日本は桁違い? ワクチン接種のアナフィラキシー 新型コロナ封じる〝最終兵器〟の気になる副反応

米ファイザー製の新型コロナワクチン(ゲッティ=共同)

 新型コロナウイルス感染症を抑え込む〝最終兵器〟として期待が集まるワクチン。国内では2月、遺伝物質を利用した最新型の米製薬大手ファイザー社製ワクチンが製造販売の承認を受け、海外から続々と運び込まれている。政府は医療従事者への接種を開始し、6月までに計約1億回分(約5千万人分)を調達できるとの見通しを示す。一方で、接種に伴う副反応や市中で広がりをみせる変異株に効果があるのか気がかりなところだ。接種によって起きる重い副反応「アナフィラキシー」が、先行している欧米に比べ多いのではとの指摘もある。現状を探った。(共同通信=杉田正史)

 ▽「欧米に比べると…」

 「数字が1人歩きしないように、丁寧な解析とデータの収集が必要だ」。12日に開かれた厚生労働省のワクチンの副反応に関する専門部会。出席した委員らは国内で報告のあったアナフィラキシーの件数について、異口同音にこう指摘した。
 国内では3月11日時点で約18万人がワクチンを接種したが、そのうち息苦しさやじんましんなどアナフィラキシー症状とみられる報告数は20~50代の計36人に上り、ほとんどが女性だった。ファイザーのワクチンでは100万回接種して4・7回の頻度でアナフィラキシーが出たとの米国の調査結果が公表されており、単純比較した場合、日本の割合は100万回当たり約200回と「桁違い」に高い。田村憲久厚生労働相や河野太郎行政改革担当相も「欧米の状況と比べると、数が多いように思われる」と見解を示していた。

沖縄県西原町の琉球大学病院で新型コロナウイルスワクチンの接種を受ける医療従事者=5日午後

 こうした意見に対し、専門部会では3月9日までに報告された17人を詳しく調べた結果、国際的な「ブライトン基準」で該当するのは7人と判断し、別の副反応疑いが含まれていたことを明らかにした。メンバーの1人は「日本だけが多いように誤解されてはいけない」と注文を付けた。

 ▽超低温

 日本政府は現時点でファイザーのほか米モデルナ、英アストラゼネカの計3社と供給契約を結んでいる。ファイザーのワクチンは昨年12月、厚労省に販売製造の承認審査を申請。審査を担う医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、ファイザーが実施した治験のデータや副反応の有無などを詳細に確認し、2月15日に厚労相が正式承認した。
 アストラゼネカとモデルナも申請済みで、これから本格的に審査が行われる。
 ファイザーのワクチンは正式承認から2日後、都内の病院を皮切りに、医療従事者向けの先行接種が始まった。4月12日から全国の高齢者3600万人を対象とした接種が始まり、6月中に全国の市町村への配送が完了する予定だ。
 3社のワクチンは遺伝物質が使われていることが大きな特徴だ。ファイザーとモデルナは、人工的に合成したメッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれる遺伝物質が使われている。このmRNAで人間の体内でコロナウイルス表面にある突起状の「Sタンパク」を作って「抗原」として認識させ、ウイルスを攻撃する中和抗体を作る。大規模な治験で、接種によって抗体価が上がり、新型コロナウイルスに効果があることが確認された。

米ファイザー製の新型コロナウイルスワクチン保存のため、零下75度以下に設定されたディープフリーザー(超低温冷凍庫)=2月、千葉県市原市の千葉ろうさい病院

 だが一方で、配送や保存で高いハードルが立ちはだかる。それが「温度」の問題だ。保管温度が、ファイザーは零下75度前後、モデルナが零下20度と超低温で、輸送だけでなく、接種会場に運ばれて対象者に打つまでの体制整備も課題となる。
 アストラゼネカのワクチンは、遺伝子治療で使われる「ウイルスベクター」を採用した。ベクターとは「運び屋」のことで、チンパンジーアデノウイルスに抗原となるコロナウイルスのSタンパクの遺伝情報を組み込んで投与、ウイルスを撃退する中和抗体を作る。

 ▽変異株

 新型コロナワクチンは1年というかつてないスピードで開発された。遺伝子治療に詳しい小島勢二(こじま・せいじ)・名古屋大名誉教授は「世界各国で2000年代からmRNAワクチンに関する研究が進められており、がん治療やジカ熱に対するワクチンの製法がほぼ確立されていた」とし、新型コロナの感染流行が「mRNAワクチンの研究を後押しした」と解説する。

小島勢二・名古屋大名誉教授

 ただ、日本ではmRNAを使うワクチンの研究は遅れていたようだ。小島氏が主要医学誌に掲載されたmRNAワクチンに関する国別の論文数を調べたところ、米国が71本と断トツ。次いで中国が22本、ドイツが17本と続く。日本は「1本」のみと明らかに他国と差が開いている。「大学などの研究機関や製薬会社も、この分野の積極的な研究開発を行ってこなかった」と小島氏。日本が欧米に比べ、ワクチン接種が2カ月遅れたが、自国で開発していなかったことが背景の一つに挙げられる。
 接種回数も関心が高い。日本で使用される3社のワクチンはいずれも原則「2回」。ファイザーは1回目から28日間隔で2回目を接種、残る2社は21日間を開けるとなっている。
 ワクチンの数が限られる中で接種回数を1回にしてより多くの人に行き渡らせた方がよいのでは、という意見も出ているが、これに対し小島氏は国内外で拡大を続ける感染性の強い変異株の出現抑制策としても「2回接種の方がいい」と語る。
 変異株は、体内の新型コロナウイルス量が多く、かつ中和抗体が不十分な条件で出現しやすいという。「ワクチンを2回接種することでブースター効果が得られ、抗体価が上がる。決められた間隔で2回目のワクチン接種を行い、十分な抗体価を得ることが推奨される」と説明する。ただ、変異株の中でも「英国株」にはワクチンの効果が発揮されるものの、「南アフリカ株」などには効果が低下するとの研究結果もあり、各国でワクチンを改良する動きが出ている。

 ▽気管内挿管も

 米医学誌JAMAオンラインによると、米国でワクチン接種後にアナフィラキシーを発症した66人のうち半数が入院の必要があり、7人は呼吸確保のため気管内挿管を要した。その頻度は200万回当たり1回との結果だった。
 12日に開かれた厚労省の専門部会でも「これまでは医療従事者が接種して、病院という整備されたところでの接種。今後、接種対象者が高齢者になり、接種場所もかなり違ってくる」として、接種後の容体の急変に対応できるような医療体制を構築するべきだとの意見が出た。

ワクチン接種後に起きた副反応について議論した専門部会=12日午後、厚労省

 小島氏は「アナフィラキシーは、のどや気管の粘膜が腫れて空気が通りにくくなり挿管が必要になることもある。このような場合は、気道が狭くなっているので挿管が困難である。クリニックなどでもワクチン接種をすることになると思うが、接種会場やクリニックでこのような患者に対応するのは相当危険を伴う」と警鐘を鳴らす。

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