「夜をオン」にすると見えてくるもの 「光害」をあらためて考えてみよう

夜をオンにする前(Before)(Credit: Jeff Dai (TWAN))

星だけが輝く真っ暗な夜空を体験したことはありますか?

地平線から地平線まで続く天の川銀河の光の帯は、一般的に知られている素晴らしい光景です。しかし、大都会やその近くに住んでいる人は、街の明かりが地球の大気に反射して、月や数個の星しか見えないため、このような光景を見たことがないかもしれません。

国際天文学連合(IAU)は、「光害(ひかりがい)」について理解を深め、将来的には光害を軽減するために、人々に「夜をオンにしよう(Turn on the Night)」と呼びかけています。「夜をオン」にするとは「明かりをオフ」(Turn off the Light)にすることでもあります。

冒頭の画像は2019年に中国浙江省の開化県で撮影されたパノラマ写真です。山並みの向こうに見慣れたオリオン座やシリウスが見えています(Before)。これだけでも素晴らしい光景ですが、照明を落としてみるとどうなるでしょうか?

夜をオンにした後(After)(Credit: Jeff Dai (TWAN))

オリオン座やシリウスだけでなく、アーチ状の天の川銀河の帯と数え切れない星が写っています(After)。人類は何千年もの間、暗い夜空の下で生活してきました。その夜空とつながることは、自然遺産としても文化遺産としても重要です。

しかし、光害に関わる問題は遺産としての「星空」だけにとどまりません。国際ダークスカイ協会東京支部代表で東洋大学准教授の越智信彰氏は光害の悪影響を4つ挙げています。

①天体観測への影響:美しい星空が眺められなくなるだけではなく、天文学の専門的な研究や子どもたちの教育に支障をきたします。

②生態系への影響:生物の行動パターンに影響を与え、生態系のバランスを崩す恐れがあります。

③人間への影響:快適性(睡眠妨害など)、安全性(眩しさによる事故など)、人体への影響(体内バランスを崩すなど)が考えられます。

④エネルギー資源の浪費:過剰・不必要な光の使用は、エネルギーの浪費であり、地球温暖化にもつながります。

ユネスコは2018年から毎年5月16日を「国際光デー(International Day of Light)」(1960年5月16日にレーザーが開発されたことに因んでいます)と制定し、光が果たす重要な役割を再認識する日としています。照明も日々の生活で重要な役割を担っています。そのことを認識した上で、越智氏が語っているように「人間にとっての利便性と、環境への影響を最小化することのバランスが大切」だと言えるでしょう。

以下の画像は2015年7月にISSから撮影された日本列島です。日本列島の海岸線に沿うように、とくに東京を中心にして南西方向(画面上方向)へと大都市の光が連なっているのがよくわかります。

ISSから見た日本列島の夜の都市(Credit: NASA,Scott Kelly)

「夜をオン」にすることと「明かりをオフ」にすることは完全にイコールではありません。しかし、そのバランスをあらためて考えてみることは、とても重要なことではないでしょうか。

Image Credit: Jeff Dai (TWAN)、NASA,Scott Kelly
Source: APOD (1) (2)、東洋大学INTERNATIONAL DAY OF LIGHT
文/吉田哲郎

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