福島第1原発で見つかった「桁違い」の高濃度汚染 原子炉格納容器の上ぶた、デブリに匹敵の4京ベクレル

東京電力福島第1原発2号機の原子炉格納容器上ぶた=2018年11月(東電提供)

 史上最悪レベルの原子力災害となった東京電力福島第1原発事故から10年の3月、原子力規制委員会は事故原因に関する報告書を取りまとめた。炉心溶融が起きた1~3号機の原子炉格納容器の上ぶたに、溶融核燃料(デブリ)に匹敵する高濃度の放射性物質が付着していると指摘し、今後の廃炉作業に警鐘を鳴らす。廃炉の計画は大幅に見直しを迫られる可能性が高く、政府と東電が「2041~51年」としている廃炉の完了は極めて困難な情勢だ。(共同通信=広江滋規)

 ▽上ぶたがセシウムを「捕獲」

 格納容器の上ぶたは鉄筋コンクリート製の3層構造。現場でロボットを用いて測定した放射線量などから、いずれも上から1枚目と2枚目の間に、1号機で100兆~200兆ベクレル、2号機は2桁違う2京~4京ベクレル、3号機は3京ベクレルの放射性セシウムが存在する可能性が高いと結論付けた。それより下層の詳細や付着したメカニズムは分かっていない。

 事故当時、1~3号機にあったと推定される計約70京ベクレルの放射性物質のうち、大気中に放出されたのは約1・5京ベクレルで、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の約8・5京ベクレルに比べ少なかったとされる。規制委の調査チームは「上ぶたが放射性物質を捕獲したことが主な理由だ」と分析した。

福島県双葉町の海際から望む東京電力福島第1原発=9日

 一方、人を容易に寄せ付けない高濃度の汚染は、今後の廃炉作業に影響を及ぼしかねず、更田豊志(ふけた・とよし)委員長は「格納容器の底部にいると思っていたデブリが随分高い所(上ぶた)にいると考えてもらっても間違いない。デブリを取りに行く以前に、ふたをどけるところから大問題になる」と、危機感をあらわにした。

 1~3号機には計約880トンのデブリがあると推定されている。圧力容器内に残るデブリなどを上から回収する場合、ふたが障害になるとみられる。東電は、撤去方法に関し「現場で得られる情報に基づきステップ・バイ・ステップで検討する」とのコメントにとどまった。

 ▽爆心フロア

 「壊れてねえな。不思議な感じだ」。規制委の調査チームは昨年9月、3号機原子炉建屋の3階天井に空いた穴にカメラを付けたさおを差し込み、事故後初めて4階部分をのぞき込んだ。

 画像で確認した限り、床一面にがれきが散乱しているものの配管や足場などはほぼ無傷。3階天井の太いはりが下方向に曲がっていることなどから4階で水素爆発が発生したと考察し、激しい損傷を想定していた調査チームの岩永宏平(いわなが・こうへい)企画調査官は戸惑った。岩永氏は「水素爆発の圧力波が均等に広がったため、配管などの小さな設備はあまり影響を受けなかった」と話した。

東京電力福島第1原発3号機の原子炉建屋で、損傷した3階の天井からカメラを入れて4階を調べる原子力規制委員会の調査チーム=2020年9月(規制委提供)

 報告書によると、福島中央テレビ(福島県郡山市)が第1原発の南西約17キロに設置していたカメラの映像解析の結果、3号機の爆発は4階部分で発生した水素爆発で5階の屋根が損傷し、直後に建屋内に残存していた水素を含む可燃性ガスが燃焼。球状の噴煙を伴う上昇気流が、巨大な屋根の破片を上空約200メートルまで噴き上げた「多段階事象」だったとした。

 ▽逆流

 また格納容器の圧力を下げるために放射性物質を含む蒸気を放出する「ベント」が、2号機では一度も成功しなかったと判断した。1、3号機のベントによる蒸気が配管を逆流したり、2、4号機に流入したりしたことも確認した。今後、配管の構造などを詳しく調べ、規制に反映させる。

原子力規制庁の安井正也特別国際交渉官

 調査チームリーダーの安井正也(やすい・まさや)特別国際交渉官(前原子力規制庁長官)は「1回結論を出しても反証が上がってくるかもしれない。それを恐れずまた新しいデータを集めていく。調査がこの1年でおしまいなんていうことには全くならない」と話した。

 規制委は2013~14年に1、4号機の原子炉建屋などを現地調査。放射線量が低下したことから19年9月に調査再開を決定し、2、3号機の原子炉建屋に立ち入った。

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