3D時代の歯科インプラント治療(前編)

立体画像システムの重要性 3Dデータがもたらす恩恵

Q. 近年の歯科インプラント技術の発達について特記すべきことは?

A.

ここ10〜15年で、歯科インプラント技術は大きく進歩しました。歯科業界全体のデジタル化が進む中で、患者の情報を平面(2D)ではなく、立体(3D)で得られるようになったことが大きなポイントです。特に、「今週の英単語」で解説している3次元レントゲン画像システム「歯科用コーンビームCT(以下CBCT)」技術の普及は、インプラント治療だけでなく、歯科治療全体を底上げしたと言っても過言ではありません。

歯科治療の過去を振り返ると、「高額な治療を受けたのに数年してまたやり直すことになった」といったケースが多々あり、そのために歯科医のモラルが問われてしまう時代もありました。しかし、当時は2D情報しか得られなかったことが、治療がうまくいかない大きな原因だったとも言えます。

近年は、CBCTによる3Dデータの取得が可能になり、歯科医はこれまでは得られなかった詳細な患者情報を基に、個々の患者にとって最適な治療計画を立てることができるようになりました。

立体(3D)のレントゲン画像を、コンピューター画面上で再生し、あらゆる角度から骨、歯、歯茎の状態を知ることで、最適な治療選択肢を患者に提供できるようになった

Q. 例えばどのようなケースがありますか?

A.

前歯のインプラントを考えていた患者さんがいました。従来の平面レントゲンだけを見ると、容易にインプラントが可能なケースなのですが、3Dデジタル画像をコンピューター画面で回転させ、あらゆる角度から見ると、前歯が生えている角度の関係で、歯根が骨からはみ出ていることが分かりました。

自分の歯が骨からはみ出ていても問題はないのですが、インプラントの素材はチタン合金(titanium)ですから、完全に骨に埋め込まれている必要があります。この患者さんは別の方法で前歯を治療することになりました。

これが平面レントゲンしかなかった20年前なら、インプラントをしたものの、問題が発生し、数年後にまたやり直していたでしょう。3Dデータの重要性が分かる、とてもいい例だと思います。

CBCTは、主にインプラントやクラウン治療のために開発された技術ですが、今では一般歯科のレベルでも大変有用になっています。われわれ歯科医は、可能な限り歯を守ることが本来の仕事なので、抜歯の決断は容易ではないのですが、どうしてもという場合はあります。3Dデータがあれば、抜歯か否かの決断を、自信を持って下すことができます。

Q. インプラントの審美面での進展は?

A.

当然ですが、近年のインプラントの患者さんは見た目も重要視されます。1980年代までは、歯を一本一本、全部インプラントにするのが基本でしたが、ここ10〜15年の研究により、インプラントは1本スキップしながら埋め込む方が、見た目にも機能的にもいいことが分かりました。

奥歯の場合は、インプラントの数が多い方がいい場合もありますが、それ以外の場所、特に上下の前歯の場合は、間隔を空けてインプラントを埋め込み、ブリッジを組み合わせた方が、審美効果が上がります。その理由は、インプラントが2本隣り合わせに埋め込まれると、その周りの歯茎がうまく盛り上がってこないからです。つまり歯茎がインプラントをしっかり包み込めなくなるため、見た目が悪くなります。

このように、インプラントの常識はどんどん変わってきています。(後編につづく)

ヨハン・キム先生 (Yohan Kim, DMD, FICOI)

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一般歯科・審美歯科・歯科インプラント専門医。 Fellow of the International Congress of Oral Implantologists (FICOI)。 Madison Dental Loft院長。 ペンシルベニア大学歯科学校卒業(DMD取得)、Coler-Goldwater Specialty Hospitalで研修。 NYU歯科学校臨床助教授、ベルビュー病院臨床教授、Hiossen® Implant Systemアドバイザー。 米歯科協会(ADA)、一般歯科学会他。

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