「ウィズコロナ時代の鉄道へ前進」、それとも 2021年春ダイヤ改正 首都圏各社の終電繰り上げを再考

 

JRグループと多くの私鉄はきょう2021年3月13日からダイヤを改正します。新ダイヤでは、東海道新幹線「のぞみ」の一部定期列車や東北・北海道・上越・北陸の各新幹線での時間短縮といったニュースもあるのですが、多くの鉄道事業者が都市圏で実施した深夜時間帯ダイヤの見直し、具体的には終電時刻繰り上げの話題の前に若干かすんでしまった印象があります。

社会情勢をみれば、東京都と神奈川、埼玉、千葉の3県で緊急事態宣言が再延長されましたが、多くの鉄道は既に終電を繰り上げ済み。しかし、大きな影響は出ていないようです。それはともかく、「ウィズコロナ時代の鉄道への前進」なのか、はたまた「24時間都市実現からの一歩後退」なのか、さまざまな見方ができるJR東日本と首都圏大手私鉄の新ダイヤを路線図を交えて概観しました。

経営悪化が原因ではない

コロナ前には終夜運転の必要性も指摘されていたのに、一転しての終電繰り上げ。最近は「鉄道事業者の経営が厳しくなったので、終電を繰り上げる」の〝二段抜き理論〟も見受けられますが、事業者は一貫して「夜間メンテナンス時間の確保」、さらには「コロナ拡大による深夜時間帯の利用客減少への対応」を理由として挙げています。

ここでは公表済みの資料や図を使って、各社が終電(一部始発も)ダイヤを、どのように見直したのか具体的に見ましょう。鉄道各社は、新ダイヤを「概要」と「詳細」の2回に分けて発表しましたが、本稿は視覚的に理解しやすい初回の図を使用しました。

東京100km圏で終電繰り上げ

JR東日本の終電繰り上げ線区一覧。一部線区では終電の混雑緩和のため金曜日などに終電前の臨時列車を運行するとします。(画像:JR東日本)

JR東日本は図の通り首都圏17線区で終電を繰り上げ、5線区で初電を繰り下げます。繰り上げも繰り下げもしない線区もあり、東京から距離的に遠い線区では、東北線宇都宮以遠、高崎線(実際は上越線)新前橋以遠、常磐線勝田以遠、中央線大月以遠、東海道線小田原以遠、総武・内房・外房線千葉、蘇我以遠は対象外です。

距離的には東京都心(山手線)から40km圏の千葉、蘇我を例外に、おおむね80~120km圏といったところで、東京への通勤圏とほぼ合致します。100km圏内でも繰り上げ、 繰り下げしない線区もあり、湘南新宿ライン(山手・東海道線)新宿―西大井間、総武快速線東京―千葉―蘇我間、武蔵野線市川塩浜・南船橋―南浦和間、八高線八王子―川越間、五日市線拝島―武蔵五日市間、相模線茅ヶ崎―橋本間、南武線(支線)尻手―扇町間、鶴見線鶴見―浜川崎間、相鉄・JR直通線(東海道線)武蔵小杉―羽沢横浜国大間が該当します。枝線や相互直通運転区間を除けば、車両運用などの関係でダイヤを変更しなかったと思われます。

山手線内回りは大崎止まりを池袋で運転打ち切り

次に、どのくらい繰り上げたのか確認しましょう。「電車を1本飛ばして、最終の1本前を終電とする」なら話は簡単なのですが、ダイヤは複雑で、そうはいきません。山手線の内回り、外回りと東海道方面をJRの資料から抜き出しました。

山手線の終電繰り上げは円形の路線図で分かりやすく表現します。(画像:JR東日本)

改正前の資料なので、「現行」とあるのは2021年1月の終電繰り上げ前ダイヤ。山手線外回りはおそらく最終の運転を取り止めて、1本前を終電にしたのでしょう。繰り上げ時間は各主要駅16~19分とほぼそろっていますが、これは例外です。

同じ山手線でも内回りは、品川、東京、上野の3駅は繰り上げなし。池袋以遠の新宿、渋谷は19分の繰り上げになっています。山手線は池袋と大崎に車両基地があり、最終の大崎行きを池袋で打ち切るようです。

最後まで列車が走る京浜東北線を繰り上げる東海道方面

JR東日本東海道方面の京浜東北・根岸線、東海道線、横須賀線の終電繰り上げ。(画像:JR東日本)

東海道方面は、東海道線東京―平塚間と横須賀線東京―大船間は繰り上げなしで、東京駅を23時54分に乗車すれば東海道線平塚まで、同じく23時50分に乗車すれば横須賀線大船まで、これまで通り到着できます。

