【阪神大賞典】ディープインパクト 記憶の薄いレースを一変させた武豊の賛辞

ディープインパクトの上がり3ハロンは自身のキャリアでダントツに遅い36秒8だった

【松浪大樹のあの日、あの時、あのレース=2006年阪神大賞典】

ディープインパクトのベストレースは?と聞かれても難しいですよね。おそらくは3冠制覇を果たした菊花賞、もしくは引退レースの有馬記念が上位2強とは思いますが、デビュー2戦目の若駒Sも相当でしたし、池江泰郎厩舎の担当記者ならトレーナーの悲願でもあった日本ダービーを挙げる方が多いのではないでしょうか。

皐月賞を除くすべてのGⅠ勝利をライブで観戦してきた僕が最も心に響いたレースはジャパンC。まあ、ディープインパクトのパフォーマンスというよりもディープインパクトの復活を信じたファンの〝願い〟というのかな。それを強烈に感じたことが理由なんですけどね。

2006年の阪神大賞典はキャリア9戦目のGⅡ競走。前走の有馬記念で初の敗戦を喫していたとはいえ、メンバー的に負けることが想像できず、単勝オッズの1・1倍も見慣れたものでした。2着トウカイトリックにつけた着差は3馬身半と楽勝は楽勝だったのですが、それでもディープインパクトのレースの中では〝常識の範囲内〟での決着でした。

張り切ってプッシュするようなレースではないでしょうし、阪神大賞典ならナリタブライアンとマヤノトップガンのマッチレースとか、オルフェーヴルの逸走とか、語り継ぐべきレースが他にも複数あるはず。そんな声は少なくないでしょうね。しかも、このレースを僕は競馬場で見ていない。テレビ観戦なんです。ファンの方々だけでなく、実は僕にとっても記憶の薄い一戦だったんですよ(苦笑)。

そんな阪神大賞典を記憶に残るレースにしてくれた方がディープインパクトの主戦を務めた武豊騎手でした。先ほど、僕は競馬場でレースを見ていないと書きましたが、その理由はレース当日にドバイへの出張を控えていたため。なので、阪神大賞典についての話を武豊騎手から聞いたのは翌週のドバイ・ナドアルシバ競馬場でした。

なんでも、阪神大賞典の当日、阪神ではとんでもない風が吹いていて、特に向かい風だった直線は走るのが困難なほどだったとか。稍重の馬場よりも風のほうが厄介な状況だったそうです。「ほとんどの馬がまともに走れなかったし、脚も持たなかった。上がり3ハロンの数字を見てよ。ディープのそれとは思えないでしょ? 上位に来ている馬(2着トウカイトリック、3着デルタブルース)は3000メートルよりも長い距離を得意にしている本当のステイヤー。そんなレースでも楽勝しちゃうんだから、どれだけすごいんだって。欧州の芝がどうとか、そんなレベルじゃない」と同騎手。

ディープインパクトの上がり3ハロンは次位トウカイトリックより1秒3速いとはいえ、彼の上がり3ハロンは自身のキャリアでダントツに遅い36秒8。雨中の一戦だった宝塚記念の34秒9がキャリア2番目に遅い上がりタイムなのですから、この一戦がいかに特殊だったのかをわかってもらえると思います。

「連れてきたかったね、この場所にディープを。多分、勝てたと思うから」

言うまでもないことですが、この年のドバイシーマクラシックはディープインパクトに初めて土を付けた馬・ハーツクライが出走し、見事に勝利を飾ったレースです。ともすれば、海外でリベンジなんて発想になってしまいますが、世界を飛び回るトップジョッキーが考えていたのはそんなことではありません。

「ヨーロッパの馬の3月はまだシーズンオフと言える時期。ドバイはどうしてもシーズン初戦になっちゃうので意外と難しいんだよね。ゴドルフィンの強い馬はメインのワールドカップに行くことが多いし、そういう意味でもここの芝のレースは単純にチャンスだと思う」(武豊騎手)が正しかったことは近年の日本馬のパフォーマンスが示す通りですよね。

この2006年は僕にとって最も印象深い一年で、そのピークが3月のドバイでした。というわけで、来週はこの続編を披露したいと思います。

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