いながきの駄菓子屋探訪36福島県いわき市「あかもの屋」東日本大震災を乗り越えて再建した“子どもたちの心のよりどころ”

全国約250軒の駄菓子屋を旅した「駄菓子屋いながき」店主・宮永篤史が、「昔ながらの駄菓子屋を未来に残したい」という思いで、これまで息子とともに訪れた駄菓子屋を紹介します。今回は福島県いわき市の「あかもの屋」です。

時計店・電器店・駄菓子屋が同居する業態

東日本大震災で津波と火災に見舞われ、一部が壊滅状態となってしまったいわき市久之浜町。ここには、被災後に仮設店舗での営業を経て建物を再建し、復興を果たした駄菓子屋があるとのことで、その道のりを伺うべく訪ねることにしました。

開発中の新興住宅地のような雰囲気で、区画が整えられ、所々に家が建っている久之浜北町地区。道幅の広い道路沿いに、駄菓子と書かれたノボリの立つ平屋の建物がありました。清潔感のある明るい店内では、島型に置かれた什器にたくさんの駄菓子が並んでいます。駄菓子以外にもおもちゃや雑誌、釣りエサや釣り具を販売。年代物のパチンコ機も置かれ、自由に遊べるようになっていました。お店の外には屋根付きの飲食スペースがあり、浜風を感じながら駄菓子やラーメンなどを食べることができます。

あかもの屋は元々、店主の祖父が明治もしくは大正期に創業した、「夏井屋商店」という日用雑貨や食品を扱うお店だったそうです。昭和22年(1949年)ごろに父親が同じ店舗内で「伊藤時計電器店」を創業すると、その後、夏井屋商店の部分は駄菓子やおもちゃ、釣りエサを販売する部門になり叔父が担当。ひとつのお店の中に時計店・電器店・駄菓子屋が入っている業態になったそうです。時計と電器は昭和50年(1975年)ごろ、駄菓子は平成22年(2010年)にそれぞれ引き継いだとのこと。駄菓子屋は、夏井屋商店の時代からずっと「あかもんにゃ(あかもの屋)」と呼ばれ、「荒物屋(※日用雑貨店)が訛ったものではないか、諸説あるみたいだけど(笑)」とおっしゃっていました。

仮設商店街を経て2017年に新店舗をオープン

東日本大震災の津波で被災し、旧店舗は建物自体は流されなかったものの、使えない状態に。それでも、小学校の校庭に作られた仮設商店街に入居して、駄菓子屋の営業を継続。平成29年(2017年)7月に現在の場所に店舗を建て、再オープンすることができたそうです。

「津波で住宅街が流されてしまって、普段はここからだと見えないはずの海が見えたんですよ。そこで『こんなに海の近くに住んでいたのか』とあらためて気が付いたんです。恐ろしい体験でした。今は堤防も完成し、土地の造成も進んで、だんだんと人が戻ってきているなと、お客さんが増えてきたことで実感しています。仮設商店街で駄菓子屋を続けたのも、『この状況では、子どもたちが落ち着ける場所がないな』と思ったから。なんとか新しい店舗で営業再開できたので、遊具を置いたり、品数を増やしたり、これからも子どもたちの心のよりどころでありたいですね」

店内の一角に、古めの印鑑の陳列ケースが置いてあります。並び方はなんと「いろは順」。これは被災した旧店舗で泥まみれになって散乱していたものを、ボランティアの方々がひとつひとつ洗って、陳列し直してくれたものなんだそうです。お店の再開を象徴するものの存在に、なんだか胸が熱くなりました。人が変わっても、場所が変わっても、建物が変わっても、子どもたちの憩いの場でありつづけるあかもの屋。困難を乗り越えての駄菓子屋再建に、尊敬の念を抱かずにはいられないお店でした。

あかもの屋(伊藤時計電器店)

住所:福島県いわき市久之浜町久之浜北町124-2

電話:0246-82-2220

営業時間:8:00~18:00

定休日:不定休

[All photos by Atsushi Miyanaga]

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