福井の山あいに佇む蔵カフェ『長尾と珈琲』でおしどり夫婦の笑顔に癒される

人口2600人。
電車はなく、バスも1日数本のみ、信号機は町に2つだけ。
そんな山あいの町に、知る人ぞ知る居心地のいいカフェがあるんです。
どんなカフェなのか、実際に行ってきたのでご紹介します!

※こちらの記事は2019年冬に取材したものです。

蔵をリノベーションしたおしゃれカフェ『長尾と珈琲』

福井市から車で50分ほど。
山道を超えてしばらくすると、田園風景の中にポツンと佇む蔵が見えてきます。
ここが、今回ご紹介するカフェ『長尾と珈琲』。

蔵と民家の間にある入り口を入ると、目の前には薪ストーブ、

左手に和室、

右手に、蔵を改装したカフェスペースがあります。

土曜日の15時頃とあって、店内はほぼ満席。
グループで来ているお客さんも一人で来ているお客さんも、時折マスターと会話を交わしながら、コーヒーを楽しんでいました。

移住者のおしどり夫婦の笑顔が溢れるお店

長尾と珈琲のマスターはこの方、長尾伸二さん。

奥様の真樹さんと2人で長尾と珈琲を営んでいます。

実は長尾さんは、20数年前に大阪から池田町にやってきた移住者さん。
池田町に移住してきてからは長年農業に従事しており、今や『長尾農園』といえば、移住者や農家さんの間ではかなり名が知れた存在です。

私が長尾さんご夫妻に出会ったのは、確か2015年か16年末の、移住者がたくさん集まる忘年会だったはず。
20〜30代の移住者の話を熱心に聞いてくださる、みんなの優しいお父さんお母さんというのが第一印象でした。
それは今も変わらず、移住者の先輩として、福井のお父さんお母さんとして、私にとっては、顔を見るととてもほっとする存在です。

また、イベントなどにはいつも必ず夫婦2人で参加していて、その仲睦まじい雰囲気も私たち世代の憧れの的。
この日も店内は2人の笑顔でいっぱいでした。

池田の美味しい水で淹れるこだわりコーヒー

長尾と珈琲のメニューはかなり豊富。
コーヒーだけで15種類。
紅茶、自家製炭酸、ココアやラテ系に生搾り果汁ジュースまで揃っています。

紅茶は、福岡県八女市矢部村の、標高800mの場所で育った茶葉を使っているのもこだわりのひとつ。

肝心のコーヒーのおすすめを聞いてみると、「深煎りならケニア、浅煎りならキューバ」と長尾さん。

「ケニアはとにかく深みがある、キューバは香りがいい」とのこと。

そんなおすすめも無視して(笑)「長尾と珈琲 深煎りスペシャルブレンド」をお願いすると、手際よくコーヒーを淹れてくれました。

実は長尾さん、大阪時代に10年もの喫茶店勤務経験があるコーヒーのプロフェッショナル。
池田町のまちの駅で休日に行われるマルシェに、「その経験を活かしてカフェを出店しないか」と声をかけられたことをきっかけに店舗を持とうと考えるまでになり、長尾と珈琲をオープンしました。

そんな話を聞いていると、コーヒーがやってきました。

苦みとコクのバランスがよくてとても飲みやすく、おいしい!
一緒に伺ったコーヒー好きの夫も大満足の一杯でした。

山あいにある池田町の水の美味しさは言うまでもありません。

「池田ではこれが当たり前だけど、町外から来た方からは、『美味しい』って言われますね」と長尾さん。
長尾と珈琲の美味しさ、人気の秘密は「池田町の水」にもあるのかもしれません。

大阪から池田へ移住〜農家〜休日カフェ営業。長尾さんのこれまでとこれから

長尾と珈琲には、カツサンドなどのサンドイッチや、アップルパイなどのスイーツもあります。
最後に「本日のスイーツ」をいただきながら、長尾さんにお話を伺うことに。

福井県のブランドさつまいも「とみつ金時」のタルト

池田町へ移住したきっかけ

「子供のアトピーがきっかけですね。それで自分たちの暮らしが大きく変わったんです」

アトピー持ちの息子さんが生まれたのは平成元年。
バブル崩壊直前の日本は、知っての通り急激な経済成長を遂げ、日本人の多くが「いいものが着たい、食べたい」と高級志向になっていました。

