1都3県はまだ緊急事態宣言下…延長にかかる国民一人あたりの負担金額は?

政府は3月5日、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県に発令している緊急事態宣言を21日まで2週間再延長すると発表しました。これにより、飲食店の時短営業、外出・イベント・施設利用の制限が続くことになります。

新型コロナウイルスの新規感染者数は全国で1,000人、東京で300人程度まで減少し、重症者数も全国で400人程度、東京で50人程度まで減少しています。

政府は、感染や医療提供の状況を示す6つの指標がステージ3(感染急増)相当に下がることを緊急事態宣言解除の目安としており、東京都を含めた全地点で6つすべての解除基準をクリアしている状況となっていますが、菅首相は「リバウンドの阻止」を理由に緊急事態宣言の延長を決定しました。

目標達成後にゴールポストを動かした印象が強い決定ですが、世論調査ではおおむね8割が今回の緊急事態宣言の延長を支持しており、民意に従った結果とも言えます。

一方、緊急事態宣言の延長によって経済的な損失は拡大します。今回は、1都3県の緊急事態宣言延長により発生する、追加支出や経済的損失を試算してみます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


延長によって追加支出と経済の落ち込みが発生

政府は2月9日に1ヵ月の緊急事態宣言延長に伴い1兆1,372億円の予備費支出を閣議決定しました。内訳では、飲食店などへの時短協力金8,802億円が大部分を占めています。今回も2週間の延長に伴い、その半分となる5,500億円程度の追加支出が見込まれます。

また、緊急事態宣言延長によって経済活動の落ち込みも続きます。Google社がスマートフォンアプリなどの位置情報から滞在人数・時間を算出する「モビリティ指数」は名目GDPと高い相関があり、モビリティ指数の1ポイントの低下によって名目GDPは年率1.66兆円減少する関係にあります。

経済活動と特にかかわりの深い小売・娯楽、駅、職場の指数を見ると、12月末時点では平年比-10%程度まで回復していた移動傾向が緊急事態宣言発令後に-25%程度まで低下し、直近でも-20%程度となっています。

もちろん、感染が拡大すれば緊急事態宣言が出なくても人出は減るため、モビリティ指数の低下分すべてが緊急事態宣言によって引き起こされたわけではありません。しかし、12月末には全国の感染者数が3,000人程度でモビリティ指数の低下が-10%程度だったにもかかわらず、直近で全国の感染者数が1,000人程度でモビリティ指数の低下が-20%程度というのを見ても、やはり緊急事態宣言の影響は大きいと言えます(なお、新規感染者数とモビリティの低下にほとんど相関が無いため、ダミー計数などを用いて緊急事態宣言だけの影響を取り出して試算するのは困難です)。

仮に、緊急事態宣言によってモビリティ指数が追加的に10%ポイント押し下げられていると仮定すると、名目GDPの減少は年率16.6兆円、2週間あたり6,900億円になります。これに先ほどの予備費の追加支出分を加えると1兆2,400億円となります。大胆に単純化して言えば、緊急事態宣言の2週間の延長に伴って、発令されていない地域も含む全国民一人当たりおよそ1万円の追加負担が生じます。

金利負担と増税のターゲットは現役世代

言うまでもなく、緊急事態宣言延長による費用のとらえ方は人それぞれです。これで「リバウンド」の可能性を下げられれば安いと思う人もいれば、当初の解除基準をクリアしたにもかかわらず費用負担など論外だと考える人もいるでしょう。さらにはそもそも緊急時には費用負担など気にせず国債発行によって対処すべきだとの考えもあります。

しかし、IMF(国際通貨基金)の予想によると2021年の日本の財政赤字の対GDP比は8.6%と、人口当たりの累積感染者数が日本の18倍と状況が深刻な欧州の5.9%を上回っています。世界的に見ても感染状況に比べて景気対策の規模が大きくなっています。

日本の長期金利は一時0.175%と、およそ5年ぶりの水準となりました。依然として低金利は続いていますが、主要銀行は3月1日からそろって住宅ローン金利を0.05%引き上げるなど、ごくわずかながら金利上昇の影響は実生活にもあらわれ始めています。

東京都が「防ごう重症化、守ろう高齢者」のスローガンを掲げているように、医療崩壊による死者増加を防ぐための財政支出は絶対に必要です。しかし、リバウンドの回避のためにいくら費用を払うのかという点については比較考量の視点が欠かせません。

債務増大に伴う金利上昇によって住宅ローンの支払いが増え、その後の増税のターゲットとなるのはいずれも現役世代です。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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