南島原「堂崎港埋立地」 経済浮揚 鍵握る“一等地”

地域経済浮揚の鍵を握る堂崎港埋立地=南島原市有家町(ODAWARA Film提供)

 県営事業として工事が進む長崎県南島原市有家町の堂崎港埋立地(約22ヘクタール)。計画から30年を経て「輪郭」が見えてきた。市は2025年の完成後に購入予定で、地域経済浮揚の「切り札」として企業誘致を進めていく。総面積170平方キロメートルのうち森林面積が約3割を占めるなど中山間地域が多い同市で、平たんかつ広大な一等地となるだけに利活用へ市民の期待が膨らむ。

 埋立地は、雲仙・普賢岳の噴火・土石流災害に伴い発生した土砂などの処分場として1991年に県が計画、97年工事に着手した。総事業費は約41億円で、そのうち市の負担分は約8億円。これまでに搬入された土砂は約133万立方メートルで約98%(全体で約135万立方メートル)が完了した。市が将来的に全区画を購入する予定となっている。
 旧有家町は94年にスポーツ・レクリエーション施設のほか、商業施設、住宅用地など、さまざまな活用を見込んだ開発構想を策定。しかし、少子高齢化や地域経済の縮小、町づくりなど社会情勢の変化に伴い、県と市は「旧有家町の利用計画は実現性に乏しい」と判断した。2019年以降、利用計画の変更を検討・協議。昨年9月、産業振興に直結する「流通施設用地」「業務施設用地」に用途を変更した。
 市財政課は「県の土地鑑定評価額に基づいて県からの購入額が決まり、その額を基本として民間事業者への払い下げ価格を決定する」としている。
 同市は19年、埋立地の活用方法について民間事業者から広く意見・提案を求める「サウンディング型市場調査」を実施。調査に参加したJA島原雲仙が施設整備に向けた取り組みを検討している。同課は「民間活力の導入を基本とし、物流を伴う産業だけでなく、サービスやエネルギーなど新規産業の創出を含め幅広い視点で考えていきたい」と意気込む。
 だが、人口減と経済低迷が著しい同市の企業誘致は厳しい情勢。市商工振興課は「水の豊富さは有利に働くが地理的条件で不利な点がある」と言う。市は東京駐在員の配置のほか、企業などの設置奨励金や固定資産税の減免、サテライトオフィス支援事業補助金など施策を講じているが、新市誕生の06年以降、誘致実績は3社にとどまっている。
 60代の無職男性は「若者の雇用対策として埋立地を有効活用してほしいが、コロナ禍も重なり、全国的に景気低迷が続く中、南島原に進出する企業があるだろうか。空き区画のままだと市の負債になる」と不安を抱く。
 市は島原半島と九州自動車道を結ぶ延長約50キロの自動車専用道路「島原道路」の完成に期待を寄せる。
 現在、同埋立地から最寄りの長崎自動車道諫早インターチェンジ(IC)まで約56キロの所要時間は、車で国道251号を走行した場合、90分程度。島原道路が完成すると、50分程度に短縮できる見込みという。しかし、県島原振興局によると、これまでに供用開始したのは全11工区のうち「島原深江道路」(4.6キロ)など6工区(計19.1キロ)。残り5工区(計31キロ)は整備中となっている。
 松本政博市長は「島原道路の完成は市民のみならず島原半島の皆さんの悲願。アクセスが良くなれば、国道に面した堂崎埋立地の利用価値も高まる」と話している。

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