「佐世保育ち」のリズム

 ジャズ演奏に心打たれた高校生、宮本大(だい)は来る日も来る日も、河原でテナーサックスを吹き続ける。石塚真一さんの漫画「BLUE GIANT(ブルージャイアント)」は、大が「世界一のジャズプレイヤーに、なる」とつぶやくシーンで始まる▲楽譜も読めなかった青年が世界を目指す姿は「がむしゃら」と言うのがぴったりくる。父も兄も、支える周りは温かい▲漫画が原作で、佐世保を舞台に映画もつくられた「坂道のアポロン」は、ジャズに心引かれた高校生たちの青春を描く。三木孝浩(たかひろ)監督の映画では、ドラムに熱中する千太郎を中川大志さんが熱く演じた▲いつもは明るい千太郎が、沈んだ声で明かす場面がある。「ドラムばたたくとが唯一の救いやった」。本当は寂しさを紛らわすため、ひたむきにやってきたんだ、と▲なぜだろう。一報を聞いてすぐに、この2作品を思い浮かべていた。佐世保市出身のドラマー、パーカッショニストの小川慶太さん(38)が参加するバンドのアルバムが米音楽界のグラミー賞の一つを受けた▲佐世保北高生の頃に教わった恩師によれば「謙虚で、真面目で、努力家」という。がむしゃらに、ひたむきに猛練習した往時があったからだろう。受賞アルバムを聴けば、躍動感あふれる“佐世保育ち”のリズムに圧倒され、心弾む。(徹)

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