3月26日のプロ野球開幕を前にして、巨人の原辰徳監督の発言が注目を集めている。
今月8日、報道陣を前にして、切り出したのは外国人に関しての問題だった。今年はコロナ禍で、外国人選手の入国がままならず、10日時点で12球団で計47選手が来日できていない。
仮に開幕前に来日できても、現状のままなら2週間の隔離が必要。さらにチームプレーの練習などを含めると、出場は早くて4月中旬以降、場合によっては5月以降にずれ込むことも予想されている。
そこで、原監督は、こうした外国人選手を東京ドームに集め合同練習の場を提供したらどうか、と提案したのだ。
各選手の入国時期や入国ルールなどが整備された上で、という前提はあるものの球界にとっても緊急事態下にあって、タイムリーな提言である。
「NPB(日本野球機構)や巨人軍とか、そんなことはどうでもいい。プロ野球全体で待ちに待った選手たちだよね。だから東京ドームに一同に会そうと。練習場をみんなで共有する」
「我々は場所を提供する。それぞれが協力し合う。ワンチームですから」
東京ドームには地下通路でホテルと直結する導線もある。これなら外部との接触を減らすことができる。
各チームから練習の補助員を出せば個別練習よりも効率がいい。本来であれば、球団なりNPBから提言があっておかしくない話だが、それもないのが球界の現状。それだけに原監督の発信力が光る。
確かに、日本球界における外国人選手の比重は大きく、戦力そのものに直結する。今季で言えば、最たる例はDeNAだろう。
昨年来、打線の中軸を任せるソト、オースティンと貴重な中継ぎエスコバーに加え、先発要員として期待するロメロら10選手すべての来日が決まっていない。
他にも巨人ではクリーンアップの一角候補であるスモークやテームズ、阪神ではアルカンタラ、ロハスジュニアといった主力として期待する新外国人の入国が未定のままだ。
既に来日してオープン戦に出場している選手もいる。このままでは戦力面で不公平なままで、ペナントレースそのものにも大きな影響を与えかねないだけに、今後の動きが注目される。
「巨人の若大将」も今年で63歳。西武の辻発彦監督と並ぶ最年長指揮官である。
今や現場の指揮だけでなく、編成部門も掌握する全権監督らしく、近年は「ご意見番」としての発言も目を引く。
セ・リーグとパ・リーグの戦力格差に触れて、セでも指名打者(DH)制の採用を提案している。
今年に入ってからは、外国人選手の入国後の隔離期間内でも、1日5時間まで練習できる制度を提唱。これはテニスの全豪オープンでの隔離と練習法にヒントを得たようだ。
さらにメジャーリーグに倣って、春季キャンプに招待選手制度を設けたらとも訴えている。いずれも、野球界全体の発展を願ってのものだ。
こんな「原提言」に対して、球界の動きは鈍い。DH制に関してはセの理事会で議題に上るものの、反対意見が多数を占めている。
対案が出されることはなく、中には経費がかさみ巨人のような資金力のあるチームが有利になるという声もあると聞く。果たしてそうだろうか。
強いチームは企業努力を惜しまない。ソフトバンクが4年連続日本一になったのも、いち早く3軍制度を導入してチーム内に競争意識を植え付けたことが要因だ。
今や各球団ともこれに追随している。常に新しい強化の道を探り出して挑戦するのはプロとして当然だ。一人の監督の発言だけが注目されるのは、球界の怠慢と言ってもいい。
長い球界の歴史を見ていくと、確かに巨人の一強時代があった。ドラフト制度の骨抜きやFAによる大型補強もそうだろう。
1リーグ再編問題も巨人を中心に進められた。だから巨人の監督の提言に疑心暗鬼になる経営者もいるのだろう。
しかし、今回の発言は明らかに性質が違う。根底には球界全体の発展と「ワンチーム」の発想が貫かれている。
こうした時だからこそ、新しい考え方や形が生まれてもいい。もはや、巨人だけの時代でもない。
原監督が投じた一石が今後、どのように波紋を広げていくのか。注視していきたい。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。