や牛乳、豆乳は常に切らさない。防災用も兼ね、普段食べたり、使ったりしている食品や日用品を普段から少し多めに用意し、なくなったら補充する「ローリングストック」の考え方だ。

 加えて、カセットコンロとガスボンベがあれば簡単な調理ができる。生米と水を入れて封をし、熱湯でゆでるとご飯が炊ける「炊飯袋」を用意しておくのも便利だ。インターネット通販などで簡単に買える。

 乳児をもつ親によく聞かれるのが「ミルクはどれくらい用意すれば良いのか」といった、授乳に関する質問だ。母乳、ミルク、混合といずれの場合も、普段のやり方を基本に、清潔な状態で授乳できることが一番。ミルクの人は使い捨てのほ乳瓶があると安心かもしれない。ほ乳瓶がない場合、紙コップのふちの一部をつまんで注ぎ口を作り、赤ちゃんに少しずつミルクを飲ませる「カップフィーディング」という方法がある。

 ▽行動のヒント

 行動については、自宅で今日からできることもある。例えば、子ども部屋に背の高い家具を置かないなどの配置の工夫や、家具の固定、避難動線の確保。レースカーテンを引いておくだけでも、窓ガラスが割れた時の対策になる。一度にやろうとすると大変なので、まずは自宅の1カ所を、上から物が落ちてこない安全なスペースにすることから始めよう。

豪雨の影響で球磨川が氾濫し、水に漬かった熊本県人吉市の市街地=2020年7月4日

 豪雨などの水害は、天気図などから比較的予想しやすい一方、地震や津波はいつ起きるか分からない。だからこそ、特に仕事や学校で家族がばらばらになっている時の連絡方法や、避難・集合場所などを事前に決め、定期的に家族で見直したり、確認し合ったりするのが大切だ。

 いざというときに戸惑わないよう、平時に家族でいろいろ試しておくと気持ちに余裕が出る。具体的にやってみることで、コミュニケーションにもつながる。例えば、被災地で電話がつながりにくくなった際に安否確認できる災害用伝言ダイヤル「171」や、ネット伝言板「web171」は、毎月1日と15日などにお試し利用ができる。

 実際に被災すると、どうしても「我慢すべきだ」となりがちだが、子どもは我慢が難しい。日々の生活からいかに危険を減らせるか、我慢しなくても済むために事前に何をすればいいかを考え、工夫を重ねていくことが欠かせない。一緒に取り組んでいきましょう。

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 とみかわ・まみ 旅行会社やPR会社を経て、出産を機にフリーランスに転身。二児の母。「子連れ防災BOOK」など防災本の執筆も手掛ける。

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