「指導者にも覚悟が必要」燕・山田哲人を輩出した強豪クラブが見据える少年野球の未来

ヤクルト山田哲人らを輩出したヤングリーグ・兵庫伊丹【写真:橋本健吾】

ヤクルト山田哲人らを輩出したヤングリーグ・兵庫伊丹

野球人口の減少が叫ばれる中、部員100人の大所帯で活躍するクラブチームが関西に存在する。ヤクルト・山田哲人内野手、オリックス・山崎勝己捕手(現2軍バッテリーコーチ)らを輩出したヤングリーグの兵庫伊丹だ。

勝利至上主義だけにとらわれない指導方針で2019年のタイガースカップで優勝、昨年も準優勝を果たすなど結果を残すチームに迫った。

同リーグには独自のライセンス制度を取り入れており、指導者になるためには必ずライセンスの取得が義務付けられている。チームの代表、そしてヤングリーグの副理事長を務める鯛島廣美氏は時代と共に、野球界も変化する必要があると力説する。

過去は非科学的なトレーニング、根性野球が当たり前だったが「指導者がもっと勉強しないといけない時代に入っている。野球、トレーニングに関する知識を得ないと自信を持って選手たちを送り出せない」と語る。現在の指導者たちは、自分たちが現役時代に厳しい上下関係を経験したものが大半。それだけに「自分たちは“これ”をやって上手くなってきたと。いまだに昔の話をする人もいる。そういった人間ほど人の話を聞かないし勉強をしない。子どもたちの怪我にも気付くことができない。指導者にも覚悟が必要です」と指摘する。

兵庫伊丹・鯛島廣美代表(右)【写真:橋本健吾】

「約3年間、熱心に続けられたことが今後の人生でも役に立ってくる」

兵庫伊丹も全てのコーチ陣がライセンスを取得し投手、野手など各部門に15人のコーチが約100人の部員を指導している。チームの指導方針は1年生から3年生まで同じ練習を行い、怪我人などではない限り“無駄な時間”を作らないように心がけている。野球以外にも人間教育も重視し余程の理由がない限り原則として退部を認めていない。

「甲子園に出たい、強豪校に行きたい。勿論、その目標に向かって取り組むことは大事ですが約3年間、熱心に続けられたことが今後の人生でも役に立ってくる。何かに熱中する、その姿勢が大事です」

今では球界を代表する打者に成長したヤクルトの山田もその一人だという。中学生を見るポイントには「やっぱり真面目さでしょうね。その中で自分で考えてやる子は成長スピードも早いし、高校、大学でも活躍している。足が遅くても一塁まで一生懸命走ることは誰でもできる、挨拶や声を出すことはできるでしょ? それができない子もたくさんいる。下手でもいいんです。そういった当たり前のことをできるかできないかで全然違ってくる。(山田は)足と肩はそこそこあったが野球に関して真面目だった」。

ただ、鯛島氏が20年以上、指導してきた中で最も凄いと感じた選手は山田でなかった。「中学時代で間違いなくナンバーワンだったのは尾崎匡哉(2002年ドラフト1位で日本ハム入団)。打っても投げても頭一つ抜けていた。プロでは思うような成績は残せなかったが甲子園でも優勝した。彼以上の選手はいなかった」と振り返る。

地元の小学生らを対象にした体験会の様子【写真:橋本健吾】

小学野球の指導に危惧「自分の子どもなら試合に勝つために多少無理をさせる」

最近では入部した時点で怪我持ちの子どもたちも多くいるという。中学、高校の指導方針が議論されるが鯛島氏は小学生の時から改善していく必要性を感じている。

「全てではないですが小学生の指導者は親御さんの所が多い。自分の子どもなら試合に勝つために多少無理をさせる。野球をやり始めた子に勝利至上主義は酷ですよ。怪我して野球が楽しくなくなって辞めていく。そんな子たちを無くしていくことが大事なのではないでしょうか」

兵庫伊丹は毎年、地元の小学生らを対象にした体験会を行っている。多い年には300人が集まり練習内容、チーム方針を伝えている。

「昔より今の方が『甲子園に行きたい』と考える親が増えた印象です。そこだけを追い求めてると、何のために野球をやっているのかということにもなる。自分の道を決めるのは子どもたち。高校、大学を卒業して親になって自分たちの子どもがまたここに戻ってくる。野球を通じて様々な世界で活躍する姿を見るのが一番、嬉しい瞬間です」

阪神淡路大震災が起こった1995年に創部され今年で26年目を迎えた兵庫伊丹。73歳となった鯛島氏はこれからも少年野球の未来を考え、チームを成長させていく。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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