<金口木舌>キジムナーからのメッセージ

 「人間の閉ざされた知恵で、自然の仕組みを変えることはできない。なぜなら自然は人間だけのものではないから」。故中村透さんが作曲・台本を手掛けた創作オペラ「キジムナー時を翔ける」の中で、主人公のキジムナーが自然を破壊しようとする人間たちにこう歌いかける▼物語はリゾート開発で揺れる沖縄本島のある村が舞台。時を自由に行き来するキジムナーを通して、現代に生きる私たちに自然と人間の共生の大切さを訴える

▼中村さんはプログラムノートに「作家・作曲家として自分の足下を掘り起こすつもりでやってきた」と記す。北海道出身で沖縄に移り住んだ者として、沖縄への愛情を持ちながらも一歩引いて沖縄の現状を見詰め警鐘を鳴らす

▼近年、各地で豪雨による深刻な水害が相次ぐ。沖縄では海水温の上昇により、サンゴ礁消滅への危機が迫っている。背景には人間活動による地球温暖化がある

▼自分たちの生活がどれだけ自然への犠牲の上に成り立っているのか、私たちは知っているがなかなか改めることができないでいる。物語では人間は神であってはいけないと、キジムナーが自然と人間の微妙な緊張関係を教えてくれる

▼人間はもっと謙虚にならなければならない、そう問い掛けているようにも思える。自然との共存をそれぞれの行動を通して考え、深めていく時期にもう来ている。

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