「楽しかった」充実の平川亮と「原因がわからない」悩める山本尚貴。対照的になった初走行【鈴鹿公式テストフォーカス】

 昨年、スーパーフォーミュラだけでなく、スーパーGTでもタイトルを争った山本尚貴と平川亮。今年のスーパーフォーミュラでは山本がTCS NAKAJIMA RACINGに移籍し、一方の平川はITOCHU ENEX TEAM IMPULで継続参戦となったが、3月11日から2日間の日程で行われた鈴鹿サーキット公式合同テストでは、ふたりの表情は正反対となった。今年もチャンピオン候補の筆頭に挙げられるふたりに、初テストの手応えとともに今シーズンの取り組みについて聞いた。

 まずは初日の2回のセッションを終えて、険しい表情を見せたのが昨年3回目のチャンピオンに輝いた山本だった。「(ナカジマレーシングのマシンで)昨年末のルーキーテストに参加した時は非常にいい感触がありました。その流れでこのオフにさらに改善点を加えて今回、クルマを持ち込んだのですが、今日はそれをうまく機能させられませんでした。ちょっとトラブルかどうかもわからないのですけど、クルマの動きが狙った動きをしていないので、その原因究明に時間がかかってしまった感じですね」

 初日の山本の総合順位は13番手で他のドライバーよりも周回数が少ない状況だった。鈴鹿マイスターとして、鈴鹿サーキットの走行感覚に絶対的な体内センサーを持つ山本にとって、チームメイトの大湯都史樹が5番手ということを考慮しても、なかなか考えられない結果だ。

「きちんと走れば問題ないと思うのですけど、きちんと走れていない。その原因がわからないので、今はそれに悩んでいるだけです。大湯選手が速いところをみせているので、セットアップだけを見れば問題はない。ドライバーなのか、クルマのちょっとした不具合なのか、その辺の原因がわかれば問題ないと思います」と山本。

 ナカジマ・レーシングは初日のセッションが終わった後、日付が変わる深夜まで山本のマシンをバラして(解体して)原因の究明と使用している部品の交換を行った。しかし、2日目……。

「根本的な改善につながらなかったですし、逆にちょっと悪化してしまったようにも感じました」と、眉間にしわを寄せる山本。2日目午前、山本の順位は10番手(大湯7番手)で前日より順位は上がったが、当然、チームも山本も期待したリザルトではなかった。なにより、クルマへの違和感が拭えないのが最大の課題となった。

「全部のコーナーでダメなわけではなくて、ポイントポイントで良くないコーナーがあったりするのですが、前の周で良かったコーナーが、次の周で悪くなってしまったり、コロコロ変わってしまう状況が起きている」

「僕もここ10年くらい経験したことがないようなことで、同じコーナーが常にアンダーの状況なら対処の仕方もわかるのですけど、走る度に良く曲がったり曲がらなかったりするので、その原因が何なのかは今のところちょっと分からないですね。イレギュラーな動きなので何か原因はあるんですけど、自分の力不足でそこの何かがコメントではチームに伝えきれなくて、もどかしさを感じています。スーパーフォーミュラ、レースはそんなに甘くないよというのを、教えられている感じなので、初心に戻って、またコツコツやっていきます」と山本。

 最後は今年のシーズンに向けてポジティブなコメントで締めくくったものの、2回目の合同テスト、そして開幕に向けて山本とTCS NAKAJIMA RACINGは大きな課題に直面することになってしまったようだ。

今年TCS NAKAJIMA RACINGに移籍した昨年チャンピオンの山本尚貴

## ●チャンピオン山本と対照的に鈴鹿で速さをみせた平川

 一方、悩めるチャンピオンとは対照的に、昨年タイトルを争ったランキング2位の平川亮は初日総合4番手、チームメイトの関口雄飛も初日総合2番手で、平川は2日目に総合トップと、好調ぶりをアピールする形になった。

「いや、たまたまですね。11時くらいから雨が降ると予想していて、雨雲レーダーを見ていたら10時30分頃から雨雲が被ってきてセッションの最後まで待っていたら雨が振る気がしていたので、早めにアタックしようとは思っていました。アタックもまあまあ。セッション中にそれなりにいろいろなことを試せて、そのいいとこ取りをしてクルマは悪くはないんですけど、正直、みんながアタックしたなかでの順位を知りたかったです、それでも、(本当のトップタイムから)さほどかけ離れているとは思わないですね」

