【MLB】菊池雄星がOP戦で示した“勇気”とは? メジャー3年目に賭ける気概

マリナーズ・菊池雄星【写真:AP】

6奪三振の力投「今まで使ったことのない球種を使おうと」

マリナーズの菊池雄星投手は、14日(日本時間15日)のブルワーズ戦に先発し、一、三塁のピンチで3者連続三振を奪うなど計6奪三振の力投を見せた。4回途中で予定の球数を超えたため1死一塁で降板。2番手がヒットを許し、降板後に自責点1が付いた。オープン戦3度目の登板は3回1/3を投げて2安打1失点。要所では昨季多投したカットボールに頼らず「勇気を持って投げた」スライダーで勝負するなど、本番へ向けたメンタル面の準備にも着手した。【木崎英夫】

2回、敵を圧する投球でピンチを凌いだ。右前と左前の連打で無死一、二塁。3盗を許し一、三塁とされた場面で、菊池はカッターを封印。オフから精度の向上に取り組んできたスライダーを勝負球に選んだ。2者連続の空振り三振を奪うと、カウント3-1から3球ファールで粘る3人目にも迷うことなくこの球で挑んだ。結果は、3者連続の空振り三振。

嬉しかったのは結果だけではなかった。菊池は、見せ場を作った場面の心境をこう振り返った。

「正直、カットボールでという頭もありましたけれど、まだスプリングトレーニングなので勇気を持って積極的に、今まで使ったことのない球種を使おうと」

昨季は150キロ台のカッター多投…制球安定せずオフにフォーム修正

球威を重視するフォームに改造した昨季は、150キロ台のカッターを多投した。しかし、制球は安定せずオフからフォームを修正。しなやかな腕の振りから投げるスライダーの質の向上が大きなテーマの一つになった。その球を腕が縮こまらずに投げられるか――。真の精度は“修羅場”が尺度。逃げては自信も得られない。

オープン戦で初めてバッテリーを組んだのは、若手のトレンス。どの球種でもほぼ変わらない高さにミットを構える偏りは、曲がり球を投げるには微妙なストレスになってくる。投手にとって低めへの残像は変化球の切れを生む導きにもなるからだ。菊池は気にならないのだろうか。穏やかな性格ゆえ、自分の中で収めてしまうのだろうか……。3者凡退で上々な滑り出しも、その心中は穏やかではなかったはず。その後にピンチをくぐり抜けると、菊池はダグアウトでトレンスと言葉を交わした。その内容を問われると、ためらいがちに言った。

「あ、えーと、えーと。追い込んでからの構える位置について、ちょっと僕の希望を伝えたという感じです」

“僕の希望”とは、メジャー3年目に賭ける気概そのものをオブラートに包みこんだものではなかったか。繊細な投手心理は確かに伝わった。トレンスが片膝を地面に着けてミットを構えるようになった3回、スライダーを巧みに織り交ぜて、先頭から2者連続の空振り三振を奪い、5者連続封じとした。菊池はその回を「本当にいいボールが投げられたと思いますし。まだまだ上がる気はしてますから」と振り返っている。もし、捕手との意思疎通が欠けたままでいたなら、胸奥は違っていたであろう。

登板間の調整で昨年まで行っていた平地でのキャッチボールをやめ、今は実戦と同じ角度を意識してブルペンでの肩慣らしに変えている。

オープン戦も残り2週間。菊池雄星は本番モードに入っている。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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