終電を繰り上げるのが京浜東北・根岸線で、蒲田まで16分、桜木町まで33分、終電の発車時刻が早まります。東海道方面は快速線の性格を持つ東海道線と横須賀線、緩行の京浜東北線の3線が並行していて、一番遅くまで列車が走るのは京浜東北線です。京浜東北線の終電を早めるのが、メンテナンス時間確保に最も効果的です。

鉄道事業者にとって最大の商品ともいえるダイヤは、利用状況のほか車両や乗務員の運用を考慮して決まります。山手線や東海道方面の新ダイヤについて、いろいろな見方ができるでしょうが、私には「利用客への影響を最小限にとどめながら、メンテナンス時間を最大限確保した」の創意工夫が見て取れました。

東北新幹線の最終では小田原には乗り継げない

JR東日本は「新幹線からの乗り継ぎ」も、新幹線最終から在来線に乗り継いで到達できなくなる区間を明示しています。東北新幹線と上越新幹線の最終を東京駅で乗り継ぎ東海道方面に向かうと、東海道線大磯―小田原間と横須賀線北鎌倉―逗子間には到達できません。

逆にいえば東海道線平塚まで、横須賀線(実際は東海道線)大船まで到達できるわけで、その先の区間に自宅がある人は、1本前の新幹線に乗車するなどの工夫が必要になります。

東京メトロは最大16分繰り上げ

東京メトロの大手町、銀座、永田町・赤坂見附の各駅終電繰り上げ一覧。(画像:東京メトロ)

私鉄各社のうち、東京メトロは「都心部における輸送ネットワークを考慮した繰り上げ時間の設定」を基本に、各線10分程度の終電繰り上げを実施します。ここでは3戦区以上が接続する大手町、銀座、永田町・赤坂見附(駅名は異なりますが、扱い上は同一駅)の3駅について、繰り上げ時間を見ます。

繰り上げが大きいのは、東西線大手町発の中野方面の12分です。ほかの線区や駅について詳述するスペースはありませんが、資料を見る限り、全線で繰り上げ時間が最大なのは千代田線北千住―綾瀬間の16分。ほかに、14分繰り上げが丸ノ内線(池袋方面)荻窪―中野坂上間と、副都心線(渋谷方面)新宿三丁目―渋谷間、13分繰り上げが同線(和光市方面)新宿三丁目―池袋間で、多くの線区は、繰り上げ10分以内に設定されています。

東武は東上線「TJライナー」増発

東急電鉄、小田急電鉄、東武鉄道、京成電鉄、京浜急行電鉄、京王電鉄、西武鉄道の私鉄7社は、ポイントを紹介します。路線図は分かりやすい東急を転載しました。

視覚的に分かりやすい東急の終電繰り上げ一覧。(画像:東急電鉄)

東急は図の通り各線で終電を繰り上げますが、時間は東横線渋谷発26分、田園都市線渋谷発17分、多摩川線と池上線の各蒲田発8分と最大18分もの差があります。理由は渋谷と横浜という両都市間を結ぶ東横線は東急線の中で最も遅くまで電車が走るから。東急は始発の繰り下げは実施しません。

小田急は小田原線と多摩線の全線と江ノ島線相模大野―大和間が繰り上げ区間で、上下線ともに最大20分間、終電を早めます。東武は東武スカイツリーラインの浅草―東武動物公園間と大師線西新井―大師間、東上線池袋―寄居間、坂戸―越生間が対象で、最大15分繰り上げ。京成は、本線高砂―京成成田間の下り京成成田方面を20分繰り上げ。京急は、大師線を除く全線で最大30分繰り上げ。京王は、京王線(競馬場線と動物園線を除く)と井の頭線で最大30分繰り上げ。西武は、山口線と多摩川線を除く全線で最大30分繰り上げます。なお、京成と京急のダイヤ改正は2021年3月27日からです。

最後は駆け足になりましたが、京成が2019年9月と2020年9月の利用状況の変化を図示しているのでご覧下さい。

京成電鉄は2019年と2020年の利用状況の変化を図示して終電繰り上げに理解を促しました。(画像:京成電鉄)

ここまではすべて終電繰り上げの話でしたが、新ダイヤでは東武東上線「TJライナー」増発など通勤客の利便性向上につながる話題もあります。最後に余談。本稿の執筆で時刻表や各社ホームページをチェックするうち、列車ダイヤをトリックに使った松本清張の名作「点と線」を読んでいる気になりました。文才のある方、終電繰り上げで推理小説を書いてはいかがでしょうか。

JR東日本は伊豆特急「踊り子」をE257系リニューアル車両に統一します。鉄道ファンが気になるのは終電よりこちらでしょうか。(写真:tetsuo1338 / PIXTA)
鉄道の安全確保に欠かせないメンテナンス作業。一部事業者は昼間にシフトするなど働き方改革に取り組みます=イメージ=(筆者撮影)

文:上里夏生

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