【破綻の構図】(株)万象ホールディングス 耐火・断熱材専門メーカーの「目算外れた」工場建設

 耐火材・断熱材の専門メーカー、(株)万象ホールディングス(TSR企業コード:300154887、八潮市、登記上:福島県富岡町、吉川孝則社長、以下万象HD)が2月9日、関連会社3社とともに東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額はグループ4社合計で43億7,300万円だった。
 東日本大震災の被災地への補助金を活用し、巨額の費用を投じて自社工場を建設した。だが、想定外の事態が次々に発生し、資金負担が破たんにつながった。業績拡大の期待を寄せた工場建設の裏で何が起きていたのか。東京商工リサーチ(TSR)が迫った。

復興補助金と借入金で新工場を建設

 万象HDは、ロックウールと呼ばれる人造繊維の生産で定評があった。ロックウールは耐火性や断熱性に優れ、アスベストの代替材として知られる。住宅などで広く利用され、建築工事には不可欠な資材でもある。
 もともと大手断熱材メーカーにいた吉川社長が独立し、建材販売や据付工事などを展開していた。その後、2013年に当社を設立、事業部門を担当する関連会社を傘下に置く万象HDグループを形成した。
 それまで他社メーカー品の販売や工事を主軸にしていた。その流れが大きく転換するきっかけになったのが、福島県富岡町に建設したロックウールの生産工場(以下、富岡工場)だった。
 被災地では共同住宅の建設など、折からの復興需要の高まりで、取り扱っていた建設資材の需要が急増。そこで自社製品の生産に舵を切った。
 富岡工場の建設は2015年、富岡町と工場新設の基本契約を締結してスタートした。被災地域雇用創出企業立地にかかる補助金で約29億円の交付を受け、金融機関からも借入金約14億円を調達。この43億円の資金が工場建設の主な原資となった。

想定外のトラブル続きで債務拡大

 ところが、富岡工場は建設段階からトラブルでつまずき、操業後もなかなか採算が安定しなかった。
 工場建設の段階で、製造設備の不具合や周辺地域の環境配慮への追加工事が生じた。これで当初計画していた資金以外に、3億8,000万円の追加費用が発生した。さらに、追加工事で操業が当初予定より半年もずれ込み、固定費5億8,500万円が丸々損失となった。
 想定外の資金流出で、その穴埋め資金の大半を銀行借入で賄ったため、金融債務がこの時点で20億円以上に膨らんだ。
 2017年12月、予定から大幅にずれ込みながら富岡工場は完成した。ようやく操業開始に漕ぎつけ、稼働後は初期投資を回収するように生産に力を注いだ。だが、他社と共同で開発に取り組んでいた商品が開発遅れで頓挫するなど次々と問題が発生。付加価値の高い商品が生産できず、低収益性に悩まされた。
 また、雇用面でも被災地ならではの事情も浮上した。
 「被災地域における除染作業等に比し、賃金が安価であることも相まって富岡工場における従業員の定着率が低く、生産性が高まらなかった」(民事再生申立書より)。工場建設のために獲得した補助金は被災地の雇用創出を目的としていたが、肝心の人材確保がままならないという皮肉な事態に直面した。
 工場の稼働効率が上がらず、人も集まらない。利益確保すら厳しい状態が続き、万象HDは2018年8月期から2020年同期まで、3期連続で営業赤字を計上。2020年同期末の債務超過額は12億9,000万円にまで膨らんだ。

万象HD

支援申し入れもキャッシュアウト止められず

 軌道に乗らない工場の操業、返済のめどが立たない金融債務。コンサルティング会社の経営指導や資金援助を受け入れたほか、2020年中旬には埼玉県中小企業支援協議会に支援を申し入れ、再建の道を模索した。だが、抜本的な解決には至らず、資金流出を止める事は難しかった。
 また同時期以降、万象HDグループの支払いに関する情報が飛び交うようになった。一部取引先に支払遅延や延期を要請し、資金繰り悪化の露呈で信用収縮を起こした。取引先の警戒感は一気に強まっていた。
 グループ全体でのキャッシュアウトは月間約5,000万円。経営支援も焼け石に水の状態で、資金繰りはついに限界に達した。

 事業拡大のための設備投資は、そのタイミングと身の丈に合った投資かどうかが重要なポイントになる。

 万象HDは復興需要や建設市況の盛り上がりに背中を押され、復興補助金を受けて業績拡大への勝負に踏み切った。だが、多額の資金を投じた工場は、当初描いた利益を生むどころか、逆に足を引っ張った。

 会社の命運を左右する巨額の設備投資は、どんな企業でも常にリスクと隣り合わせにある。設備投資が足かせになった例は上場企業でも枚挙にいとまがない。あらゆる事態を想定したうえで実施したはずが、目先の業績拡大に追われ、冷静な判断を失うこともある。

 2月17日、都内で万象HDグループの債権者説明会が開催された。席上、申請代理人は、「現在、2桁に近いスポンサー候補がおり、3月位までに選定を進めたい」との見通しを示した。今後はスポンサーへ事業譲渡を柱にした再生計画案を作ることになる。工場が持つポテンシャルを高く評価している先が多くあるということだ。

