<社説>東日本大震災10年(4) 真の復興へ不断の検証を

 東日本大震災の発生から11日で10年がたった。死者、行方不明、震災関連死は計約2万2千人に上り、残された人々が歩む人生にも震災は大きく影響している。東京電力福島第1原発事故などで今も避難中の人が、沖縄を含め約4万1千人いる。 追悼式で菅義偉首相は、地震・津波被災地は「復興の総仕上げの段階」に入ったとした。しかし、10年は通過点にすぎない。真の復興に向け不断の検証が必要だ。

 政府は2011~15年度を「集中復興期間」、16~21年度を「復興・創生期間」と位置付けてきた。この10年で国が投入してきた復興予算は約37兆円に上る。

 道路や防潮堤、土地のかさ上げなど、被災地のインフラの整備は進んだ。一方で、予算の大半はハード整備に使われ、日本経済再生の名目で被災地と関係の薄い補助金などに流用された事例もある。

 被害が大きかった3県42市町村の人口減少率は全国の3.5倍のペースといい、街づくりの停滞や産業空洞化の課題に直面する。地域のつながりが薄れ、高齢者の見守りや心のケアも課題となる。

 用地取得や合意形成の難航もあって大型公共工事は長期化し、転出先での生活が定着した人々が古里に戻る機会を逸した。ハード整備に傾倒した復興のマイナス面だろう。

 被災者支援に充てられたのは2.3兆円にすぎない。それも仮設住宅の整備費などを除くと、生活再建支援として被災者に直接支給されたのは3千億円余りにとどまる。

 廃炉の見通しが立たない福島原発事故も、復興に深刻な影を落としてきた。首都圏へのエネルギー供給の役割を東北に担わせ、原発を推進してきた国の責任は重い。

 政府の新たな復興基本方針案は、津波被災地の復興は今後5年間での事業完了を目指し、福島原発事故の被災地再生に国の支援を重点化する方向性だ。だが、復興予算の使途や効果を十分に検証せず、復興支援からフェードアウトしていくことは許されない。

 復興財源は、国民全てで支えている。所得税の2.1%分上乗せは2037年まで続く。予算が本当に被災地の再建につながっているかを注視することは、納税者の責務であると同時に、東北の復興に関わり続けることになる。

 東北地方はアジアの中で自然景観や文化、食料供給など、比較優位を有する。そのポテンシャルを引き出し、交流人口の拡大につなげることが真の復興の道筋になる。

 岩手県の県紙、岩手日報社の東根(あずまね)千万億(ちまお)社長は、節目の日を地元ではなく、沖縄で迎えた。沖縄県民をはじめ復興を支える国民に向けて「県外に出向き、岩手の復興がここまで来たことを報告する行動を起こした」と語り、震災復興の今を伝える特別号外を那覇市内で配布した。

 震災被災地との心の距離を縮め、交流を広げたい。

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