 平川の話す「みんなのアタックを見たかった」というのは、2日目午前に平川がニュータイヤでアタックを終えた直後に雨が降り始めたため、アタックができずにセッションを終えたドライバーが多くなってしまったことを指すが、それでトップを奪われたとしても、今回の鈴鹿テストで平川の手応えがよかったことに変わりはなさそうだ。昨年の平川と鈴鹿に関しては第5戦の予選ではトラブルで出走できず、第6戦の予選でもQ2落ちと、シーズンを通して鈴鹿は結果を残せなかったラウンドでもあった。

「鈴鹿は昨年も他のサーキットに比べると速くはなかったですけど、でも正直、去年も第5戦でトラブルがなければ結構、いいところで走れた気がするので、そこから継続してクルマは進めているので、遅いわけはない。去年走れなかったところから、どんどん良くしているところです」

 昨年、山本に敗れ、惜しくもランキング2位になった平川。スーパーフォーミュラでは今年、どのようなテーマ、そしてアプローチでタイトル獲得を目指すのか。

「今年もアプローチを変えたりはせず、昨年から進めている部分で新しいことをどんどん試して、という感じですね。2日間ドライで結構いろいろ試せたので収穫はありましたし、多少なりとも鈴鹿で自信を持てるようになってきた。今年はシーズン中に2回鈴鹿があるので、そこで有利になれればいいですね。今回のテストでは失敗する方向でも試せたし、そのあたりは良かったと思います」

 スーパーフォーミュラだけでなくスーパーGTでも劇的な形で敗れて2位と、かつてない悔しさに見舞われた昨シーズンの平川。このオフ、うまく気分転換はできたのだろうか。

「オフになると、やっぱりレースのことからは離れることができました。そして3月になってテストが始まると、やっぱりいろいろ考えたり、夜も寝れなくなってしまいますね。でも、それも別に悪いことではないと思っています。いろいろ考えて、少しでも経験を増やして、その経験を強みにできるようにしたいですね。いろいろ勉強します」

「経験」「勉強」という言葉を繰り返す平川。昨年から、特に注力して取り組んでいるのが、クルマのセットアップ、そして開発能力といった部分だ。スーパーGTでも昨シーズン後半にニック・キャシディが抜け、平川が主導してエンジニアとクルマのセットアップを詰めることになった。スーパーフォーミュラでも今年、その取り組みはさらに先に進むことになりそうだ。

「スーパーフォーミュラでも自分の試してみたいことをいろいろとやらせてもらっています。僕がいろいろわがままを言って、大駅(俊臣エンジニア)さんが考えて進めてくれます。今の自分には、すべての変更、試したことすべてが収穫になっているので勉強になりますね」

「スーパーフォーミュラはタイヤが同じで評価しやすいので、走りながらすぐに把握できるのがいいですよね。セットアップ能力、経験値はやればやるだけ引き出しは増えていきますね。あまりそういうことを考え過ぎずに速く走らなきゃいけない時もあるんですけど、やっぱり状況に応じてセットアップを細かく進めることで、どんな状況でも安定して速く走れるところにいられると思うので、そこを目指してやろうと思っています」と平川。

 当然、昨年惜しくもタイトルを逃し、今年タイトルを奪いに行くに当たって、平川自身が今年、そのセットアップ能力を必要な部分と感じたからに他ならない。

「やはり持ち込みのセットアップが速ければ週末は誰でも速く走れる。シーズン中にセットアップでハマる(迷走する)ことは少ないですが、ちょっとセットアップがズレた時にどうやって修正していくか。そこで引き出しが多いと自分の自信にもなるし、不安要素がなくなる。『こういうときはこうしたらいい』とか、やっていて楽しいですね。去年からそういう形で進めていたんですけど、今年はさらにという感じですね。伝え方もエンジニアに変なことを言ったりしないように、それでチーム全体がさらに速くなってくれればいいですね」

 今年のITOCHU ENEX TEAM IMPULは、白ベースのカラーリングからブラックとゴールドベースに大きくイメージが変わることになる。

「クルマのカラーリング、テスト初日の朝に(星野一義)監督から呼び出されて『なんだろう?』と行ったら、カラーリングについて『どう思う?』と。監督としては金色をもうちょっと目立たせたいそうなので、ちょっと変わると思います(苦笑)。やっぱり、カラーリングが変わると気持ちも変わるのでいいですよね。今年はブラックで、悪役になってしまうかもしれないです(笑)」

 昨年は笑顔でシーズンを終えた山本、そして唇を噛みしめることになった平川。しかし、今年の走り初めのテストは、皮肉にもまったくの正反対のスタートとなった。

今年からカラーリングが大きく変わったITOCHU ENEX TEAM IMPUL
鈴鹿公式合同テストではまだ昨年のレーシングスーツを着用していた平川亮

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