 奇しくも東日本震災が発生して10年目の節目を迎える時に経営破たんした万象HD。経営破たんの要因になった工場建設には多額の復興補助金が使われたことは忘れるべきではない。工場にはこれまで以上に地域の経済復興の担い手となることが求められる。そのためにはまず、スポンサー選定による再生計画の策定が第一のハードルになる。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年3月17日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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 万象HDは、ロックウールと呼ばれる人造繊維の生産で定評があった。ロックウールは耐火性や断熱性に優れ、アスベストの代替材として知られる。住宅などで広く利用され、建築工事には不可欠な資材でもある。
 もともと大手断熱材メーカーにいた吉川社長が独立し、建材販売や据付工事などを展開していた。その後、2013年に当社を設立、事業部門を担当する関連会社を傘下に置く万象HDグループを形成した。
 それまで他社メーカー品の販売や工事を主軸にしていた。その流れが大きく転換するきっかけになったのが、福島県富岡町に建設したロックウールの生産工場(以下、富岡工場)だった。
 被災地では共同住宅の建設など、折からの復興需要の高まりで、取り扱っていた建設資材の需要が急増。そこで自社製品の生産に舵を切った。
 富岡工場の建設は2015年、富岡町と工場新設の基本契約を締結してスタートした。被災地域雇用創出企業立地にかかる補助金で約29億円の交付を受け、金融機関からも借入金約14億円を調達。この43億円の資金が工場建設の主な原資となった。

想定外のトラブル続きで債務拡大

 ところが、富岡工場は建設段階からトラブルでつまずき、操業後もなかなか採算が安定しなかった。
 工場建設の段階で、製造設備の不具合や周辺地域の環境配慮への追加工事が生じた。これで当初計画していた資金以外に、3億8,000万円の追加費用が発生した。さらに、追加工事で操業が当初予定より半年もずれ込み、固定費5億8,500万円が丸々損失となった。
 想定外の資金流出で、その穴埋め資金の大半を銀行借入で賄ったため、金融債務がこの時点で20億円以上に膨らんだ。
 2017年12月、予定から大幅にずれ込みながら富岡工場は完成した。ようやく操業開始に漕ぎつけ、稼働後は初期投資を回収するように生産に力を注いだ。だが、他社と共同で開発に取り組んでいた商品が開発遅れで頓挫するなど次々と問題が発生。付加価値の高い商品が生産できず、低収益性に悩まされた。
 また、雇用面でも被災地ならではの事情も浮上した。
 「被災地域における除染作業等に比し、賃金が安価であることも相まって富岡工場における従業員の定着率が低く、生産性が高まらなかった」(民事再生申立書より)。工場建設のために獲得した補助金は被災地の雇用創出を目的としていたが、肝心の人材確保がままならないという皮肉な事態に直面した。
 工場の稼働効率が上がらず、人も集まらない。利益確保すら厳しい状態が続き、万象HDは2018年8月期から2020年同期まで、3期連続で営業赤字を計上。2020年同期末の債務超過額は12億9,000万円にまで膨らんだ。

万象HD

支援申し入れもキャッシュアウト止められず

 軌道に乗らない工場の操業、返済のめどが立たない金融債務。コンサルティング会社の経営指導や資金援助を受け入れたほか、2020年中旬には埼玉県中小企業支援協議会に支援を申し入れ、再建の道を模索した。だが、抜本的な解決には至らず、資金流出を止める事は難しかった。
 また同時期以降、万象HDグループの支払いに関する情報が飛び交うようになった。一部取引先に支払遅延や延期を要請し、資金繰り悪化の露呈で信用収縮を起こした。取引先の警戒感は一気に強まっていた。
 グループ全体でのキャッシュアウトは月間約5,000万円。経営支援も焼け石に水の状態で、資金繰りはついに限界に達した。

 事業拡大のための設備投資は、そのタイミングと身の丈に合った投資かどうかが重要なポイントになる。

 万象HDは復興需要や建設市況の盛り上がりに背中を押され、復興補助金を受けて業績拡大への勝負に踏み切った。だが、多額の資金を投じた工場は、当初描いた利益を生むどころか、逆に足を引っ張った。

 会社の命運を左右する巨額の設備投資は、どんな企業でも常にリスクと隣り合わせにある。設備投資が足かせになった例は上場企業でも枚挙にいとまがない。あらゆる事態を想定したうえで実施したはずが、目先の業績拡大に追われ、冷静な判断を失うこともある。

 2月17日、都内で万象HDグループの債権者説明会が開催された。席上、申請代理人は、「現在、2桁に近いスポンサー候補がおり、3月位までに選定を進めたい」との見通しを示した。今後はスポンサーへ事業譲渡を柱にした再生計画案を作ることになる。工場が持つポテンシャルを高く評価している先が多くあるということだ。

 奇しくも東日本震災が発生して10年目の節目を迎える時に経営破たんした万象HD。経営破たんの要因になった工場建設には多額の復興補助金が使われたことは忘れるべきではない。工場にはこれまで以上に地域の経済復興の担い手となることが求められる。そのためにはまず、スポンサー選定による再生計画の策定が第一のハードルになる。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年3月17日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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