しかし、息子さんのアトピーで「なんでこんな病気になるんだ?」と、その時代の生活環境に不信感を抱いた長尾さん。

「例えば四万十川の手長エビが食べたい」という風に、いいものの価値観が、高級なものから、体にいいもの・本当に素材に価値があるものに変わったといいます。

「それなら自分たちで(食べ物などを)作れる環境に移りたい」と、当時移住政策を行っていた池田町への移住を決意したそうです。

長年雪下ろしをしていた蔵を改装して『長尾と珈琲』をオープン

長尾と珈琲は2018年3月にオープン。
それ以来、休日だけオープンする山あいの蔵カフェとして、県内外からお客さんが訪れる人気店になりました。

長尾さんは、都会に出てしまった所有者から管理を任され、長年この蔵の雪下ろしなどをしてきました。
しかし、その蔵もとうとう手放すかも…という話になり、それならばと、長尾さんが改装してカフェをオープンすることに。
(蔵はなんと築130年!)

長尾と珈琲がこの場所で始まったのも、長尾さんが地域との関わりを大事にしていたからなんですね。

そんな話をしていると、メニューにはない自家製レモングラスティーがサービスで出てきました。

自宅で採れたものを使ったというレモングラスティーの美味しさもさることながら、鉄瓶の風合いにも目を引かれました。

長尾と珈琲では、もともと蔵にあったものをできるだけ利用しており、この鉄瓶も蔵から出てきたものだそうです。
調度品はほとんど購入していないとのことで、店内を見渡すとそこかしこにそれらしきものが。

店内にあるいくつかの火鉢や…(これと薪ストーブのおかげなのか、店内はかなり暖かい!)

年代を感じさせる壁掛け時計など、

山あいの蔵カフェの雰囲気がより際立つ調度品が置かれていました。

ランチで使う塗りのお椀は、文久の時代のものだそうです。

『長尾と珈琲』が目指すもの

池田町に移住してから20数年、「農業しかしてこなかった」と話す長尾さんですが、「人を訪ねるような旅をする中で、拠点が必要」だと感じるように。

現在、長尾と珈琲のお客さんは6割が町外、1割が県外の人。
「地元のおじさんがいて、外から来た池田が好きな人がいて。その人たちが融合するのがいいよね」と長尾さん。
ただコーヒーを飲むだけではない場所を作りたいそうです。

その想いは、店名にも現れていました。

「どうして長尾 “ と ” 珈琲なんですか?」

「物語が生まれるでしょ。コーヒーを飲むだけの場所じゃなくて『あなたと長尾と珈琲』みたいなね。」と笑う長尾さん。

訪れるお客さんは皆長尾さんと会話し、長尾さんを介して居合わせたお客さん同士の会話も弾む。
私もそんな空間を目の当たりにしたので、まさに店名通りのお店だと感じました。

ちなみに…wi-fi完備です!

ちなみに、長尾と珈琲はネット環境も良好!

雪が積もる山道を運転して、
田園風景の中にポツンと佇む蔵を目にして、
店内は薪ストーブと火鉢でほんのり暖かくて、
美味しい水で淹れたコーヒーはやっぱり美味しくて、
長尾さんご夫妻の笑顔が素敵で、
居合わせた他のお客さんとの話も弾んで…

そんな、田舎ならではのカフェの雰囲気に浸っていると「圏外なんじゃ…」とふと思うのですが、wi-fiの電波が良好なので、お仕事したい人にもおすすめです。
和室でお仕事する人もいるそうです。
コンセントもあるので本当に快適!

また、2階には長尾さん曰く「売れない昭和の漫画家が居そうな」座卓もあり、予約で利用可能です。

最後に、これからやりたいことを伺うと、

「やっぱり農家民宿がやりたい」
「この谷一帯が利用できればいいんだけどね。そのためには人材も必要」

と、まだまだやりたいことはたくさんあるようです。

休日限定の長尾と珈琲で、ほっこりするカフェタイムを過ごしませんか?

店舗情報は以下でご紹介しています。

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