「弱音を吐くな、笑顔でいろよ」怪我から復帰の巨人期待の主軸候補が胸に刻む言葉

巨人・山下航汰【写真提供:読売巨人軍】

3年目の山下航汰がリハビリを経て1軍の舞台に

「力が入りすぎてしまいましたね」と反省の言葉が口をついた。3月9日のソフトバンクとのオープン戦(PayPayドーム)。巨人・山下航汰外野手はけがから復帰し、ようやくスタートラインに立った。結果は出なかったが、その果敢で、思い切りの良いスイングに期待感が膨らんだ。【楢崎豊】

復帰戦から一夜明けた10日。山下にオンラインで話を聞いた。2軍戦に出場していたとはいえ、1軍の試合ならば自然と力は入る。「目覚めは普通でしたが、疲れはやはり少しあるかなと感じますね。平常心で臨めたと思うんですけど、やっぱり力が入っていたのかなとは思います」。ただ表情は明るい。心地よい疲労感が全身を覆っているようだった。

山下は一昨年、イチロー氏(当時オリックス)以来となる高卒1年目でファーム首位打者に輝き、2年目は開幕1軍どころか一塁でスタメンも期待された。しかし、6月の開幕直前。右手首付近の有こう骨を骨折。夏頃の復帰を目指したが、今度は右肘痛に悩まされ、リハビリで1年が終わってしまった。オフには育成選手契約となった。

2度のけがで「非常に焦りがある」という。ただ、まだ20歳とあり、ひとつの糧としてほしい。リハビリ期間だから、見ることができた景色だってある。

昨年の今頃と比べて、ストレッチにかける時間が「3倍以上」になった。これもけがから得た学びだ。

「ストレッチにかける時間はすごく長くなりました。今まではそこへの意識を欠いていたのではないかな、と思っています」

甲子園でも華々しい満塁弾を放つなど、高校通算75本塁打を記録したスラッガー。プロ1年目からその卓越したバット技術を披露した。順調に来ていたから、体を労ることに気がつかなかったのかもしれない。ファームでは阿部慎之助2軍監督、二岡智宏3軍監督らからも、けがとの向き合い方、リハビリ期間の過ごし方など、アドバイスをもらった。

「阿部(2軍)監督、二岡(3軍)監督から、ご自身も現役時代にけがを何度もされていたと、話を聞きました。ストレッチの方法や、鍛える場所がどこだというような話ではなく、けがをしないために、どういうことをしていくか。日々の意識が大切だと学びました」

一流選手だってけがをする。そのたびに強い体を作るため、改善する。同時に未然に防ぐことも重要になってくる。だからこそ、準備や姿勢にこだわらないといけない。

巨人・山下航汰【写真提供:読売巨人軍】

リハビリ期間中に見ていた1軍左腕の一生懸命な練習姿

貴重な時間は他にもあった。同じようにけがで育成契約となった左腕・高木京介投手がリハビリをしている時だった。

「京介さんはすごいなと思いました。育成契約になることが決まった次の日も、普通にやるべきことを表情ひとつ変えず、黙々とやっていました。辛かったはずですし、苦しい練習しているのに、全然、苦しそうじゃない。見ていて、やっぱり1軍の選手なんだと思いました」

自分はどうだろうか。大好きな野球が奪われ、下を向いていた日々を思い出す。思うように患部が完治せず、ストレスばかりが溜まっていく。5月末にけがをしてから、7月までは気持ちが前をなかなか向かなかった。

「(けがが重なり)なんで、僕だけなんだろう……と思ったりもしていました。9月くらいにようやく治ってきて、野球ができるようになり、気持ちは戻っては来ましたが、結構、メンタルはやられていました」

若手選手は負傷した主力選手がファーム施設でリハビリをする姿を見ることがある。1軍選手はそこで“真価”が問われる。自暴自棄になっていないか、けがをした時点よりもパワーアップしているか、前を見据えているのか……。巨人に限ったことではないが、チームはそのような歴史が繰り返されている。原、桑田、高橋由、小笠原、阿部、二岡……強い選手を作る球団の系譜は受け継がれたのかもしれない。

もしも、下を向いているあの時の自分に声をかけられるとすれば、どのように声をかけてあげるだろうか?

「弱音を吐くな、笑顔でいろよ!……ですかね(笑)」

これから成長の階段を昇っていく山下にとって、決して無駄な時間ではなかった。

「まだ(オープン戦)数試合ですけど、成長できたのかなと思います。まずは今あるチャンスを確実にものにして、支配下選手になって、1軍の試合に出ている姿を見せたいと思います。これからも自分との戦いです」

インタビューを終えると、全体練習に先駆けて、ウエートトレーニングをするために部屋を出た。将来の主軸候補として期待を抱いた1年前よりも、精神的に強くなって、山下は戻ってきた。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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