横川良明『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』- 長らく絶望していた人生が、推しに出会ってちょっとだけ意味のあるものに思えたりもするわたしたちの大全

"推し"とは、令和の健康法としてもっと広まるべき

その日、わたしはブライダルエステのサイトをガン見していた。

なるほどなるほど、自分史上、最高の美か…。と、つぶやきながらコンテンツをクリックしていく。すでに時間は2時間近く経過、推しグループ・RYUTistのアルバム『柳都芸妓』は3回目のループ再生を終えるところだった。もちろんわたしは、結婚の予定もなければ肌やスタイルを露出して写真を撮ってもらうような予定もない。つまり、ブライダルエステが必要に迫られる状況にはないのだ。それなのになぜこんなことになったのか。

答えは、推しグループの過去最大規模でのワンマンが発表されたから、だ。

いや待ってほしい、大丈夫。一般的な回答になっていないことはわかっている。ただ、いわゆる"オタク"にはわかってもらえる気はする。

推しが時間を惜しみ努力をしつづけ、その結果、過去最高に輝くだろう日。それを見守るわたしたちの目には涙が浮かぶ。それこそが魔法のワード、「過去最大規模でのワンマン」だ。

その日までにオタクであるわたしができることといえば、推しのInstagramにイイネを押すことと、興味がありそうな人にYouTubeのMVとともにライブ告知のURLを送ること、

そして、推しに恥じない人間になることだけ……。

その結果、「推しのファンはちゃんとしているなと思ってもらわなければ(誰に?)、とてもじゃないが推しですなんて言えない(誰に?)、そのためには少しでも美しくあらなければ!」と、急に慌ただしくコスメやお肌のことを調べていたはずが、気がついたらブライダルエステのサイトにたどり着いていたのだった。ちなみに、くまなくサイトを見たあとにちゃんと冷静をとり戻し、サイトをそっ閉じするところまでが一連の流れ。

横川良明・著『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』はそんな意識"内向的に"高い系オタクや、

推しに出会ったことで長らく絶望していた人生がちょっとだけ意味のあるものに思えたりもするわたしたちの大全だ。

推しの公演までは死ねない! と糖質制限を始め、推しが心身ともに健康であることを願い、推しに足る人間であろうと他人にも優しくなり、推しがいることで自分を奮い立たせる横川さんの姿に共感するとともに、なんて健気なの……と推したい気持ちが湧き起こってくる。

あれ、わたし、この感情知ってる……

「横川さん、推せる!!!!!」

(推しが増えれば増えるほど人生は忙しくなるけれど、そのぶん幸せにもなれると思っているので、わたしは推しが増える"推し増し"は最高派。)

人を好きになり、応援をし、その人が好きなことをずっとしていられますように、あわよくばその姿をずっと見守っていられますように。ああ、わたしはこんなに邪心のない健やかな気持ちでいられるのか。なんて、自分のことは嫌いだけど、推しを推しているときの自分はちょっとだけ嫌いじゃないかも、と気づき始めたひとは、「はじめに」だけでもいいから読んでほしい。なんならわたしが買ってあげる(別名:配布芸)から読んでほしい。

推しがあなたを肯定してくれるのと同じ熱量で、この本もあなたを肯定してくれるに違いないから。そして、推しを好きでいることの幸せをあらためて感じさせてくれるから。

ああ、今すぐに、この本について、「わかる〜〜〜〜〜」と語り明かしたい。ノンアルのシャンメリー的なやつを飲みながら、物理的には酔わずに推しへの気持ちで酔いつぶれたい。わかりすぎて、「わかる…」くらい心底わかるのテンションになるまで語り明かしたいのだ。自分にあてはまるところに付箋をはって読書会をしたい。(いつか来る(かもしれない)その日のために付箋を貼っていたら、あやうく全ページにはるところだったので諦めて剥がした。)

書籍を一冊読むだけでもこんなに情緒が高ぶってしまうくらい、自分自身には興味がもてない情熱の偏ったわたしだが、ただ、推しが世界に生きていることで、「わたしはこの人が好きです!」と大声で言えるように、少し体重を落とし筋トレをはじめ、パーソナルカラーを意識したメイクと骨格を意識した服をそろえ、ちょっとだけ痩せたしそこそこ健康的になった。前の自分よりも、「まぁ憎めないやつだよな」と思うくらいはできる…かもしれない。

推しがいることでメンタルはもちろん、フィジカルまで健康になるのだから、令和の健康法としてもっと広まるべきではないだろうかということ。さて、すっかり"横川さん推し"になってしまった

……横川さんの現場はいつ、どこで開催されますか?!

(Text:成宮アイコ)

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